ぶっちゃけ!中学受験受験座談会Vol.2 後記
この1ヶ月あまりは、自分の過去に向き合う棚卸し月間だった。ほぼ自分の半生を振り返っていた。
直接のきっかけは、タイトルのイベントにパネリストとして参加したこと。子供の受験事情について、不安を持つ地域の方へ、情報提供しようという趣旨のもので、わたしは「中学受験経験有り、がっつり塾通いしたひと」として体験を話すポジションだった。
それに伴う過去の振り返りと、当日も含め、自分にとって、とても意義深い機会になり、せっかくなので補足として、自分のことをもう少し伝えたいと思った。
中学受験
わたしは、中学受験を大人に強いられた子供だった。
『大人に強いられた』
この語り口でわかるとおり、今でもその体験を肯定的に捉えていることはない。
周りより出来が良かったわたしのために、親がよかれと思って通わせたであろう中学受験の塾は、わたしにとって、牢獄のような場所だった。わたしは行きたくなかったが、逆らう事はできなかった。
中学入試は、第一希望に一発合格した。
でも、この時の「自分の意志とは反していた」という無力感は、今でもわたしの精神に影を落としている。
外形の華やかさとは裏腹に、第一志望への進学は、わたしにとっては、親の言いなりになったわたしの弱さの象徴であり、喜べるものではなかった。
高校時代
高校の時も再度、わたしの希望は折られている。将来は勉強じゃなくて、芸術系のなにかをやりたい。そういったわたしの希望を、親と塾の講師は退けた。
「あなたにはそこまでの才能はないし、これからその能力を磨くのは大変だ。成績がそこそこよいのだから、まずは普通の(?)大学に進学すべきだ」と諭した。泣くほど悔しかったけど、自信がなく、親に逆らう勇気もなく、その言葉に反論できない自分がいた。
なんとかして、親ががっかりするような進路にしてやろう、そう思った。実学?就職に強そうな大学?そんなのクソ喰らえだ。人間の社会なんか大嫌いだ。一生、社会の役に立たないように生きてやる。
わたしは、あなたの人形じゃない。
オープンキャンパス
ある時、学内の掲示で見つけた高2の終わりのオープンキャンパスがひとつの転機になった。当時、学校の教科の中でいちばんお気に入りだった地球科学科(地学科)を含む、ある大学のオープンキャンパス。
「筑波大学」って東京のどこなん? そう思ってあまり深く考えず申し込んだそのオープンキャンパスの開催地は、茨城という未知の田舎だった。
なに、このだだっ広い大学! 寮があって、ここに住めるの? もし実家を出れば、親の支配を抜け出せるかもしれない・・・!
数学理科があまり好きでなくて文系コースを選んでいたけど、田舎の地球科学科は、とても魅力的に映った。遠い昔の化石の勉強なんて、現実の世界から程遠くて、世の中の役にはあまり立たないだろう。よし、自分にピッタリだ。
どうしてもここに来たくなってしまった。
推薦試験
いい子ちゃんだったおかげで、評定平均のスコアは問題がない。一般推薦試験なら今からでもなんとかなりそうだ。そこにもし落ちたら、本試験を受けよう。そう思って、学校で履修していなかった数Ⅲ・Cの独学を始めた。無謀な理転計画に、学校の教師はあまりいい顔をしなかったが、知ったことか。
例の、わたしの夢を否定してきた講師のいる塾で、マンツーでレッスンしてもらった(親の金で 笑)。プレッシャーの中でも、自分の意志で学ぶ数学は魅力的で楽しかった。それまで苦手意識があったけれど、数学を通して、宇宙は美しいのだなと思えた。数学を夢中で学ぶ自分は、少しカッコよかった。
推薦試験は、小論文と面接。その年は、今まで出たことがない英文の要約問題が出題されて、もともと文系のわたしには風が吹いた格好。面接の教官も、わたしが目玉で持っていったガイア仮説のトピックに興味を持っている方があたった。
2週間、ソワソワ待って、分厚い書類が家に届く。合格だ!
