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【シンエヴァ考察第1部】もう1度観に行きたくなって欲しいからしっかり解説していくよ

お久しぶりです。そしてお待たせしました。
自分で書いた考察に、自分で落とし前をつける時が来てしまいました。

まずは今までの記事をご自身のnoteでご紹介してくださった各位、Twitterおよび各SNSにて紹介してくださった皆様に心より感謝申し上げます。
ここの考察読んでから観に行ったら楽しめた!というお声もいただき本当に本当に嬉しいです。ものすごくモチベーション上がりました。おかげさまで今現在20回ぐらい観に行ったところです。
そして自分が書いたものが誰かのお役に立てたこと、シンエヴァを120%楽しめるお手伝いができたのなら、それを何より嬉しく思います!
そして今度はこの記事を読んでもう1度シンエヴァを観に行きたくなってきた!となれれば私は考察書き冥利に尽きます。
次回作が無いということはこれから書いていくものの答え合わせは不可能ですが生きてエヴァンゲリオンという作品の終わりを見届けることができて私は幸せ者です。エヴァが収拾つけたんだからこちらも頑張らねばなりません。

そして謝らなければならないことがあります。
何日か前にお知らせで5万時を超えてしまったと言いましたが、最終的に総字数約10万字超えになってしまいました。本当にすみません!許してください!そんなに書いた覚えがないんですけど自分でもなんでこんなことになっているのか、何がなんだか…
noteどころか、これはもうbookなのかもしれません。お詫びとしてきりのいいところで読了がわかりやすいように3部構成にしておきました。
過去に書いた1〜4章を読んでいなくてもこの記事単体を読むだけで分かるように所々で説明は行っていきますのでご安心ください。

【第1部】は物語前半の解説から式波シリーズを読み解きながらマイナス宇宙やゴルゴダオブジェクトにも言及
【第2部】は旧作の世界と新劇場版の世界のつながりを考えながらエヴァイマジナリー・黒き月・アダムス・槍と言ったハードの部分を解き明かすパート。
【第3部】は生命の書から分かる円環の構造やキャラクター心理の掘り下げ、エヴァのなくなった世界について
といった進行でシンエヴァの謎をできるだけ全網羅して解説&考察していきます。
どの順番で読んでもお楽しみいただけるよう書いたつもりではございますのでお好きな記事から読んでくださいね。

一応書いておきますと、この記事は個人の解釈がご多分に含まれております。正しさを押し付けようとするものでも誰かの考えを否定する意図も一切ございません。現実主義で合理主義気味の目線から見たエヴァってこう見えているんだなーぐらいに捉えておいていただければと思います。

では始めましょう。
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シンエヴァの大まかな流れ

ヴィレはコア化していたパリにあるユーロネルフを復旧させ物資の調達を行うべくカチコミ作戦(0706作戦)を実行する。
2号機の新造と8号機の改造に必要なパーツもここで手に入れる。

一方日本では丸2日間ほど歩き続けるアスカ・黒波・シンジ君一行はサードインパクトから生き延びた人々が暮らす第3村へたどり着きそこで約1ヶ月ほど過ごす。

アスカを迎えに来たヴンダーに、何かを決意したような顔でシンジ君もついて行く。ヴンダーの中ではずっと監禁状態だがそれでも構わないよう。

ゲンドウと冬月がフォースインパクトを起こすべくネルフ本部と黒き月ごと南極を目指して移動開始する。それに伴いヴィレもインパクト阻止の最終決戦に向けて南極へ向かう。

南極に到着すると冬月の用意したネルフ戦艦やエヴァ7シリーズなどがヴィレを妨害してくる。かなり押され気味のヴィレ。

フォースインパクトの開始には第13号機の再起動が必要で、ヴィレは強制停止信号プラグという杭を13号機のコアに刺して起動させないようにするために13号機の元へ新2号機と改8号機を向かわせる。

13号機へ停止信号プラグを刺そうとするも謎のATフィールドに阻まれてしまうが、それは新2号機が13号機を怖がり出しているものだった。
アスカは仕方なく眼帯に封印されていた第9使徒の力を解放し自身が使徒化することで新2号機のATフィールドを中和しようとする。

しかしそれはゲンドウの罠だった。13号機は再起動してしまいアスカのエントリープラグは抜き出され新2号機は消失する。アスカは自分のクローン元となった式波オリジナルに使徒の力を奪われてしまい13号機を動かすためのパイロットにされる。

ヴィレを南極に向かうよう仕向けたのも全てゲンドウの罠で、まんまと罠に嵌ったヴンダーはフォースインパクト発動のためにガフの扉を開ける道具として使われ、挙句に単身乗り込んできたゲンドウに主機として使っていた初号機をも奪われる。ゲンドウはガフの扉の向こうへと消え、インパクトは開始されてしまいミサト達はなす術が無く絶望する。

監禁状態から抜け出してきたシンジ君が初号機に乗ってゲンドウを止めると言い、一悶着あるがヴィレクルーも皆納得しマリの手助けもあってシンジ君はガフの扉の向こう側、マイナス宇宙へと向かう。

マイナス宇宙で初号機を奪い返したシンジ君は13号機と一体化したゲンドウと一騎討ちとなる。2人(2機)は神が残した場所とされるゴルゴダオブジェクトへと辿り着く。死闘の末、シンジ君は戦うことではなく話し合いでゲンドウを知りたいと思い向き合う。

ゲンドウはゴルゴダオブジェクトの中にいたエヴァンゲリオンイマジナリーでフォースインパクトとはまた別の「アディショナルインパクト」を追加で起こし、2つのインパクトを同時に起こすことに成功する。

一方シンジ君をサポートすることに決めたヴィレは槍が全てなくなってしまうとインパクトを止めることができなくなることを危惧し、ヴンダーの脊椎から新たな槍を生成することを決行。槍を届ける役割はミサトが担う。

シンジ君はインパクトを起こしたゲンドウに問う。「父さんは何を願うの?」
ゲンドウは「お前が選んでこなかった、みんながLCLになっている世界だ。それこそがユイと一緒にいられる安らぎの世界である」と答える。
やっとユイに会える…と思ったゲンドウだが、肝心のユイがなかなか見つからない。うろたえるゲンドウ。自分にとってユイがいかに大切な存在であるか、独白が始まる。

それは自分の弱さを認め、死んだ人の意思を受け取れていないのだとシンジ君に諭されるゲンドウ。ちょうどそこにヴィレが新たに生成した槍がシンジ君の元に届く。
ミサトの意思を受け取ったシンジ君を見たゲンドウはユイが何を願い初号機に消えたのか、それを考えずにひたすら自分のエゴだけで周りを巻き込んできたことに気づく。そしてようやくシンジ君の中にユイを見つけ、ユイの目的を理解したゲンドウはインパクトの主導権をシンジ君に譲り去っていく。

