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【読書感想】ポジティブサイコロジー 不登校・ひきこもり支援の新しいカタチ 松隈信一郎

従来の心理学は、うつや不安などのマイナスな部分に目を向け、それを解決していくことに焦点を当てたアプローチであったが、人間に本来備わっている力に目を向けることで、よりよく生きていくことができるという考えから生まれたのが、ポジティブサイコロジーである。
本書では、その効果の科学的根拠を示し、不登校やひきこもりの若者のストレングス(強み)を生かしながら支援をしていく著者の実践的アプローチを紹介する。

Amazon作品紹介より引用

おすすめ度:★★★★★

感想

私視点での偏った感想にはなりますが、個人的に、めちゃくちゃタメになったし、読みやすいしで、超おすすめしたい!!という本でした。

タイトルに「不登校・ひきこもりの若者」とあるので、今、不登校・引きこもりで悩んでいる方・親御さんはもちろん読んでみてほしいんですが、不登校・ひきこもりの子の関係者だけでとどめるにはもったいない!!
子育てしている人、部下育成している人、コーチ業の人、自分自身の内省や気付きを促すのにも適してる本だと思います。私も読みながら、「自分はどうだろうか?」と考える時間が何度もありました。

著者の松隈さんは、ポジティブサイコロジーとストレングス(強み)研究のスペシャリストで、大学や医学会での活躍に加え、Gallup社のシニアコンサルタントも兼任しています。
私が数年前、Gallup認定ストレングスコーチ講習会に参加したときも、講師としてさまざまな知見を与えてくださいました。

松隈さんの人柄がにじみ出る文章で(っつっても人柄を語れるほど多くを知らないのですがww)、やさしく、わかりやすいので、するするっと読むことができます。

「VIA」と「クリフトンストレングス」


個人の強みに着目した診断で代表的なのが「VIA」と「クリフトンストレングス」です。それぞれの特徴は以下の通り。

VIA

一つ目は、「VIA」モデル」という、「強み」を「人格の一部」としてみるモデルです。このモデルでは「強み」を「特性の強み」(Character Strengths)と呼びます。
ポジティブサイコロジーの提唱者であるマーティン・セリグマン先生(ペンシルバニア大学)とクリストファー・ピーターソン先生(ミシガン大学)は研究チームをつくり、2000年代前半に三年間かけて、古代ギリシア哲学から各宗教の聖典、小説の名作に至るまで、時代や文化を越え、古今東西、人間の美徳と賞賛されている「徳性の強み」を収集し、分類してきました。その結果、人間であれば誰しも持つ24種の普遍的な「徳性の強み」を特定したのです。

p32 第三章 子どもの「花」(強み)を育てる① より引用

クリフトンストレングス(ストレングスファインダー)

VIAの「徳性の強み」が、「強み」を「人格の一部」として定義するのに対して、二つ目の大きな流れは、「強み」を「磨かれた才能」として考えるギャラップ・モデルです。これは、教育心理学者であったドナルド・クリフトン先生率いる世論調査・コンサルティングカイシャの米国ギャラップ社が分類したクリフトンストレングス(通称、ストレングスファインダー)が最も有名です。古今東西の文献研修をもとに人格的な「強み」を抽出したVIAとは異なり、ドナルド・クリフトン先生は各業界におけるハイパフォーマーと呼ばれる一流の人物、約200万人に半構造化面接を実施し、その中で、彼らが自然とできる「才能」を見出そうと試みました。
彼らの言う「才能」とは、「自然と繰り返し現れる思考、感情および行動であり、生産的に活用できるもの」を指しますが、面接によって十人十色、さまざまな「才能」が抽出されました。それらの「才能」は分析の結果、34種の集まりに分類することができ、また、それをさらに多くな四つの「領域」に分類することができました。ギャラップ社はこの「才能の集まり」を「資質(Themes)」と呼び、この資質に知識やスキルを身に着け、訓練して磨き上げたものを「強み」として定義しました。

P35 第三章 子どもの「花」(強み)を育てる① より引用

私もストレングスコーチの一人なので、クリフトンストレングスについては知っていましたが、VIAについてはそこまで詳しく知らなかったので、この本で違いを明確に理解できました。
VIAの「時代や文化を越えて美徳と賞賛されているもの」っていうのがなんだかすごいいいなぁと思いました。これら「強み」は、言ってみれば人の良心性を表しているものなワケですが、時代が違っても文化が違っても共通している、っていうのが、なんというか人間の根っこの部分に触れてる気がして、すごくグッときました。

ちなみにクリフトンストレングスの診断は有料ですが、VIAの診断は無料だったので、この機会に私も診断してみましたよ。

私の徳性の強み
1.愛情
2.ユーモア
3. 公平さ
4.寛容さ
5.誠実さ

(おまけ 私のクリフトンストレングスの資質Top5)
1.ポジティブ
2.社交性
3.コミュニケーション
4.適応性
5.学習欲

VIAは学生も受けられるし無料なので子どもたちにやってもらいたいなと思いました。

興味深かったのは、多くの不登校・引きこもりの人たちは、家にいるときにゲームやネットをやってることが多いんですが、徳性の強みはリアル・バーチャル問わず発揮されるので、バーチャルの世界で夢中にやってることのなかに強みがでていることがとても多いそうです。
現実では引きこもりだけど、オンラインゲーム内では、チームワークを発揮してメンバーをまとめみんなが楽しくゲームできるよう環境を整えている、なんて人がいる場合、その人は「チームワーク」とか「リーダーシップ」という徳性の強みをもっていたりします。そういうふうにバーチャルのなかで上手に強みを使えていることも多いので、そこから「自分にはちゃんと強みがあるんだ」と腹落ちしてもらうことがひとつのきっかけになるとのことでした。