大学生活
筑波大学の生活は楽しかった。
付け焼き刃の理数力はあまり通用せず、地球科学科に分かれる前の科目履修は毎日が辛かったけど、そんなのはどうでも良いことだ。だってわたしが選んだのだから。
「家を出る」願いが叶い、好きな分野を選び、自分で選んだサークルに入り、自分で選んだ楽器(ギター)を手に持ち、夢中で駆け抜けて、いやなこともたくさんたくさんあったけど、総じて納得のいく時間になった。
博士課程に進んだが、自分のモチベーションでは研究者になるのは難しいと思い(※何かを論理的に突き詰める性格はしていないな、と思ったのと、上下関係につまづくなどした)、修士過程(2年)までで学生は終えることにした。
いよいよ楽しかった学生生活が終わってしまうけれど、きっとここで実家に帰ったら、わたしはまた牢獄に逆戻りだ。この頃の日記には、つくばにいたい、つくばにいたい、と繰り返し書いていた。
優秀なだけの弱い自分が嫌いで、好きな漫画の主人公みたいに、まっすぐ、強くなりたかった。
実家に帰って、親の顔色を見ながら、大嫌いな都会の無難な会社に就職したら、わたしはまた、自分を嫌いになってしまうじゃないか。絶対に嫌だ。
そしてわたしは、つくばに残ることになる。
過去と未来
人のせいにばかりしていた自分にサヨナラしたくて、やりたいことをやろうと思った。
つくばに残ったのは、わたしの幸せな未来のビジョンを、ここの土地に見出したからだ。わたしが初めて、自分で決めて、自分の意志で来た場所。
未来はいい。
望む未来に向かって走る勇気があれば、わたしの過去は報われ、わたしはわたしを好きになれる。
変えられない過去の結果だけにとらわれる時、わたしはわたしを嫌いになり、死にたくなる。
この1ヶ月は、過去の結果(中学受験)と、当時の気持ちにフォーカスしていたので、正直辛かった。
でも、いまのわたしを動かしているものや信念がどこから来ているのか、よくよくわかる、とても貴重な時間帯になった。
わたしのテーマは「主体性」なのだろう、と思う。これを奪われた、見失った、もしくは放棄した人間は、自分のことを人のせいにするようになる。それが不幸である事を、わたしはよく知ってる。
だから、そのようなひとがなるべく減って、皆が力を取り戻すように。
わたしのような、自分で決められない子ども、ティーン時代を過ごす人間が1人でも減るように。
わたしのメッセージは、そのために発せられている。
座談会では、聴衆参加の方から事前に、「自分の子供にも中学受験させますか?」という質問を頂いていた。
それに対するわたしの回答は、「『させる』という子どもの主体がない言葉は使わないで」。そこさえ叶っていれば、中学受験をしても、しなくても、何でもいいのだと思う。
中学受験がはらむ問題
上記のことは、実は、わたしと親の親子関係の問題であり、わたしの弱さと主体性回復の物語であり、中学受験の話は本質的にはあまり関係がない。
ただ、中学受験とか教育というのは、親と子の権力勾配と実行力(お金)の問題で、わたしと同じような構造の問題を引き起こすことが、ままある。
事前にFBに投じたポストには、近い歳の同じ状況の人のコメントが複数寄せられた。「被害者」はたくさんいる。
大人になったら、自らの足で「被害者」から降りることができるけれど、子供時代の時点では、わたしと彼らは間違いなく「被害者」であっただろう。
(※親とこの話をしても平行線で、悪いとは思っていないようだ。おそらく表面上の学歴の成果ゆえ、この選択は正しかったと思っているのだろう。目に見えるものだけで物事を見る人と、諍いを伴う対話をする気はもはやないため、当該ポストは親族を除いたFBフレンドのみの限定公開とした)
わたしが当時の心象風景をシェアすることで、こういう類の被害、加害を少しでも減らすことができれば、と願う。
なお、そうでない人(被害者でない人)の例は、座談会の中で、もう1人の東大生パネリストが示してくれた。彼はまず、進学に対して自分の意志があり、親御さんはそれを適切にサポートしたようだ。
大学の同級生のFBフレンドのコメントの中にも、ポジティブな体験談があった。友達が中学受験をするというので、自分も奮起して親を説得して受験した、というものだ。
意志が向き、親子関係が保たれる。中学受験には、そんな物語もあり得る。
それを知ることができたのは、よかった。
まとめ
主体性がないことの悲しさ、情けなさ、不幸は、子供も大人も同じだ。
正直、この国はそんな大人もとても多いように見受ける。
表面上、どんなに華やかな成果があったり、もの、お金を持っていたりしても、心のむなしさは覆い隠せない。少なくとも自分に対しては。
わたしの半生は、見えるものは、だいたい与えられているし、手にしてきた。それが贅沢なことだったのは、わかる。
でも、ティーンの頃にたまに電車に飛び込みたくなる程度には、病んでいた。(実際、飛び込みかけてやめたことがある。学校では部活を楽しむそこそこのリア充だったから、あそこで死んでたら、なぜ、とか言われるだろう)
人間を動かしているのは、見えるものの後ろに控えた、見えない価値だ。心の報酬。それは見えるものの何倍も大きい。
それが何か知りたくて見えない世界を探求しているうちに、占い師が商売にまでなってしまった。わたしは、こういう運命だったのだろう。
自分の意志で紡いだ未来は、過去をしっかり絡めとり、自分の弱さを意味あるものとしてくれる。わたしが嫌いだったわたしさえ、統合してくれる。
座談会の主催者さんを通じて、今回の感想をパラパラとお伝え頂いている。わたしたち3人の体験を通じて、様々なものが伝わったようだ。
これからの子どもたちと、その親御さんにとって、よい未来が選択できる材料になれば、こんなに嬉しいことはない。
ご参加、ご視聴、まことにありがとうございました。
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