ゲンドウと入れ代わりに現れたカヲル君はシンジ君の願いを叶えようとする。
シンジ君は「僕よりも他の人を助けたい。それは君もだカヲル君。」と言い、アスカ・カヲル君・レイの魂をそれぞれと対話することで13号機と初号機から脱出させる。

シンジ君がインパクトで願ったことは、時間も世界も戻さないが元からエヴァが存在しない人が生きていける世界へ書き換えることだった。
そのためにはガイウスの槍で今いる全てのエヴァンゲリオンを消す。もしかしたら初号機に乗っている自分も一緒に消えてしまうかもしれないが…

槍が自分の首に刺さるかもしれないその時、シンジ君の中にいた母・ユイが身代わりとなってシンジ君の魂を初号機から逃す。同時に13号機の中に残っていたゲンドウがユイを1人にしないよう寄り添う。父と母の願いを知ったシンジ君は新たに書き換わった世界で生きていくことを決意する。

約束通りマリはシンジ君をマイナス宇宙から連れ帰るために迎えにきてくれた。
シンジ君は一旦そこで意識を失うが、目覚めた時にはもう自分が願った世界になっており、エヴァがなかったらこうなっていただろうという本来の大人の姿に戻っていた。
目の前には生きていてほしいと願っていた人達が人として存在してくれている。

目隠しをしてきたマリとお互いが記憶保持していることを確認し合い、シンジ君は外の世界を、人が生きていけるようになった世界をマリと見に行く。

だいたいこんな感じでしょうか。
一応時系列で考察・解説していきますが、説明の都合上多少前後しますのでご了承くださいね。

0706作戦と第3村

冒頭10分の0706作戦は第4章で説明していたことと大体合っているのでそちらをご参照くださいますと幸いです。

過去の考察ではQ最後の予告では「辿り着いた場所がシンジに希望を教える」というセリフから、どこかコア化を免れている場所に辿り着いてそこにトウジやケンスケが生きてたりして〜なんてことを言っていたような気がしますが、合ってました!もはや考察とか予想ってよりもただの願望でしたが。
同級生のみんなが生きていたというあまりの嬉しさにケンスケの声聞いただけで涙がドバッ!!と出てきます。

加持さんは破で海洋研究所に子供達を連れて行き青い海のにおいを教えてくれた。それは後に青い海の色を取り戻したいヴィレのメンバーや協力者となってほしいという意味だったのだろうなと思います。
その子供達は大人になって「KREDIT」の一員として第3村を支えてくれているんですね。
特にケンスケ…めちゃくちゃええ男に育っとるやんか…
歳が近いので私ならダメ元で彼女の有無ぐらいは確認してしまいそうです。

第3村のパートは1時間ぐらい使ってしっかりと丁寧に描いてくれているのでこちらが特に説明しなくても見ていれば分かることが多いですね。なので感想と気になったポイントだけ。

第3村がある場所、診療所となっている場所にあった看板しんじょはらは「新所原駅」静岡県の浜名湖のあたりにある駅名なんですね。でも転車台があるのは「天竜二俣駅」なんだそうです。天竜二俣駅の駅前にある鉄道歴史館が劇中では診療所として使われているのですかね。今のご時世的に実際確認しに行っちゃえ!と気軽に行けないのが残念です…。
ここは14年前にネルフの第2支部があった場所の近くということになっておりその一帯を「相補性浄化無効阻止装置」という封印柱で囲んでコア化を防いでいました。
ケンスケが運転する車からの風景を見るとかなり遠くの山まで封印柱の効果が及んでいることが分かるので第1村、第2村も第3村と同じ結界圏内にあるのかもしれませんね。

第3村の滞在期間
シンジ君たちが歩いて第3村に向かっていた期間は丸2日ほど…という感じでしょうか。第3村に到着してからおそらく2日目ぐらいからすでに黒波は働きに出て田植えをしています。だいたい3日目ぐらいにシンジ君は家出し、苗の育ち具合から見るにそこから1週間ぐらいは1人で過ごしていたんだろう…と。
なので第3村に来てから約10日前後で失声症は回復し家出も解消といったところでしょうか。
それから少しの間は村での作業を手伝っていた上に、トウジからは「慣れてきたか?」と聞かれているので1ヶ月弱ぐらいは村に滞在していたのだろうと思います。
ヴンダーがピックアップに来る日の前日に加持ジュニアと会い、ピックアップ当日の早朝に黒波消失…でしょうかね。

アスカはパペット人形とゲーム機を常に携帯している。
アスカは破の3号機事件で死亡扱いになっており人形やゲーム機などの遺品はミサトの家に届いていました。アスカがこれを持っているということは空白の14年で取りに行く時間があったことになりますよね。
となればヴィレ発足と同時に、というより発足の準備段階あたりからアスカは動けるようになっていたんじゃないかと思います。
空白の14年間に関してはちょっと変更点があるのですがこっちに追加するか別記事にするかはまだ悩んでます。
今のところは話に出さなくても他の説明になんら関係せず問題が無いので書かないでおきます。

なんとここで驚きの事実。「綾波シリーズは第3の少年(シンジ君)に好意を持つよう調整されてる」とのこと。
確かに白波がシンジ君に好意を持たなければ第10の使徒(ゼルエル)戦で特攻を仕掛けるようなこともしなかったのかもしれませんし、その結果初号機を覚醒に導いたり中に魂を保存できなかったでしょうけど、白波がシンジ君のために食事会を開こうとしていたのも調整されてできた感情の結果だというのでしょうか…ショックが隠せません。
しかしアスカはこのセリフの時からすでに「自分もクローンである」ことを匂わせていましたね。

「ここじゃなきゃ生きられない」「ここでは生きられない」
多分黒波消えちゃうんだろうな〜と予想してましたが悲しい当たりでした。なんで定期調整が必要な不完全クローンのまま実用化してしまったのか。それでも段々と意思や感情が芽生え、魂はユイや白波とは別のものとして少しずつ独立していっていたというのに…。黒波消失により小さな十字架と虹が出ますが、十字架=肉体の消失、虹=魂の消失ということは証明されましたね。

しかし白波と黒波、悲しきかなこの世界に同じ姿形をした子は2人存在できないんだろうと思います。多分存在することはできるんですけど、メタに見たら無理というか…“綾波レイ”というキャラクターとして生き残れるのは1人だけなんです。残酷ではありますがそれはアスカも同じで、同一の魂を持つ者同士は片方が死んで消えるか、同化し統合するしかない。

女の子から渡された本、ツバメに読み聞かせるのかと思ったら自分が読むんですね。
ケンスケが先生をする教室で勉強をしていたりメモ用紙も反対側に文字を書いて使っていましたし、黒波はネルフにいた頃ずっと勉学の機会も社会勉強の機会も無かったのだろうな…と。Qのあの状況では仕方がないことではあるのですが。

