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つくると届ける

171.つくること

なにげなく観た動画だったが、とてもよかった。川谷絵音と山口一郎との対談風景を収めたものだ。

サカナクションを「新曲が出るたび一番早いタイミングで聴きたいバンド」と語る川谷の、いかにも尊敬する先輩を前にしたような口調が微笑ましくも誠実さにあふれていてとてもいい。実際ありえんほどサカナクションにくわしいし。

やがて話題は「80年代サウンド」に移り、ふたりの捉え方にはいくぶんかの温度差もありながら、そこで山口が明かした「忘れられないの」という楽曲(名曲ですね)制作時のエピソードがたいへん印象的だった。

そのとき「ポップスをつくりたい」とかんがえた山口は、あのユーミンに教えを請うたのだそうだ。まったく知らなかったですが、この世代のアーティストとユーミンが、ふつうに相談できる距離感でつながっているのって素敵なことですよね。

そんな山口にユーミンは、

5年後に評価されるものが本物のポップスなんだから、あんたもうやってんじゃない?

と言ったという。サカナクションの曲は、すでに多くの人たちから長く聴かれているのだからすでにポップスをつくっているじゃないか、と。

思うように好きにやってみなさいよ。そんなふうにポップス界の女王から背中を押された山口は、さぞかし勇気百倍だったにちがいない。

それにしても、さすがはユーミン、ことばに含蓄があるなあ。

良いものをつくるのは当然。でも、こういうサウンドでこうすれば優れたポップソングがつくれるといった魔法の公式はないのだ。

5年後にもなお聴かれ続け、また5年後に初めて聴いたひとにも新鮮に響く、それでこそ本物のポップスだからだ。つまり、5年後にもしっかり届くようあらゆる手を尽くして楽曲の射程距離を長くしなければならない。

つくることと届くこと。

そういえば、ユーミンはつくることと同じくらい届けることにもつねに全力を注いできたアーティストであった。

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