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アス Us/ジョーダン・ピール

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タイトル:アス Us 2019年
監督:ジョーダン・ピール

前作「ゲットアウト」と本作「アス」と立て続けにホラー作品を作ったジョーダン・ピール。どちらも一見オカルティックなおどろおどろしさから始まるものの、SF的な内容が加わる事で超常現象ホラーとは異なるところに着地する。「ゲットアウト」は人種差別を盛り込んでいたので、本作も最初はそう言った内容かと思って観ていると、人種関係なく人々が襲われていて、徐々にテーマがそこではないという事が分かってくる。
監督は格差をテーマにしていると言っていて、貧富の立場が入れ替わる恐怖をSF仕立てに仕上げている。ジョーダン・ピール自身が黒人と白人のハーフで、白人の母親に育てられた事で、所謂黒人らしい生活や風俗に触れる事なく育ったため、白人社会、黒人社会どちらにも馴染めずかなり苦しんだらしい。この部分については劇中、マリファナソングを理解していない描写が描かれていて、ハワード大学出身と思われる父親ガブリエルに投影されている。
こういった黒人らしくない人物像といえば「グリーンブック」でのドン・シャーリーに近いものを感じた。ドン・シャーリーも黒人風俗からかけ離れた生活をしていたため、食べ物や挨拶など白人社会と同じ生活をしている描写が全編に渡って描かれている。付き人のヴァレロンガの方が黒人風俗に近く、そのギャップは中々に笑える(スパイク・リーからは映画についてお叱りが入ったけれど…)。「アス」のガブリエルの人物像(監督自身の出自含め)はドン・シャーリーのような黒人らしくなさをイメージすると、どのような人物なのか分かり易いかもしれない。まああそこまで行儀が良いわけでもないのだけれど。
「アス」も「グリーンブック」も生活の格差は描かれていてる。しかし「アス」で描かれていたのは、裕福さの下に貧困というカーストが存在し、それが逆転することの恐怖が描かれている。
と同時に基本的には恐怖を描いた話ではあるものの、所々コメディの要素も自然に挟まれていて、この辺りはもともとジョーダン・ピールがコメディアン出身ということもあり、ある種の軽快さを映画に持ち込んでいる。ホラー映画にありがちなキャラクター描写の滑稽さを笑うのとは違い、意図した笑いの差し込み方はウィットに飛んでいた(「ファック・ザ・ポリス」の所最高ですな)。
本題に入ると、この映画の主題は「対」だと思う。キャラクター(姉妹のユニゾンする台詞)やストーリーの、地上世界の人々と瓜二つな地下世界のクローンなど、隠と陽といったシンメトリーになっている。(宇多丸氏はハサミというものはふたつの刃物が合わさっていているもので、ふたつのものをセパレートするものという事を言っていてなるほどなと膝を打った)

ラストで主人公のアデレードと地下世界のレッドの秘密が明かされる時、アデレードが何に怯えていたのか分かり視点がひっくり返されるシーンに、まあ単純には終わらないよな…とエンターテイメント性を保ちながら完結させているのは、まあ悪くはないかなと。ただ少し残念なのは、地下のクローンが地上に出て殺戮を繰り広げながらも、人間の壁を作った先の恐怖がイマイチ伝わり切らない終わり方だった。ある種計画通りに事は進んだものの、どうにもスケールを広げすぎたため先の見えない恐怖という実態感は感じられずピンとこない結末だったのかなと思ってしまった。
次はコメディの中にゾッとする恐怖を織り交ぜた映画が観てみたい。

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