ケンスケはヴンダーを初めて見たとのことで、まぁヴンダーが飛んだのはQの時が初めてですし、Q→シンの時間はそう経過していないのでアスカはヴィレやKREDITが物資を村に提供する際に里帰りのようにやってきて次の回収時に戻って行くのか、はたまた、ネルフのネーメズィスシリーズと戦闘でもあった時に機体から脱出してそこからてくてく歩いてシンの冒頭と同じように第3村の近くまできたらケンスケに迎えを頼んでいたのか、どっちなのやらですね。

シンジ君が立ち直った理由

シンジ君を立ち直らせてくれたのは第3村でトウジやケンスケ、黒波の優しさに触れるというリアリティの体験。…なんですがこれ実は3人がシンジ君にしてくれたこと、Qでカヲル君がシンジ君にしてくれたことと本質的に同じです。
例を挙げると

①居場所を与える(居場所を提供したトウジ/自分の隣という居場所を与えたカヲル君)
②1人の時間を尊重する(家出を認めるケンスケ/無理に励まさないカヲル君)
③新しいことに挑戦させて自尊心を高める(釣りをさせるケンスケ/連弾に誘ったカヲル君)
④必要なら現実も見せる(ハイカイを見せたケンスケ/外界を見せたカヲル君)
④仲良くなるおまじない(黒波のおまじない/13号機に乗る前に手を引いてくれるカヲル君)

などなど…
「どうしてみんな、こんなに優しいんだよ」と問うシンジ君に対して黒波は「碇君のことが好きだから」と答えます。これって第3村の人々の優しさを通してQでカヲル君がくれた優しさと、自分をどう想ってくれていたのかに気付いたということでもあると思うんです。

カヲル君の死によりシンジ君が生きる希望を無くし塞ぎ込むのは旧作と同じです。
旧作では他人に責められたくなかったから"自分の手で"カヲル君を殺さざるを得なかった。誰のせいでもないからこそ罪悪感をどうすることもできなかった。
それに対し今作では"自分のせいで"カヲル君が死を選んでしまった。
トウジの「自分でしたことには自分で落とし前をつけたい」という言葉と、ケンスケの「生きてるうちに親父と話をしておいた方がいい」という言葉に背中を押され、シンジ君は自分の身代わりになって死んでしまったカヲル君と真っ赤になってしまった世界に自分でケジメをつける決心をします。
なのでシンジ君を立ち直らせてくれたのはトウジ・ケンスケ・黒波たちの優しさというリアリティの体験とカヲル君との記憶でした。
ケンスケはシンジ君が14年前の姿と変わっていないことから、アスカと同じ状況になっていて、いずれはここにいられなくなるだろうと直感的に気づいているんでしょうね。

ここではシンジ君や黒波の心境の変化を見ることができますが、実は結構アスカについて読み取れることも多いのが第3村のパートです。

クローンについて

さて、今回で一番衝撃だったのはアスカが「式波タイプ」と呼ばれるクローンだったことではないでしょうか。
綾波タイプ・式波タイプということは同じく真希波マリにもユイがいた時と同じ時代にオリジナルがいたと考えられるためゲンドウの記憶の中で出てくるマリがオリジナルであるとわかります。つまりシンジ君達と同じ世代として生きるマリもまた、真希波タイプの1人ということになります。
貞エヴァ設定が新劇にも適用されるならマリがシンジ君達と同じ時代に16歳のまま登場するためには自身のクローンを作っておくかコールドスリープしか方法ないって過去にぶっ飛んだ説を提唱していた身としては式波タイプの事実とマリとユイの繋がりが今作にもあったことが明かされたことによって真希波タイプの存在も証明されてしまってビビり散らしています。
しかしこの事実から分かることがたくさんあるのでそれも書いていきましょう。

気になるのはなぜアスカをクローン化させる必要があったのか?と、どうして白波と黒波は“調整“が必要で、同じくクローンのはずのアスカとマリは調整しなくても生きていけるのか?というところですよね。
まず、調整の必要性について書いていきましょう。

綾波タイプと式波タイプは何が違う?
個体の維持に調整が必要か不要か、これには何となくひとつの理由として”リリンの魂”が宿してあるかどうかのような気がしたのでそれを考えてみます。
黒波はQでカヲル君いわく「魂の場所が違う」と言われていました。
リリンとカヲは同じ場所に魂があるのだとしたらすなわちリリスの魂も同じ場所にあるということですので白波の魂も一緒ということになるでしょう。黒波の魂だけ場所が違うのは人工的なものだからでしょうか?
これを魂の存在が肉体を維持していく原動力となっていると仮定しておきます。
しかし破ではリリスの魂を持っているはずの白波も調整していましたし、それでいけばアスカも式波オリジナルの魂が本物で式波アスカは魂の場所が違うんじゃないのか調整必要なんじゃないのかってなりますね。
よって肉体の維持に魂の有無はあまり関係が無いと結論を出しました。

次に、ひとつひっかかるのがアスカが黒波のことを"初期ロット"と呼ぶことなんですが、自身もクローンであるはずのアスカがさも自分は初期のロットでは無いと思っているかのように黒波を呼ぶのでもしかして零号機が試作機であるように、綾波タイプ初期ロットも試作過程の子だったんじゃないか?と感じました。よって定期的な調整が必須。
綾波タイプの開発情報を元にして改良を加えられた存在がアスカとマリで、2号機と同じく正規実用型の完成されたクローンなのかもしれませんね。(マリに関しては誰かに製造されたと言うより自分で自分をクローンにしたのだと思います)
破でエレベーター内のアスカと白波の会話を思い出して欲しいのですが、白波が「私は人形じゃない」と言うのに対しアスカは頑なにそれを認めようとしませんでした。同じクローンとは言えどアスカの方が感情表現が豊かですよね。「私は人形みたいに感情が乏しいあんたよりも優秀に作られているの」と後期製造分なりのマウントを取っているようにも見えるわけです。

シンエヴァでは冬月がアドバンスド(次世代型)な綾波を4体作り出していましたが、「アドバンスド綾波シリーズの“再生“」と言っていました。“完成“と言わなかったのは元々技術としては確立されていたからでしょう。おそらくは破のラストぐらいにはもう理論は出来上がっており、空白の14年中にヴンダーや他の戦艦3機の主機となるMark.09〜12用のパイロットとして使う予定があったのでは?と思います。
なので綾波タイプ初期ロットの時から比べるとクローン技術は短期間でも大幅に進歩していたと分かります。初期ロット段階で定期調整の必要性があるなんて手間でしかないですから改良するとしたらまずそこですよね。よって式波タイプから調整は不要となったのでしょう。

ということで式波タイプと式波オリジナルの関係について説明していく上で、
そもそもどうしてクローンの技術がここまで進歩したのかについて先に考えておかなければなりません。

