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「ドル」と「ポンド」のルーツ

かつて世界を支配した栄光ある大英帝国の通貨「ポンド」と、やや力は衰えたものの、いまだ世界の基軸通貨としてとしてその力は比類ない「ドル」。

世界中でその名を知らぬものはないほど有名な通貨ですが、両者の呼び名は一体何処から来ているか…。


この2つの通貨、源流をたどると同じ所に辿り着きます。

それはチェコのボヘミア地方

や南米大陸で大量に産出された「銀」です。

15世紀末ごろのチェコを支配していたのは、ハプスブルク家の神聖ローマ帝国です。

ヨーロッパはその頃、通貨に関する大きな悩みを抱えていました。

それは通貨(銀貨)の品位の低下です。
その原因は

・戦争による財政悪化
・貿易による銀の流出

でした。
各国が多額の戦費を賄うために低品位の銀貨を濫発し、さらに東方との交易で輸入品の代金として大量の銀が流出していたのです。

この状況に危機感を抱いたハプスブルク家のオーストリア大公、ジークムント

は、1484年、通貨改革に乗り出します。

当時、悪いもので銀含有率が一ケタまで落ち込んでいた銀貨の銀含有率を、一気に93.7%まで引き上げた通貨、「半グルデングロッシェン」を発行したのです。

この銀貨の発行は実験的なものでしたが、高品位の銀貨を世間は大いに歓迎し、さかんに流通しました。
そこでジークムントはこれをもとに、1486年に重さ31グラムの大型銀貨、「グルデングロッシェン」

を発行したのです。

「グルデングロッシェン」は、「グルディナー」という愛称で呼ばれ、各地でグルディナー銀貨を真似た銀貨が発行されました。

グルディナー銀貨をさかんに鋳造した地域のひとつが、ボヘミア(チェコとドイツの国境付近)でした。

16世紀初頭、この地域では新たな銀鉱山が発見されたのです。
その名は「サンクト・ヨアヒムスタール」
サンクト・ヨハヒムは「聖ヨアキム」(右の人物)

から来ており、タールは「谷」という意味です。

16世紀に入り、ヨーロッパでは商取引が活発化。
それに伴い、新たな基軸となる通貨が求められていました。
そこで、ハプスブルク家はグルディナー銀貨よりはやや質を落とした銀貨を大量に鋳造します。
当初は銀を産出するそれぞれの谷の名前を冠していましたが、まとめて「ヨハヒムスターラー」と呼ばれるようになります。
さらに、略して「ターラー」と呼ばれるようになったのです。

「ターラー」はヨーロッパの基軸通貨となり、各地で同じ基準の銀貨が発行されます。

そしてターラー銀貨は、スペインでも流通するようになります。
その際やや呼び名が訛り、「ダレラ」と呼ばれました。

スペインといえば、かつて世界を制覇した大航海時代の強国です。
スペインが支配した植民地といえば、中南米ですね。
アステカ帝国を滅ぼしたエルナン・コルテス

インカ帝国を滅ぼしたフランシスコ・ピサロ

などは有名です。
日本とかかわりが深い人物で言えば、フランシスコ・ザビエル

といったところでしょうか。

スペインは、征服したメキシコやペルーの銀鉱山から採掘した銀で大量のターラー(ダレラ)銀貨を鋳造しました。
そして、イギリス植民地のアメリカとの密貿易で、この銀貨を使って支払いをしていたのです。

そんな事情で、植民地時代のアメリカは、通貨単位は宗主国イギリスと同じ「ポンド」だったのですが、実際にはダレラ銀貨が流通しているという状況でした。

そして、アメリカが独立。
その際に通貨単位をどうするか…という話になります。

最終的に、一番身近に流通していた「ダレラ」を通貨単位として採用。
これが「ダラー(ドル)」として現在に至ります。
ちなみに、初期のアメリカダラー銀貨は、重量およそ26.7g、うち銀の含有量24gほどなので、銀品位はおよそ90%になります。
現在の1ドル貨幣は黄銅製で銀は含まれていませんし、現在の1ドルで銀を24gも購入することはできません。


ちなみに、かつて世界にはもっと「強い」通貨が存在しました。
それは大英帝国の通貨、「ポンド」です。
正式には「スターリング・ポンド」といいます。

ポンドは元々は重さの単位。
古代メソポタミア時代から、1人が1日に食するパンを作るために使われる小麦の重さを示す単位でした。ちなみに、
1 ポンド = 0.45359237 kg
だいたいですが、450グラムくらいです。

一方、通貨の「1ポンド」とは、

1ポンドで銀0.45359237 kg(約450g)と交換可能

という意味です。
通貨の歴史でいう銀兌換ですね。

※兌換
かつて存在した、価値のある貴金属との交換を保証することで通貨価値を保つシステムのこと。
歴史上、兌換の対象となる貴金属は、金や銀が主。

1ドルは銀26.7g、1ポンドは銀450g。
この数字からも、当時のポンドの強さがうかがい知れます。
今のイギリスに当時ほどの力はありませんが、今でもロンドンは世界の金融センターの一角として確固たる地位を保ち続けています。

通貨ポンドの変遷に、大英帝国の栄枯盛衰を見るのも面白いかもしれませんね。

このように、ドルもポンドも、ルーツをたどると、当時のヨーロッパで最も流通していた「銀」にまつわる所にたどりつくのです。


おまけ

ちなみに、「スターリング」とは「純銀の」という意味を持ちます。
ただ、実際には銀品位100%ではなく、92.5%の合金です。この品位の銀は現在でも「スターリング・シルバー」と呼ばれています。

銀はかなり柔らかい金属で、品位100%の純銀貨幣(コイン)は耐久性の面で実用に向かないため、7.5%の銅を混ぜて合金にすることで実用的な強度を保っていました。
そう考えると、半グルデングロッシェン(銀品位93.7%)もかなり攻めた感のある、実用スレスレの銀貨だったことが想像できます。


というわけで、今回はこれくらいで…。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

※文中の画像はWikipediaから引用させていただいています。

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