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原色の夏

1年の曲がり角で
ばったりと出会います。

あなたのもとにも
もう、やって来ましたか?

それは決して忘れたくない風
太陽がのんびりと寛ぐ午後
久しく歩く気持ちの良い田舎道
自由を運び巡る夜

それらを抱えてやってくる
古からの友人、原色の夏。

拝借させていただいた
美しい一瞬を閉じ込めた絵画たちは
Jeff Daniel Smithさんの作品たちです。

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私はこの季節が好きで堪らない
でも嫌いで堪らない、気もするのです。

憎らしいほど綺麗な表情をしたり
切なくてむせる程の潮風を薫らせたり

美しく、無限を偽るのが上手なのに
時々ひどく寂しいのです。

あまりに青すぎて、そして
自由すぎる空が、何もかも
奪い去ってしまうのでは無いかと
膝の裏側で怯えてしまいます。

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私は幼い頃から、夏には
死の香りを感じるのです。

それは世間が涼しさを求めるからか

寛大な祖父が亡くなったのが
真夏の日だったからか

優しい手が焚く線香の香りが
転がる様に生きる私達を
立ち止まらせるからなのか

私はこの季節に、
考えさせられるのです。

それは見落とされる世界や、景色
もう2度と帰れない記憶。

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私は浜辺に立ったり、海に浮かんだり
夏の真ん中に佇みます。

季節とは人間に優しく
切なさを土産に置いていきます。

私はそれをポケットに
少しずつ入れて持ち帰ります。

幾年も重ねてから、そっと覗くと
それは信じられないほど
複雑で美しい色に
すっかり染まっているものです。

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それはじんわりと溶け出し
私の瞳まで染め上げるのです。

たどり着いたどこかの遠い景色に
懐かしい面影を感じたり
泣きたくなる程水面が輝くのは
私の複雑になった瞳が
感情へ、色付いた景色を運ぶから。

私はこの季節が好きで堪らない
でも嫌いで堪らない、気もするのです。

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頭から爪先までの切なさに
すっかり染まって、一夏の
変わりゆく表情を吸い込み

私は終わりゆく全てに
悲しみすぎる必要は無いのだと
何度でも気が付くのです。

夏は複雑で一瞬の真理
儚くて優しい記憶を
私の固く握った手の内側へ忍ばせ
水平線に帰り行くのです。

恐ろしくなるほど大きく
優しい背中が
またやって来ます。

眼差しを磨いて
そっと迎えましょう。




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