今作アスカはどうしてクローンに?
答えはとても単純で、ゲンドウにとっては最終目的「アディショナルインパクト用の道具として使い捨てできる存在を作りたかった」の理由に尽きますが、そんなことは非人道的すぎて公に言えませんので合理的でもっともな理由付けがなされた上でクローンの製造が行われたはずです。
もっともな理由、というと「最適化」です。ネックとなる部分を排除することを建前とすればいいのです。
旧作ではリリンをエヴァパイロットにするにはコアに母親の魂を入れておく必要がありました。なのでエヴァを動かしたかったらパイロットだけでなく母親もセットで用意しなければならないため、戦闘でパイロットが負傷したり最悪死亡した場合の替えがききづらいという問題点がありました。これは今作の世界でもエヴァ運用の課題だったわけです。
この問題を解決する方法は2つあります。

【解決策1】コアに魂を入れる必要が無いようエヴァを改良する
【解決策2】コアに魂を入れる必要がないようパイロットを改良する
1つ目は技術的に無理だったのでしょう。選ばれたのは解決策2の方でした。

零号機のコアには元から誰の魂も入っていません。それはレイがクローンだからです。作られた魂は誰との繋がりも無いのでコアの魂とリンクさせる必要がない。故にコアに魂を入れておかなくても良い。
素養があるパイロットをクローン化させて持っておくことで負傷などによる替えがきき、初心者を一から育成するよりも手間がかからず、なおかつコアに入れる母親の魂も用意しなくてよいのならネルフにとってこれほど楽なことはないでしょう。
来るべき使徒の襲来に備えて人類を守るため…なんて名分でクローン候補を選別した。人道的にどうなの?とは思いますが許諾が必要になりそうな両親もいない子供を狙ってやっているのですからタチが悪い。

しかしこれで今作のマリがなぜ2号機に乗ることができたのかという問題が解決しますね。2号機パイロットは式波シリーズというクローンだから2号機のコアにも魂は入っていない。よって真希波シリーズが乗る8号機にも必要ない。
新劇場版世界のチルドレン中シンジ君以外が全員クローンであることからクローン以外のパイロットを乗せる場合コアへの魂はやはり必要ということですね。
ところが、13号機は特に魂も入ってなかっただろうはずなのにシンジ君は乗れていたぞ!シンジ君もクローンなんじゃないのか?!という疑問が生まれるかもしれません。
でもこれは簡単な話、13号機の腕が4本あることからアダムスとコピー体の2つを素体にしていたところで、コアの数も2つになるわけではありません。13号機のコアは一つしかなかったでしたので言ってしまえば2つのコアが1つに溶け合ってしまっているとも言えます。
13号機にはカヲル君も一緒に乗りましたので、コアに魂が入っていようが無かろうがアダムスの魂を持ちエヴァと同じ体でできているカヲル君が自在に動かすことができますのであまり心配はいりません。(シンジ君クローンじゃないのか問題については後でも触れます)

とまぁそんなこんなでゲンドウはもっともそうな理由をつけて誰にも怪しまれることなく式波タイプの製造にこぎつけました。今度はなぜ今作のアスカはクローンとなってしまったのか?大元となった式波オリジナルとは何者なのか?ですね。

式波オリジナルは何者?

マイナス宇宙でシンジ君に呼びかけられ、アスカの独白が始まります。
パパはわからない。ママもいない。
アスカは物心ついた時から天涯孤独であったと分かるセリフです。ですがどちらもいないのなら「パパもママもいない」と言うだけで良いと思うのですが、どうして言葉の表現を変えたのでしょう?
これは元々はパパとママがいたからじゃないかと思ってます。
綾波タイプのオリジナルがユイ、真希波タイプのオリジナルがユイの同級生だったマリであるように、クローンの大元となるオリジナルとは人工的に作られた人ではなく生身の人間です。
なので式波オリジナルさんだけは生身の人間となり、パパとママがいたはずなのです。
設定としては漫画版のアスカに近く、父は精子バンクの提供者だから誰だか"分からない"。母(キョウコさん?)はおそらく式波オリジナルちゃんが物心つくよりも前に亡くなったから"いない"のではないかと。
この境遇、クローン化候補を探しているネルフが目をつけるには最適の人材です。しかも母親は元ネルフの研究員ともなれば話は簡単。親戚に引き取られる前に身寄りはネルフで保護するとか言ってしまえばいいんですから。

あまりに扱いがひどい上に天涯孤独の悲しい境遇を持つ式波オリジナルちゃん、どこかで似た子を見たことがありませんか?
そう、旧作&漫画版の惣流アスカです。ですが式波オリジナルちゃん=旧作の惣流アスカではないですよ。
新劇場版の世界に生まれ、本来ならシンジ君やレイ達と共にエヴァに乗って戦う「アスカ」になる予定だったのに、式波タイプのオリジナルとなってしまった子の本当の名前が惣流アスカちゃんだった可能性はある。ということです。
どうして式波オリジナルをアスカとして送り出さず、クローンである式波アスカを2号機のパイロットとしたのか?
それはもう前述のとおり、式波オリジナルちゃんは生身の人間で、母を早くに亡くしているためエヴァのコアに母の魂を入れられずパイロットになれなかったんです。
しかしポテンシャルは高い。だからゲンドウの計画を進めるための材料としてクローンの大元にされてしまいました。コピーするときの原本はとっておいた方がいいのです。
もしかしてこれまでずーっとネルフ施設のどこかでカプセルの中に保管されていたのでしょうか。ようやく外に出れたと思ったら13号機に噛み砕かれ…ちょっとひどすぎやしませんかゲンドウさん…?
式波オリジナルはどこか漫画版のカヲルを彷彿とさせます。ヒトを理解していないからこそ無邪気で残酷で使徒っぽい。

たくさんいた式波タイプの写真がどんどん消えていき、最終的に2人に。片方が式波アスカで、もう片方が式波オリジナル。
式波シリーズの写真がある程度育った姿であるのでその年齢時にクローン化量産されたのかな?と思っています。
もしかしたらマイナス宇宙で思い出されていたアスカの子供の頃の記憶は全部式波オリジナルちゃんの記憶だったのではないでしょうか?(マイナス宇宙での記憶の混在については後述します)
ですが綾波シリーズが個体同士記憶の共有がされていないことから式波シリーズにも式波オリジナルの幼少期の記憶は無いのでしょう。クローン達は自分のオリジナルにいたはずの母がどうなったのかを知らないから「ママも“いない”」と言ったんですね。

マリとクローンの関係について①

ところで私は過去の考察でも、綾波シリーズの開発にマリが携わっていたんじゃないかと予想していたことがあったのですが多分当たってますね。
マリのオリジナルは冬月を教授とする、ユイの同級生で同じ形而上生物学のゼミ生だったことがゲンドウの回想で分かりました。後はマリが冬月のことを「冬月先生」と呼んだり、ユイの名を口に出したことからもそれが証明されています。
冬月がアドバンスド綾波シリーズの再生ができたということはその教え子であるマリもクローン技術の研究に長けており、ユイの願いを叶えるために自身をクローン化しようと準備していたため綾波タイプの研究に参加したと考えられます。
よってマリは「クローン技術の専門家」なのです。