たしかに子どもによって、好むゲームや面白いと感じるポイントは違います。たとえばうちの長男はゲームだとスマブラやフォートナイトなど対戦系・FPSが好きで、RPGもストーリーの流れにこだわって進めている一方、次男はマリオメーカーやマイクラなどクリエイティブ系ゲームをずっとやっていて、PRGだと最速クリアしたうえでバグを調べて細かい挙動を試したりと、全然違う楽しみ方をしています。ゲームの遊び方ひとつでも徳性の強みを垣間見ることができるのがとても面白いなと思いました。
子どもらにも「このゲームのどういうところを面白いと感じている?」って聞いちゃいましたしね。

「強み」をコントロールする

「強み」というと、いつでもどこでも常に良いカタチで現れるように感じてしまいますが、いつも良いカタチででるとは限りません。クリフトンストレングスの診断ででてくる資質は言ってみれば「クセ」なので、その「クセ」が悪くでて、逆にコミュニケーションの齟齬につながる場合も多くあります。ワークショップや個人セッションのなかでは、「これらの資質は『クセ』なので、常によく出せるように状況に応じてボリュームコントロールできるようにするのが大事」と伝えているんですが、VIAでもやはり同じなようで、自分の徳性の強みを認識して、意識してボリューム調整していくことが大事だと書かれていました。

結局のところ、自分をいかに客観視できるかなのだと思います。
クリフトンストレングスも、VIAも、それ以外のたとえばMBTIやエニアグラムなども同じで、診断した結果をみて終わるのではなく、それらの診断にでてくるキーワード(徳性の強みとか資質とか)を真に自分のなかに取り込んで、自分の言動が今、どういう背景(強み)で発せられたものなのかを客観視して振り返ることができるようになることが大事なのかなと。
自分だけで「自分を客観視しろ」といわれても難しいものがあるんですが、こういうキーワード(「徳性の強み24種」とか「資質34種」とか)があると、自分の言動がどこからきたものなのか、どう調整できそうなのかを言語化しやすくなるし、言語化できると、そこから試せるアクションも考えやすくなります。
それがこれら診断のもつパワーなのかなと。

本の最後で、不登校・引きこもりの人たちが、自分の強みを知ることによって前に進むことができた、というストーリーがいくつか紹介されていたんですが、どのストーリーも本当に感動的です。不登校・引きこもりのご家族をもつ方たちにとっては大きな希望を感じられるストーリーでした。
松隈さんがやってきた活動がもっと広がっていってほしいと切に思うし、自分も自分にできる活動していかないとな、と思いました。

ワタクシ的名文

お子さんも感情をもつ人間であり、人の成長は「心電図」のように上がったり下がったりしながら、遠くからみると全体的に右肩上がりになっているという具合に進んでいくものです。そのため、お子さんの気分がちょっと落ち込んだり、上がったりしたとしても、「よくなっている」「悪くなっている」などの評価は先延ばしにする必要があります。
人は「曖昧なもの」と同居することを嫌います。白黒はっきりすると理解しやすいため、脳も疲れませんが、曖昧なものと居続けると、脳は過重労働を強いられ、疲れるため嫌なのです。人はすぐに「よい」「悪い」と評価して、理解できる形にしたがる傾向にありますが、この「曖昧なもの」が「リアル」であり、白黒はっきり分けられるものの方が実際は少ないですよね。お子さんの状態が「よくなっている」「悪くなっている」という評価を一旦、先に延ばして、「曖昧な状態」と同居する、これは、お子さん云々ではなく、私たち、庭師の「成熟さ」にかかわる問題です。

P131 第六章 「庭師」の心得:親や先生の関わり方 より引用

不登校・引きこもりのお子さんとの関わり方についての内容なんですが、このなかの”評価を先に延ばして「曖昧なもの」と同居する”というのがすごく大事だなと私も思います。
私自身、仕事や日常生活ではけっこうこの「すぐに評価・ジャッジしない」というのはこだわっているところでもあります。評価するよりもニュートラルにその人のあるがままを知ろうとしているつもりだし、相手の視点でとらえようとしているつもり(限界があるのでできてないときもあるけど)。
ただ、特に子育ての場面では、短いスパンで「よい」「悪い」の判断をしてしまうことがあって、夫に相談して、長期的な視点でとらえなおしたってことが何度もありました。

「曖昧さと同居する」は難しいけどそれがリアル。
なんか、SNSでの炎上やらリアルでのトラブルやらって、白黒つけたり評価したがりな脳の志向がそのまま表出されちゃって生まれてるものだなぁとも思ってたりもするので、この「曖昧さと同居する」というのと、それが私たちの「成熟さ」に関わるっていうところにグッときました。

もっとどーんと構えて成熟した人間にバージョンアップしていきたい。
がんばろう。

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