次の約束

町子「次の約束せえへんのは・・・」
健次郎「粋」
町子「そう・・・ですよね。初めて意見が合いましたね」

NHK連続テレビ小説「芋たこなんきん」2006年10月12日

田辺聖子さんの半生を描いた「芋たこなんきん」(町子と健次郎のモデルは聖子さんとご主人)の一場面、二人が飲み屋で、スピーチのうますぎる人は野暮、禿とカツラはどちらが粋か、等々、粋と野暮について丁々発止、というところ。帰らなければならない時間となり、一旦席を立った町子が「次の約束せえへんのは・・・」と問いかけると、健次郎が「粋」と返す。ほう、男の人はそうなのか、と思うまもなく町子までが同意する。ほう、がはあ・・・になった。

なんで次の約束してくれへんの、ということばかり考えていた頃があった。相手はたまに電話してきて、今から会える? というばかりで、私の方からいついつあいてる? と聞いても、その日は○○がある、とかまだわからん、などという返事である。携帯電話もメールもない時代、相手が電話をかけてきた時こちらが留守であれば、その日はもう会えない。週末しか会えないのであれば間隔がどんどんあいてしまう。相手が忙しいのか、電話のタイミングが合わなかったのか、もう会う気がないのかわからない。わからないから不安になる。その頃のことが頭をよぎっての「次の約束をしないのが粋? はあ・・そんなもんですか」であった。

しかし、その後数年間のブランクを経て件の相手とまた会うようになった時には、約束に執着しなくなっていた。携帯電話のおかげもあるが、何より「次回」を疑わなくなっていたのである。またすぐ会えると思えば約束なんていらない。

私が次回を信じていないことに気づかなかった相手も、迂闊かもしれない。しかしその気持ちを伝えることができず、「約束してくれない」ということにばかりとらわれていたこちらも、野暮、というより幼稚であった。 (2017. 4)

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