それに関連してわかったことが2つほどあります。
①マリは綾波タイプだけでなく式波タイプの開発にも関わっていた可能性がある。よってアスカの製造(生み)の親はマリ。
②ラストでカヲル君と綾波が大人になって生きていることができたのはマリが肉体を与えてくれたから
②はもうちょっと後(第3部ぐらい)に書きます。
なのでまずは①について

マリはアスカの製造に関わった
マリが綾波タイプの製造に携わっていたとする場合、その理由がオリジナルのユイに起因するのは確定です。ユイは自分がエヴァ初号機のコアに入ってしまった後、狂ってしまうであろう夫・ゲンドウの監視を冬月に、息子・シンジ君の見守りをマリに依頼していました。
シンジ君がエヴァに乗る年齢となる頃にはマリのオリジナルは40歳を超えてしまいます。できるだけ自分もエヴァに乗りサポートしてあげるにこしたことはないのでマリは自身をクローン化させシンジ君達と同年代に存在するための研究を始めます。
ですので研究データ収集のためクローン技術確立への発端となるユイ再構成実験とその失敗によって生み出された綾波シリーズの現場にマリは参加していたこととなります。
もちろんマリだってユイに会いたいという気持ちが1ミリも無かったわけではないでしょう。ユイ再構成実験の参加をゲンドウに頼まれた可能性だってあります。
実験の責任者だったかどうかまではわかりませんが、マリが研究したデータが改良型のために使われ式波タイプが製造されたのなら直接的であろうが間接的であろうがマリはアスカの製造にも関与していたということになります。
だからマリにとって式波アスカは自分の研究が元で作り出されてしまった娘みたいなものです。

式波オリジナルちゃんには両親が本当はいたはずなのにいないという孤独がありますが、式波アスカの方もオリジナルとはまた別の孤独を抱えています。「自分には最初から誰もいない」という孤独が。レイと同じく空っぽだったんです。
マリはアスカに母らしさを求められたわけでもないし、姉妹でもない、本当に血のつながりのない他人同士です。
ですが親の愛情を知らないアスカへマリが与えていたものは明らかに母としての愛に近いです。飄々とした性格のマリがあんなに必死になるほどアスカを想っているのは14年間で積み上げた友情によるものだけを理由とするのはいささか足りないな?と思っていました。
マリが式波アスカの製造の親なら、アスカのサポートにまわることが多いのも、アスカを姫と呼び、クローンであろうが使徒に侵食されていようが人として認めていることも納得できます。
アスカが大人になり自分の手元を離れていくまで側で見守り、愛情を注ごうと思ったのはマリの贖罪。責任を取って育ての親代わりとなろうとしていたのかもしれませんよね。

ユイにシンジ君のことを頼まれていたならマリはどちらかというとシンジ君の側にいるべきなのでは?と思うところです。
ですがシンジ君にはカヲル君と綾波がいてくれて相互扶助的に成り立っていたのである程度おまかせして自分はアスカに注力できたんだと思います。
ここについては「相補性」というキーワードを元に説明することができるのですが、それは第3部にて行っていきますね。

ここから先はちょっとアスカのことだけ先行して書かせていただきます。(じゃないと後半のボリュームがすごいことになってしまうので)
本当はチルドレン全員足並み揃えて書いていきたいところですが、アスカに関することは全部まとめておいた方がいいかと思いますので…。

アスカ別人説・入れ替わり説について考える

アスカについては色々とややこしいことになってます。
まず先に自分の立場をはっきりさせておきますと、私は式波アスカはどのタイミングでも誰とも入れ替わっていないと考えています。ですが自分だけが納得してて触れないのもなぁという感じですし、検証することで他のことも分かったりしますのでやっていきたいと思います。
とりあえずアスカが入れ替わって別人になっているかもしれないタイミングについて書き出しておきましょう。

①3号機事件で肉体がボロボロになり入れ替えられた
②空白の14年間中に起こったサードインパクトで旧劇世界と入れ替わった
③シンエヴァで13号機越しに式波オリジナルと入れ替わった
④シンエヴァでゴルゴダオブジェクト内で旧劇の惣流アスカと入れ替わった

だいたい4つぐらいに集約できるでしょうか。一つ一つ見ていきましょう。
(もし入れ替わり疑惑がありそうなポイントを見落としていたら教えていただけますと助かります。)

①3号機事件で肉体がボロボロになり入れ替えられた
これはまず無いだろうと思ってます。肉体を入れ替えたのならなぜ使徒の力が残っていたの?という話になります。それに旧作3人目の綾波のように、魂はそのままで肉体を入れ替えるとそれまでの記憶は引き継がれません。アスカがシンジ君の作ったお弁当の味を覚えているような発言をしたり、「あの頃は好きだったんだと思う」と言うことも記憶の継続性があるセリフです。
3号機事件の直後、使徒に侵食されてしまったアスカを検体として保管しているシーンもありましたし。
と言うことで①はナシです。
では次に

②空白の14年間中に起こったサードインパクトで旧劇世界と入れ替わった
これはアスカのみならず、世界が丸ごと序破→旧となっているのでは説ですね。
Q冒頭のUS作戦でアスカのプラグスーツ補修場所が旧劇でアスカが怪我した場所と一致しているとか、ドグマに墜落していた戦闘機が旧劇で出てきた戦略自衛隊のものと似ている、月が綱々になったのがそっくりだというところが根拠でしたね。
これもちょっと無理があるなと思ってます。
Qでドグマに墜落していた戦闘機が映るシーンがありましたが、シンエヴァでは加持さんがサードインパクトを止めるために乗り込んだ戦闘機であったことが判明しました。
アスカの負傷場所について、眼帯をとって使徒の力を解放させるとアスカは第9使徒と判別されてしまったことから右目は3号機事件で使徒の侵食を受けたことが原因なのも確定です。
Qの予告は空白の14年間の凝縮ですから、破→Qの間に起こったサードインパクトの手順はおそらく旧劇と酷似しているのでしょう。国連に占拠されそうになるネルフでアスカは戦いますが旧劇の惣流アスカの負傷場所と同じところを怪我したのだと思います。

