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空港という不思議な空間を考えてみた話

空港が好きだ。

駅も好きなんだけれど、それとは何かが大きく違う。駅はやっぱり地続き、が基本で、そこですれ違う人達にもどこか、見えない糸が縦横無尽に繋がって、誰もがその織物の海の中を歩いていそうだ。「袖振り合うも多生の縁」といえるひとたちが各々の行き先に向かって歩いている感じ。

けれど空港は そこに来る人達もそこを出て行く人達も、頭のてっぺんに空に続く糸があって、ひゅん、ひゅんと糸によって吊り上げられたり降りてきたり、どこかへ行くために手続きして「乗り換え」る場所というイメージ画ある。
ここは「袖振り合うも」が薄い様な気がする。基本的に同じ便に乗り合わせる人ですら、縁という意味では駅よりも遥かに薄い感じがある。

だからだろうか。
空港で文字通り「縁」を強烈に感じることがある。心臓が揺さぶられて視界までが揺れるようなこともあれば すれ違った瞬間にいろんなことを察することができる相手というのもある。

初めてニューヨークに行ったのは当時の彼、今は家族となったひとに会うためだった。たった一人で長時間の国際線に乗るのは初めてで、英語もそれほど話せなくて、それでも行っちゃうのだから恋と若さというのはとんでもない無謀なエネルギーを持っている。

JFK(ジョン・F・ケネディ)空港は巨大だ。もとより空港好きな私がどれだけ目を輝かせたかは想像に難くないと思う。
初めて見る世界有数の巨大空港。どんな場所だろう。
でもJFKからマンハッタンまで、ちょっと距離があるのだ。一人旅でのアメリカが初めての私は、その巨大空港に着いたら彼が迎えてくれるはず・・・だった。だったのだが。

いない。

滅多にパニックにはならない自負があるけれど、流石にこのときはちょっと焦った。メールにはちゃんと便名と到着予定時刻を書いた。確かに30分早く到着したけれど、到着予定時刻になっても、それを過ぎても、全く彼は現れない。

ケータイ電話はなかったため、病院で支給されているポケベル(呼び出し音とともに、かけ直して欲しい番号もしくは短いテキストメッセージが送れる)に 到着したこと、ターミナルで待っていることを送ったが、同時に彼が「オフのときはポケベルを切っている」ことを知っていたから無駄とも分かっていた。
絶対いるわけも、外から電話して聞く訳もないのだが、念のためマンハッタンの彼の部屋の留守電にメッセージもいれた。

どうしよう、住所は知ってるからそっちにいったほうが良いんだろうか。(というか動きたかった。)いやいや、山ではぐれたときは地理に明るくないならじっとしてる、というのが原則。今私が動いてはいけない。

不安で心配でだんだん腹が立ってくると、とんでもない結論へ向かう思考が生まれたりもする。え、別れたかったとか?別れるならアメリカに飛ぶ前に言ってちょうだいな。フライト、安くないんですけど。いやいや、なにその支離滅裂な考え。そうやって自分をなだめるも、状況を理解する手立てがない。
空港の人達は相変わらず空に向かう糸を持って歩く。私とは繋がらない。

そしてやっと彼が現れたときは到着予定時間の3時間半後(早くついたのでほぼ4時間後)。不安になるのも怒るのにも疲れ果てて 恋人同士の感動の再会もへったくれもあったものではない。

移動中、無表情になっている私に「到着便を聞いてたのにJALだと信じ込んでいてそっちのターミナルでずっと待っていた」と言う。いつまでも出てこない、と腹を立ててメールを再度確認したら、初めて「ユナイテッド航空」便と気付いたと。いや、なんで間違えたあなたが怒るの。酷すぎるだろー、と思ったら笑ってしまった。

あの時のJFK空港、普段は他の人との繋がりを感じられない場所で、怒ったり悲しんだり不安になったりしながらちゃんと彼とのつながりは感じていた(そういう意味では大事にしていい縁なのだなと再確認はした)のは、多分気のせいではなかった。

その後今に至るまで、「現地集合」はこの人とは極力避けている。前科が大きすぎるから。

繋がっている人との関係性が浮き彫りになるような気がするのが、私にとっての空港なのかもしれない。

そういえば大学のとき、公衆衛生の授業(だと思う)で空港見学のグループに入ることになった。授業のテーマは・・・産業保険とか損なのだったと思うけれどしっかり目的を覚えていない。良くない学生だ。

ただ覚えているのは空港なのにバックヤードの世界は駅みたいな雰囲気だった。当たり前だけれど働いている人同士の縁が、ちゃんと横に繋がっていた。

帰り道に「路線バス」を使った。そう、私の大好きな空港は駅のように地続きの場所だった。仕事をしている人達はこうやってバスも使い、停留所から歩き家に帰る。電車の駅と近いところには商店街があり、路線バスで景色を眺めながら後にした空港からずっと、沢山のひとの縁という糸が縦横無尽に織られていた。

空港ではお客さんの行き交う場所と、バックヤードがうっすらと区切られ、人の繋がり方は表側と裏側で全く違う。そんな特殊なところも 私が空港を好きな理由なのかも。

まぁ、縁とかなんとかの前に、単に「空港そのもの」が好きなのだけど。ワクワクするじゃないですか、ここから私の世界はどう変わるんだろうって。地続きでは味わえない、飛行機に乗って降りたら全く違う世界にいる、って、もうそれだけでドキドキするよね。

はやく、世界が空港からあちこちに飛べるようになってほしい。

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