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デトロイト Detroit/キャスリン・ビグロー

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タイトル:デトロイト Detroit 2017年
監督:キャスリン・ビグロー

アリ・アスター監督の「ミッドサマー」で北欧娘とセックスしたがっていた役を演じたウィル・ポールターのインタビューを観ると、いかに辛い役所だったのかが分かる。レイシズムを意識しながらも、その渦中の役を演じ切った彼の役所は凄いと思う。この映画で何を描きたかったのかがよく分かるインタビューである。
この映画で描かれる1967年のデトロイト暴動から半世紀以上経った現在起きている、ブラック・ライブズ・マター運動と重なる部分が多い。この時の暴動については、デトロイトを拠点にしていたR&Bレーベルのモータウンのバックバンド「ファンクブラザーズ」を追ったドキュメンタリー「永遠のモータウン」でも描かれていた。当時暴動の最中、ファンクブラザーズのジョー・メシーナなど白人メンバーも身の危険を感じていながら、黒人メンバーに守られながら逃げる様が描かれてる。

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「デトロイト」の劇中でモータウンのスタジオであるヒッツヴィルUSAと思われる場面で、ミキシングルームに白人がいたことで、ドラマティックスを脱退する事になるメンバーが恐怖を感じる場面となってしまったけれど、モータウン自体には白人の人たちも関わっていたというのは、「永遠のモータウン」を観るとまた違った視点がそこにある。

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デトロイトの警官隊が銃を構えて立つ姿は、昨今のBLM運動の景色と似ていて(現在のデモに立ちはだかる警官隊は警棒だったりはするものの)、今の現状と大きく変わりがない事に驚きを覚える。

黒人の人権の主張の裏には、暴動のきっかけとして貧困状態というものも大きい。昨今の新型コロナの中で割合の多くが黒人やヒスパニックなどウィルスが蔓延したというのも、貧困層が従事していた仕事が原因というのも全て繋がっている。日本ではウーバーのようなサービスが知られるように、アメリカ国内では買い物代理の仕事に多く従事していたのは黒人やヒスパニックなど貧困層だったりと、身を守る以前に経済的なひっ迫が現実としてのしかかっている。
映画の冒頭で暴動の始まりの中で強盗を犯すのは、貧困も原因にある事が含まれている。火事場泥棒ではあるものの、現在の暴動に乗っかる形で強盗が起きているのもそういったバックグラウンドが影響しているのではないかと考えられる。

強盗のシーンを観て思い出したのが、1970年代後半のブロンクスで起きた停電の際の強盗。この辺りは「ヒップホップ家系図」でも描かれていて、残念ながら打ち切りになってしまったネットフリックスのドラマ「ゲットダウン」や、「ワイルドスタイル」などでも意図的に火災を起こして廃墟になったブロンクスの状況を見ることが出来る。火災を起こす事で保険料を得るために廃墟になっている様が端々に映像で現れる。貧困が巻き起こす出来事も視野に入れなければいけない。

「デトロイト」という映画で映像を通して観るレイシズムは、今のスマホで撮られた現場の動画とオーバーラップする。物的証拠を残せなかったスマホ以前の時代と、現代が大きく異なるのは警察の傍若無人な行動を第三者が撮影する事で証拠として残す事が出来る。過去の事も現在の事も映像で観るレイシズムを目の当たりにした時、そこにある、もしくはあった事実が重なり合うことのリアリティが肌感覚として遠い過去ではない事が実感出来る。映画と現実に大きな差がない事がこの映画のリアリティとして重くのしかかってくるのではないだろうか。現在スマホで観る惨状を映画のカメラで追体験するというのが、この映画の肝だと思う。
映画の主人公のひとつとなったドラマティックスはモータウンではなく、後にスタックス/ヴォルトからデビューし、劇中でも歌われた「Whatcha See Is Whatcha Get」や「In the rain」がヒットする。映画のラスト近くでブレイクする最中のグループを描いていた。

モータウンとデトロイト暴動の裏側でこの様な事が起きていたというのも、この映画が描いた激動の時代だったと思うと感慨深いものがある。
後日譚としては「永遠のモータウン」の中であったように、寂れゆくデトロイトを後にしたモータウンはロサンジェルスな拠点を変更し、「ファンクブラザーズ」のメンバーの多くはデトロイトに置き去りにされてしまった。
ワッツ暴動やデトロイト暴動の問題は今も解決されずに、BLMとして現在進行中の出来事であることと、2014年から2016年にケンドリック・ラマーやディアンジェロ、ソランジュ、フランク・オーシャンがBLMに呼応し問題提起した事が、今年から来年にかけてまた違った形で浮き彫りになってくるだろうと予想する。新型コロナの影響の最中で起きているBLMだけでなく、香港の民主化運動やこれから冬を迎える南半球へも波及してく大きな流れのひとつのようにも感じている。
「デトロイト」という映画を観る事で、過去にあった出来事が現在と陸続きになっている事を意識せざるを得ないは確かだろう。今観るべき一本なのは間違いない。

奴隷制の歴史についてこちらも参照して頂きたい。

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