そして月については、これまた新劇サードインパクトの進行手順も旧劇の進み方と似ていたということでしょう。旧劇で網々の黒き月が出現したのがかなり最終段階であるため新劇サードインパクトもかなり大詰めの段階まで進んだと推測されます。
あとはどうして旧世界を新劇の世界に持ってくる必要があったのか?という理由も説明できなければなりません。
考えられるとすれば、インパクトを進めるにあたり別の世界で途中まで進んでいたステージを持ってきてその続きからやり直す楽な方法をとろうとした。という感じでしょうか?
ですが旧劇の世界ではサードインパクトは“完了”して物語が終わっています。これが途中で中断していたのならステージ途中からリドゥ方法の可能性もほんの少し残るでしょうが、それも序破の段階でインパクトに向けて旧作とは違う準備をしていることが分かっているため最初からやり方を変えて行動しておりわざわざ旧劇世界を持ってくる必要性を感じませんでした。
とどめに私は過去の考察でカヲル君時間遡行説を否定しています。それは冬月が「時間と同じで世界に可逆性は無い」と言っていたことが根拠です。旧世界と新劇世界は地続きで、並行世界やパラレルワールドではありません。全て同じ地球という星で物事は起こっているので終わった世界には戻れないし、時を入れ替えることはできません。
よってアスカ共々、世界が丸ごと序破→旧入れ替わり説は無いでしょう。

シンエヴァを見た私の現時点での見解は
旧劇を初回の世界として→2〜n回目の世界があり→新劇場版の世界が最後の世界。時間遡行は不可能ということで考えは変わりませんでした。

①〜②はありえないだろうということが確定したことにより、Qとシンのアスカはそのまま破で登場したアスカと同一人物であることも証明されましたね。

では次に
③シンエヴァで13号機越しに式波オリジナルと入れ替わった
ここはややこしく見えるためちゃんと解説していきましょう。
13号機が再起動してしまい「シングルエントリーじゃなかったの?」と言うアスカですが、Qで動いていた13号機にはシンジ君の他にもう1人パイロットが乗っていたことをサクラから聞いているはずです。なので13号機が2人乗っていないと動かせないものであることは知っていてそれでも動いているのは死んだはずのもう1人のパイロットを使っているんだな?となんとなく見当はついているわけです。実際に13号機が使徒ビームを出した時は1人分しか目が点灯していないのでそれも目視して1人しか乗っていないだろうと思っていたのでしょう。
しかし13号機に首を締められた時にはもう2人目の目が点灯しているので困惑しています。そしてオリジナルの自分、「式波オリジナル」が式波アスカの目の前に現れたことでもう1人のパイロットはオリジナルの自分であると把握します。
ダブルエントリーしなくても13号機を自由に動かせるのはアダムスであるカヲル君だけですので最初にアスカへ使徒ビームを撃ったのはカヲル君の方です。
なので13号機には「Qで死んだはずのカヲル君」「式波オリジナルさん」がダブルエントリーしています。
カヲル君1人でも13号機動かせるならダブルエントリーしなくていいのでは?と思うかもしれませんが、槍を2本持つには魂が2つ必要なのでそれは1人じゃどうにもならないんです。

カヲル君は死んだから肉体無いんじゃないの?という疑問もあるでしょう。これに関してはここで説明すると話が脱線するので第2部の「13号機の覚醒とシン化」について触れる時に一緒に話そうと思いますので、今の段階では「カヲル君は死んでても13号機を動かせる」とだけ書いておきますね。

目の前に現れた式波オリジナルにこっちへおいでと言われ式波アスカはDSSチョーカーを作動させて抵抗しますがそれも虚しく連れて行かれてしまう描写がありました。ここですよね、ややこしいポイントは。
ゲンドウの狙いはインパクトを始めるためにアスカを「使徒の贄」用に使い捨てることでした。第9の使徒となった式波アスカは13号機に噛み砕かれてしまい式波オリジナルの方がアスカになったのか?ということでしょう。

しかし13号機が新2号機からアスカのエントリープラグを引き抜いた時、持っていたプラグは4分の1ほど欠けています。こちらを式波アスカのプラグとすると、その後に使徒の贄として13号機が噛み砕いたプラグは欠けていませんでした。
一体誰のプラグが噛み砕かれたのか?これは13号機に乗せられていたカヲル君とは別のパイロット、式波オリジナルの方が噛み砕かれ肉体も魂も消失してしまってます。そうなると13号機は入っていた式波オリジナルのプラグを一旦抜き出して式波アスカの欠けたプラグをエントリーさせたという随分器用なことをしているんですけども…。
そうする理由は簡単に言うと式波アスカからDSSチョーカーを外し、式波オリジナルに使徒の力を奪わせ、意識を失った式波アスカを入れ替わりに13号機のパイロットにしようとしたからです。
ちょっとまわりくどいやり方ではありますが、そうしなければ式波アスカのプラグを噛み砕こうとした直前に使徒として贄にされるぐらいならとアスカがDSSチョーカーで自爆を選んでしまうのです。

式波オリジナルが式波アスカを13号機の中に引っ張っていった時、アスカの顔が剥がれだんだんと式波オリジナルの方が青くなっていくような描写がありました。
これが使徒の能力を奪ったということになるのではないかと。
なので式波オリジナルにDSSチョーカーを外された上に使徒の力だけを奪われたアスカは欠けたエントリープラグもろとも13号機のパイロットにされています。
13号機からプラグ強制射出でアスカの魂が脱出した後、そのプラグはケンスケの家に届いていましたがやはり4分の1ほど欠けていたのでアスカのプラグだと分かります。
それにアスカが最後に向かった場所はケンスケの家であることが式波→式波オリジナルもしくは惣流アスカ入れ替わり説を否定しています。
なぜなら式波オリジナルも惣流アスカもケンスケとは縁が薄く、別人であるならケンスケの家に戻っていく意味を感じないためです。

よって③はアスカの中身が式波オリジナルと入れ替わったというより、使徒として噛み砕かれてしまう役割が式波オリジナルと入れ替えられたと言った方がいいですね。
①〜③までは肉体的な入れ替わりの話で、④からはゴルゴダオブジェクト内で起こった精神の世界の話になってきます。
なのでここいらで一旦、肉体入れ替わり説にケリをつけるためにアスカ個人についての話をしておきましょう。

破の時のアスカとQ・シンのアスカは性格が違うっていう見方から別人ではないかという説もありますね。かなりトゲトゲしくなっていますし。
ですが前述した通り、物理的な面で破→Qの間にアスカが入れ替わることは不可能であると答えを出したので性格面を見ていく必要はあまりないのですが、一応書いておきますとこれは破→Qの間に14年も時間が経っていることが原因です。14年もあれば環境によって人の性格は変わります。変わらない方がめずらしいのです。
考察をするというのは「行動⇄出来事」をどんどん関連付けていく作業ですが、見落としてはいけないのが行動の前には感情があるということです。
感情とは不確かで、正確性に欠け、人の捉え方次第で形を変えるから合理主義で現実主義な考察書きには敬遠されがちで、御多分に洩れず私も悪い癖で行動と出来事だけに視野が狭まることが多いのです。
しかしアスカにも14年間という時間とそこに出来事と感情があったということにしっかり目を向けなければなりません。アスカはゲンドウにとってはマテリアルだったかもしれない。でも彼女は舞台装置ではない。感情を持った"人"なんです。
なので「感情(原因)⇄行動⇄出来事(結果)」としてバランスをとりながら見ていく必要があります。

