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最近観た日本映画もろもろ

4月の頭からテレワークに入ったタイミングで、ほぼ一日一本映画を観る日々。自分の中で「これは!」と思うものはnoteで別途書き記していたものの、それ以外にもそこそこ観ていたのでまとめて書き記しておきたい。直近で日本の映画(邦画とか邦楽という言葉が嫌いなので敢えてこう書きたい)を観ていたので日本映画に絞った内容でまとめてます。あしからず。

幕末太陽傳/川島雄三

川島雄三の代表作。キャストも豪華かつ、プロットもテンポも良かった。赤線廃止というトピックで現代の品川から幕末の花街の頃の話へ。フランキー堺の軽快(軽薄?)な役所はバッチリハマってる。個人的に大好きな芦川いづみの姿が拝めるのも良かったのだけれど、大体セットになってる石原裕次郎も華があって良かった。そもそもラストシーンは現代の品川を走り抜ける予定だったというが、あまりにも突飛という事で取りやめに。そうなっていたら大傑作になったのに。もったいない。

東京暮色/小津安二郎

小津作品の中でも暗い作品ではあるものの、有馬稲子のアンニュイな表情が映画の全てだと思う。妊娠が発覚し右往左往する様が家族を巻き込み物悲しく終わりを迎える。

ハウス/大林宣彦

先日惜しくも亡くなってしまった大林宣彦の初監督作品。写実的なリアルさとは程遠い描写やストーリーは観るものを選ぶかもしれないけれど、しっちゃかめっちゃかなやりたい放題な映像は凄い。黒沢清のスウィートホームに繋がるのかな?ちゃんと観た事ないのだけど。

キュアー/黒沢清

凄い。役所広司の役者としての懐の深さを感じる。中盤妻が自殺するシーンを目撃し泣き崩れる所の切迫感は鬼気迫る。このシーンがあるかないかで印象がかなり変わったはず。静かに狂っていくからこそラストの余韻がナイフを立てるような鋭さを持つ。

青春の殺人者/長谷川和彦

長谷川和彦という人は本作と「太陽を盗んだ男」で作品が止まってしまってるのは惜しい。とはいえ、本作の居心地の悪さはなんともいかんしがたい。血のえぐさよりも母子のえぐさの方が際立つ。園子温の中にあるATGっぽさはこの辺りにも通じる。

の・ようなもの/森田芳光

傑作「家族ゲーム」に比べると質は落ちるものの、秋吉久美子のあっけらかんとした様は魅力的。でんでんが若い!
祭りの後のようなラストシーンの熱気の残り香がこの映画の全てを表している。

浮雲/成瀬巳喜男

名匠成瀬巳喜男の名作。戦中戦後の暮らしぶりのコントラストが身につまされる。戦後の映画のテーマのひとつである貧困を、ふたりの男女の中にすっぽりと収める成瀬の手腕は凄い。男女のあり方の違いもしっかり描いている。マスターピース。

殺しの烙印/鈴木清順

本作で映画会社をクビになるのもうなずける。ここにある意味が分からなさは凄まじい。清順もリアリティよりも絵的な美しさを取っていて、理屈ではないカッコ良さを貫いている。なんなんだこれは!?ヨルゴス・ランティモスのお気に入り。

最高殊勲夫人/増村保造

数年前に途中から観た事があり気になっていた。女性と結婚をテーマにしながら、軽妙な展開がテンポ良く描かれている。終わり方のあっけなさはもうちょっと練ろうよと思わなくは無いものの、ラストまで軽快に進む。
衝撃だったのは会社で七輪を使って魚を焼いていた場面。凄い時代だ。若尾文子の艶っぽさは見もの。どことなく沢口靖子に似てる。沢口靖子は好きじゃないけど。

妻は告白する/増村保造

以前勧められてやっと観る事が出来た。裁判と当人ふたりの有様が並行して進み、真相が徐々に明るみになる様子に観客が振り回される構造は中々。幸せを掴もうとして不幸せに陥る姿が重くのしかかる。

稲妻/成瀬巳喜男

高峰秀子の役所が素晴らしい。戦後の日本映画を観ていて思うのが女優の扱いだと思う。金のしがらみから逃れようと家を出るものの、杉並の家で母子が言い合うシーンは心に残る。何かが始まる予感の中で終わるプロットも地味ながら余韻を引く。

清作の妻/増村保造

若尾文子の乱れた髪と横たわった姿を描きたかっただけじゃないのか?と勘ぐってしまうほど絵になる。貧しさと引き換えに嫁に出され、女性としての価値を失いながらも掴んだ愛に苦しむ姿が痛々しい。

穴/市川崑

申し訳ないけど駄作だと思う。京マチ子の七変化は見ものだけれども、テンポの良さが仇になっているようにも感じた。

しとやかな獣/川島雄三

ほぼ室内劇なのに閉塞感がない。あらゆる構図で映し出されるカメラワークは飽きがこない。心象風景を切り取った階段の描写はポストモダンで洒落てる。金がある所に寄生する様はポン・ジュノの「パラサイト」にも通じる。嬉々として寄生する父親の姿はオーバーラップする。

卍/増村保造

力が入ってる割に突っ込みどころが多く白けてしまった。突飛な流れは嫌いではないものの、どこか整合性が取れていないようにも感じられて入り込まないまま終わってしまった。

女は二度生まれる/川島雄三

前半後半で切り替わる所のぶった切り加減が気持ちいい。市ヶ谷に花街があった事や、渋谷の風俗やかつての渋谷パンテオンなど追憶の東京に触れる楽しみもある。靖国神社が抱える明治以降の戦争の有様も地味に描いている。

赤線地帯/溝口健二

売春禁止法が制定される直前の赤線地帯の模様がセミドキュメンタリーさながらの緊張感を保っている。五人の女性が抱えた事情が丁寧に描かれた傑作であり、溝口の遺作。京マチ子のスレた演技は凄い。戦後の混乱の中で体を売るしか無かった女性陣の現実がそこにある。

からっ風野郎/増村保造

三島由紀夫の学芸会レベルの演技がいたたまれないものの、黙って佇む姿は絵になる。脇の俳優陣が味のある演技をしているだけに、三島が俳優として優れていたら格段に良くなった作品だったのでは?

赤い天使/増村保造

レイプや手コキなどミソジニーな要素が気になってしまった。看護婦=無償の愛という図式が頭をよぎり、ヒロイックに祀り建てられているのがどうにも納得がいかないというか…。ただし、心を持つなという台詞にあるように、戦中の狂った様子は存分に表現されていた。軍人ではなく看護婦や医師の視点で描いた戦争映画としては唯一無二。
滑稽さが目につくのは難点。フランスで評価が高いらしいけど本当?

あに・いもうと/成瀬巳喜男

婚前に孕んでしまった役の京マチ子の変わりばえが凄い。兄妹の心のうちがすれ違いながらも、そへぞれの内心の描写は泣ける。ミソジニーと思いきや、不器用な兄妹の姿に最後の別れが染みる。成瀬のこういった人々の機微を描くのは上手いなあと膝を打つ。タイトルから想像する始まりの裏切りはシンプルながらも効果的。


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