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【映画】1秒先の彼女 消失的情人節/チェン・ユーシュン

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タイトル:1秒先の彼女 消失的情人節 2020年
監督:チェン・ユーシュン

台湾ニューシネマの異端と言われたチェン・ユーシュンの新作「一秒先の彼女」を一足先に鑑賞した。80年代から始まったホウ・シャオシェンやエドワード・ヤン、ツァイ・ミンリャンなど世知辛い内容の映画が多い台湾ニューシネマの中で、チェン・ユーシュンの映画はウィットとユーモアに溢れていて、くすくすと笑わせながらも悲哀を織り交ぜる所が異端と言われる由縁として他の監督と少し異なっている。本作はチェン・ユーシュンの過去作の延長線上にある、ユーモアとペーソス全開の内容となっている。

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本作のノリ自体は「ラブ・ゴー・ゴー」と同じようなラブコメ調でありながら、軽さのあるストーリーの中にハッと驚くような映像美が差し込まれていて、「熱帯魚」や「ラブ・ゴー・ゴー」に共通する部分がある。基本的には身近な雰囲気の人々の話なのだけれど、妙にスケールを感じさせるカメラワークは見所で、満ち潮で満ちた道路(「熱帯魚」での冠水した家周辺のシーンを想起させる)を渡るバスを空撮で撮る場面や、空に浮かぶ雲の動きなど人物だけでなく、映像だけでも映画を語ることが出来る力量は流石だなと思わされる。気軽な内容だけれど、コアな映画ほどそういった描写に感嘆するのではないかなと。特に後半部分はかなり面白い映像なので(浜辺のシーンはかなり笑った)、この部分だけでもいい映画を観たという充足感は味わえる。はちゃめちゃな展開(の割にキャラクターの行動はきっちりしてる)は中々爽快感があった。

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この映画のストーリーは行動の全てがワンテンポ早い女性シャオチーと、ワンテンポ遅い男性グアタイのふたりの話でそれぞれの人生が前半と後半で描かれていく。年2回ある台湾のバレンタインの8月14日が物語の中心となっていて、シャオチーの8月14日一日が消失する所から始まる。シャオチーは消え去った1日の足跡を辿り、グアタイは消え去った1日の中で様々な過去の記憶を辿っていく。ワンテンポ早いキャラとワンテンポ遅いキャラが失われた1日がなぜ起きたのかを、整合性のあるストーリーで仕上げられていて、不条理ながらもラストシーンは込み上げてくるものがあった。「ラブ・ゴー・ゴー」のラストのカラオケのシーンで、滑稽だけど心が通じ合う場面に心を打たれた人は必見だと思う。ふたりを繋ぐ手紙に対して、バスのシーンで出てくる人々が一様にしてスマホをいじっているアイロニーも見逃せない。「ラブ・ゴー・ゴー」でも手紙が重要なアイテムとして扱われていたし、ポケベルがスマホに変わっているけれど本質的な所が変わらないのも好感が持てる。

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同じ場面が異なる視点で出てくる演出はガス・ヴァン・サントの「エレファント」や吉田大八の「桐島、部活やめるってよ」と同様のスタイルで、前半後半で主人公が入れ替わるのはトレイ・エドワード・シュルツの「ウェイヴス」に通じるものがある。後半部分の驚異的な映像はショーン・エリス「フローズン・タイム」なんかも想起させる(この描写はCGではないとの事。アナログすぎて閉口する)。DJモザイクというディスクジョッキーの描き方や、引退寸前のヤモリおじさんなど脳内ファンタジーな演出はツァイ・ミンリャン作品にも通じる所がある。
「エレファント」、「桐島、部活やめるってよ」、「ウェイヴス」、「フローズン・タイム」と00年代以降の作品を例えで取り上げたが、この映画の基本的なプロットは2000年に書き上げた「有一天(1日)」が元になっている。「有一天(1日)」の脚本は映画化のために、2000年の釜山国際映画祭で資金確保のため最終選考まで残ったものの、選考から漏れてしまい頓挫してしまった。再度映画化を試みるもすでに別の監督に脚本が使われてしまったため、リライトして完成させたのが本作となる。低予算で作り上げられたが、道路封鎖や実際の郵便局が使えなかったため実物大のものを建てたり、主演二人が初主演という事で難航してたが、台湾アカデミーの受賞や釜山映画祭での出品など成功に行った。
チェン・ユーシュンは「熱帯魚」で台湾ニューウェーブの最後期にデビューし注目を集め、「ラブ・ゴー・ゴー」で興行で失敗した後、CM監督としての活動を挟み20年間温め続けた。本作は彼の最高傑作といっても差し支えないと思う。少なくともカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した「エレファント」の影響は多大にあるかもしれないけれど、それらとは違う新たな領域を描き切った傑作なのは間違いない。

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監督が何度もやり直しを依頼したサントラも映画の雰囲気にあっていて印象に残る。「ラブ・ゴー・ゴー」やイー・ツーイェンの「藍色夏恋」でも流れていたエイトビート的なネオアコ/ギターポップな屈託の無い音楽は、いなたさはあれど捨て去れない愛おしい雰囲気に包まれてる(シティポップやギターポップが好まれる台湾のシーンを考えると自然な流れなのかなと)。エンドロールで流れるビージーズのI Strarted a Jokeの歌詞も映画に対してアイロニーに溢れてる。




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