それにもし入れ替わってしまったのだとしたら、「アスカを入れ替えなければならない理由」が発生します。
いろいろあって最終的に入れ替わったかも、という結果だけではダメなんです。
エヴァは合理的な物語です。全ての出来事、結果には必ず理由が存在します。
入れ替わったのなら式波アスカの方はどうなったのか?なぜ新劇場版の世界に惣流アスカが必要なのか?メタ視点で見てシンジ君にどういう影響があるのか?
そこがはっきりしなければ「入れ替わり」はやる意味が無い事です。
アスカの性格が変わってしまったのなら、変わるに至った理由が必ず存在します。それは14年間の月日を想像すれば読み解けるんです。
とはいえ私は普段、渚カヲルの沼に生息しているただの一介のエヴァ好きです。
少し離れた第三者的目線でアスカを見る人ってこう感じているんだなーぐらいに思っていただければと思います。

アスカの14年間を考える

破では他人との関わりへ希望を抱き始めていたアスカがシンでは誰もいらない、と孤独へ逆戻りしていたのは
自分だけが周りと"全く"違う存在になってしまったという「孤立」が原因です。

黒波がケンスケハウスに訪ねてきた時にアスカは「人の枠を超えないように設計時に抑制されている」と教えました。
綾波タイプも式波タイプもエヴァとシンクロしすぎることで人の域から逸脱してしまわないよう、つまりシン化もビースト化もしないよう設計されているということですね。これはエヴァ覚醒リスクの回避、インパクトのトリガーになってしまわないためのものでしょう。
しかしアスカは抑制されていたはずなのにリリンではなくなっています。
チルドレンはほぼ全員リリンから外れかけていますが、比較するために一旦整理しておきましょう。

シンジ君→破のラストでシン化の影響を受けるがまだリリンモドキ
白波→覚醒の機会がなかった上に肉体をなくしているため除外
黒波→覚醒の機会がなかった上に寿命が短いので除外
アスカ→3号機事件で使徒に侵食されシト化。もうリリンではない
マリ→破でビースト化の影響を受けて人の域を外れる
カヲル君→元々使徒なので除外
考察第2章でシン化・シト化・ビースト化について説明しておりますが、基本的に大枠合っていそうなので特に訂正する部分はありません。

シンジ君はアスカいわく「まだリリンモドキ」なので食事が必要なようです。睡眠が必要なのかどうかは分かりませんが。
ビースト化の影響を受けたマリは人の域を外れていますがあの自室を見るに睡眠の必要性は無さそうです。ですがQではボトルに入った紅茶を飲んでいたり、全身コアの13号機に触れてコア化侵食を受けていたりとあり、まだリリンモドキと判断します。
シンジ君とマリの共通点は人の域を超えそうなほどエヴァとシンクロしてしまった点です。シンジ君がプラグ深度プラスに振り切れ、マリが深度マイナスに振り切れただけの違いです。
アスカも3号機事件でプラグ深度がプラスに振り切れましたがシンジ君と違いアスカは食事も睡眠も必要なくなっています。これは使徒だけがもつ生命の実(S2機関)の効果ですよね。アスカには使徒の侵食によりS2機関ができてしまっているんです。
なのでアスカは抑制設計されていたにもかかわらずリリンから外れてしまったイレギュラーな例。抑制というのは「エヴァとシンクロしすぎてしまう時のストッパーとしてを想定されたもので、使徒に侵食されることは想定外」だったのでしょう。
アスカにとってずっと一緒にいてくれるマリですらまだリリンモドキなんです。
アスカだけがシンジ君ともマリとも違う存在になってしまっている。それだけでもアスカにとっては苦しいのですが、ただのリリンと並べて比べた時に14年という時間がアスカをさらに苦しめます。

アスカが使徒に侵食されていなかったらQ・シンのアスカも自分はずっと独りなんて言わない子に育っていたでしょう。
ですが自分は使徒化してしまった存在。食事が必要なくなっているので誰かのために料理をすることも他人と食事をすることも楽しめなくなりました。
14歳って体の成長と心の成長が著しい時期でもあります。恋愛の機会だってあったでしょう。ケンスケとも最初は助け合ううちにお互いに惹かれつつあったのかもしれませんね。
旧作惣流アスカは大人の男性である加持さんが好きでしたが、落ち着いていて包容力のある男性がアスカには合っている。ケンスケも14歳にしては時折、同級生達より大人びた考えを見せることがあったし人との距離感を保つのが上手い。
そしてトウジもケンスケがいなかったらとっくにのたれ死んでいたと言うぐらい、サードインパクト後はケンスケが大活躍だった。頼もしく成長していくのを間近で見ていたら…私はアスカの方からケンスケに気持ちが向いたのかもと思っています。友達のヒカリとトウジの関係が進んでいくことも見ているでしょうし。いつ戻ってくるか分からないシンジ君を待ち続けるより現実に目を向けようとしました。

ですがそこでだんだんおかしいことに気づいていきます。自分だけ体の成長が止まっているということが徐々に明らかになっていく。
でも自分が身体変化しないのにケンスケもヒカリもトウジも周りはどんどん背が伸びて大人になっていく。見た目という面でも自分は置いていかれてしまう。
人を好きだと自覚したと同時に、自分は恋もできないし関係の進展も望むことができないと分かるのはあまりにも残酷ではないですか?
好きになった人が自分の体の事情を知って、それでも側にいると言ってくれても素直に甘えることができない。
好きな人がいつか自分じゃない人を好きになって結婚するかもしれない自分から離れていってしまうかもしれない不安。
誰かを好きになってもその人との未来をアスカは描けない。アスカはリリンではなくなったことで恋をすることも、人を愛すこともできなくなったんです。
そんな生活を14年続けられますか?…私は無理そうです。

「怒りと悲しみの累積」アスカはQでシンジ君を前にそう言いましたね。
アスカを別人のように変えてしまったのは怒りと悲しみなんですよ。そして自分をこんな体にしてしまったのは3号機事件でシンジ君が自分を助けることも殺すことも選択してくれなかったから。愛憎が入り混じった目でアスカはシンジ君を見ているんです。
ですがDSSチョーカーを見て嘔吐してしまうシンジ君を見てスカーフで隠すようにしたり、家出したシンジ君を心配して見に行ったり、根は優しい子であることは変わっていませんね。

我々では想像もできない出来事の数々を体験し、それでも生きていなければならない場合、どうするのが最適でしょう?
人はどうしようもない状態になると諦めて心を閉ざし考えることをやめます。
アスカが自分の心を守るには「自分は最初から孤独。考えたってしょうがないこと」と言い聞かせるしかないのでは。
戦うことだけを自分の存在意義にする。Qの収録で宮村さんがアスカを演じる際庵野監督に言われたこと…「アスカはプロの傭兵」になったんです。

