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夜の女王

皆さんは夜の事を、よく考えますか?
私は何かに付けて考えています。

赤い地球の瞳がゆったりと寝そべり
街が静かに眠りに落ちると、やって来ます。

時に、海底に顔を似せ(まるで、古代絵画の様)
私に、宝箱の中身を思い出させようとする。

皆さんいつもどの様に、
夜と過ごしているのですか?

何人の物差しも通用しない、という点が
私は素晴らしく、特別に思うのです。

「モーツァルトの魔笛の舞台装置デザイン」カルル・フリードリッヒ・シンケル

The Magic Flute Opera by Wolfgang Amadeus Mozart. 

Set design for second scene, 
The Queen of the Night’s Hall of Stars
−Karl Friedrich Schinkel(1815)

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初めてこの絵画を見た時、
ひしめきあう圧倒的な美しさに驚きました。

私は建築や絵画を眺めるのがとても好きなのです。
難しい事はまるで解らないのですが...

理想がゆっくりと立ち上がり、立体に姿を表す時というのは、
底抜けに恐ろしく呼吸を忘れてしまう様な
夜の迫力に、少し似た面影を見せる事がありますよね。


夜の女王の名に、この上なく相応しい夜がありました。
上品に微笑む軽やかな三日月の光、
丁寧にこの夢を縁取る光、生命の常夜灯の様です。

私が知り得なかった素晴らしい夜。
丁寧に持ち帰り、地球のため息が流れる部屋の壁に
掛けました、もう手放す事はないでしょう。

それからというもの、暫く私は夜の言葉を
探し歩きました。いつから瞬きを始め、いつ眠り込むのか。

私の夜とあなたの夜は、どんなに異なる表情なのでしょうね。


「夜の女神ニュクス」オーギュスト・レイノー
La Nuit -Auguste Raynaud

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世界を覆う様に、夜を引き連れた女神。

ギリシア神話では、ニュクス(Nyx)は世界の初まりの
混沌(chaos)から生まれた偉大なる夜の女神。
その力たるや、神々の王であるゼウスすらも
恐れる程でありました。

世界の始まりにはまず、夜が生まれていたのですね。
夜に優しさがひそむのは、その為かもしれません。

ニュクスは同じく混沌から生まれた幽冥、エレボスと結婚し、
昼の女神となる、ヘメラ(Hemera)を生みます。
ニュクスとヘメラは、西の果てにある夜の館に暮らし、
一方が帰ってくる時、他方は館を出て行かねばなりませんでした。
これは私達の、夕暮れと夜明けです。

2人は、昼と夜の狭間にすれ違う度、
挨拶は交わすものの、共にいる事はありませんでした。

彼女達の愛情や哀しみが溶け出しているから、
夕暮れと夜明けはあれほど美しいのかもしれませんね。

ニュクスには、エレボスに頼らず自分だけで
生んだ、多くの子供達もいました。
そのうちの1人はニュクスのお供としてついてる
眠りの神、ヒュプノス(Hypnos)です。

夜のお供が眠りの神だなんてとても浪漫がありますね。

またニュクスの子には、争いの女神エリスがおり、
ヒュプノスの妹にあたります。
彼女から人間の死と苦しみの原因となる
あらゆる災いが生まれました。
かの有名なトロイア戦争を引き起こした女神でもあります。

またニュクスは英語の夜、
Nightの語源でもあると言われています。

ニュクス(Νύξ)がドイツ語でナハト(Nacht)となり、
これが英語のナイト(night)に継承された様です。


世界中の人々が夜を考え、夜を想った事でしょう。
たくさんの夜の表情は散らばって、
私はいくら考えても、足りないと感じます。

どこか恐ろしくもあり、偉大で美しく
この際限のない、どこまでも自由な夜を。

夜が広がると、世界は少し力を抜いて
微睡みを瞳に招くのです。
靴を脱ぎ捨て、肩の重石も
暫し置き去る事にしましょう。

この瞬間は何よりも完璧で、
優しくあなたを労うことでしょう。

この優しい群青が、あなたをまた眩しい
朝日まで導いてくれますよ。

その時まで、心地よく
夜の女神に身を任せれば良いのです。


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