アスカは綾波タイプのレイよりも感情の振れ幅が大きくなっています。感情の部分でも完成されていたのかもしれませんね。感情を非効率なものと言うことから、感情があるせいで寂しくて、埋めることのできない寂しさに苦しんでしまう。
アスカはシンジ君をガキと言いますが、アスカも精神年齢28歳になっても大人になりきれていなかったんでしょう。みんなと一緒に大人へのステップをふむことができなかったから。アダルトチルドレンになってしまっていたんだと思います。
そんなアスカを近くで見ていたケンスケもアスカのことを違った目で見ていき接し方を変える必要性を感じたのでしょう。アスカに足りていなかった"父親"という役割に。

アスカの14年間を想像すると彼女にもしっかり感情があったことが分かります。アスカは人形でも舞台装置でも無いんです。
28年間悩み、苦しみ、それでも人と関わって得た情緒。そうしてQ・シンのアスカが出来上がっている。私は式波アスカの歴史を入れ替わりで突然リセットされて欲しくないです。

シンエヴァは新劇場版の登場人物達が救われる物語ですし、それと同時に前の世界の自分達(旧作の登場人物達)も救われています。だからまず新劇場版の人たちの救いが先にありきなんです。今までの世界で補完からあぶれていたゲンドウでさえシンエヴァでは補完されたんですよ。
新劇場版におけるアスカは「式波アスカ」です。式波アスカを押しのけてまで旧劇惣流アスカを出す理由はあるのでしょうか?
先述した通り、惣流アスカの救済は式波アスカの救済が先に無くては成り立ちません。アスカがどこかのタイミングで惣流や式波オリジナルと入れ替わってしまっていたら、破で登場した本来の式波アスカは旧作の世界に置いてけぼりか、式波オリジナルに成り代わられてしまい式波アスカだけが救われていないってことになってしまいます。それって物語が終わらせられないじゃないですか。続・エヴァンゲリオンを作って式波アスカを救済しに行かなければならなくなる。
だから式波アスカは最後まで式波アスカのままです。ここで物理的・肉体的な入れ替わりは無いと思っています。

と、なるとマイナス宇宙でシンジ君が語りかけたアスカが式波・惣流どちらのアスカが強く投影された姿なのか?という部分が次の疑問となってくるわけです。
それにはまずマイナス宇宙とゴルゴダオブジェクトって何よ?というところから明らかにしておきたいですよね。
さすがに私も初見では何でもアリすぎてこれ考察も解説もする意味あるの?!と思いましたが観てるうちにそうぶっ飛んだ設定でもないしそれなりにちゃんと筋通ってるかもと感じるようになったので説明していきたいと思います。大丈夫ですそこまで難しく考える必要はありません。

ガフの扉の向こう側に広がるマイナス宇宙

なんだよマイナス宇宙って?!と言いたいところですが、人が存在する時空を3次元とするとその高次元、5次元あたりがマイナス宇宙に該当すると考えていただければ理解しやすいかと。
物理学的な意味の5次元とはちょっと違うと思ってください。
人は3次元(空間)の生き物なので肉体という形あるものに縛られていますし、他人とは肉体が別々だから言葉なしに他人の気持ちを理解するのは難しい。肉体という形があるせいで時間にも縛られています。だから他人の過去も、自分が生まれる前の過去も見ることはできない。
4次元は時間軸と言われます。肉体から時間の制約を取っ払った状態ですね。そのさらに上を行く次元、魂の入れ物にも時間という軸にも縛られない垣根の無い世界が5次元です。

5次元世界へのアセンションとか超意識体って調べるとですね、ハイパーうさん臭いのがたくさん出てきますが、あくまでSF的設定に持ち込んで考えるだけにとどめておいてくださいね。変なものに影響されても私は責任取れません…。
幽体離脱とか超体験・スピリチュアル体験ってのが近いんじゃないでしょうか。
めちゃくちゃワクワクしますが概念的なものなので我々がいる現実世界にありえるかというと人は肉体から離れられませんし死んで霊体になったらもしかしたら行けるかもね、ぐらいに捉えておいてくださいね。

肉体や時間の制約が無い5次元では他人の過去にも、自分が生まれる前の世界の記憶にもアクセスが可能でしょう。この状態、ATフィールドの存在しない世界、みんながLCLになってしまった状態にすごくよく似ていませんか?
つまりマイナス宇宙に行った人たちは“個”という意識は保ったまま一旦LCLになってしまったと思った方が考えやすいかもしれませんね。もっと簡単に考えるとしたら、マイナス宇宙ではみんな幽体離脱しておりタイムマシン乗り放題(見るしかできない)といった感じですかね。

とはいえ肉体も魂も、"個"を保ったまま高次元にいくのはかなり危険なことなのです。宇宙服だけ着て命綱無しに宇宙空間に放り出されるようなものだと思ってください。
ここで3次元の存在が過去の世界や誰かの記憶にアクセスしたり元いた次元に戻ったりするためには座標(目印)が手助けとなります。
座標とは場所や形のある物質がそれにあたります。なのでゴルゴダオブジェクトも座標ですし、初号機も13号機も座標にあたります。
13号機がずっと初号機の腕を握って離さなかったのは座標(ユイおよびシンジ君)を見失わないようにするためなんです。13号機が初号機を離さないでいてくれたからシンジ君はその中にいたアスカ、カヲル君、レイの魂にアクセスすることができました。

ゴルゴダオブジェクトとネブカドネザルの鍵

マイナス宇宙における座標のひとつであるゴルゴダオブジェクトも3次元の形を持った“物質“であるわけです。形が必要ないはずのマイナス宇宙という世界になぜ形を持ったものが存在しているのでしょう?ゲンドウはこれを「何者かが残した」と言いましたよね。
3次元的座標を必要とするのは3次元の世界で生まれた者のみ。ならばその誰かとは、元は3次元にいる人でしたがガフの扉の向こう側(高次元)に行き、新劇場版では人でない姿で登場し、アダムスを使いまくっていた者です。
旧作のゼーレしか見当たりませんね。

勘違いをしているゲンドウ
しかしゲンドウはゼーレの存在を知っているはずなのに、なぜゴルゴダオブジェクトをシンジ君に説明する時は“何者かが”と言ったのでしょうか?
おそらくですが、ゲンドウは旧作ゼーレ≠今作ゼーレと認識していたのではないかと思います。
旧作ゼーレが高次元からモノリスを通して話しかけてきているとは思っておらず、よくある悪役のように世界のどこかに脳みそだけが保存されておりそれがゼーレの本体だと思っていたんじゃなかろうかと。
つまり

旧作ゼーレ(ゴルゴダオブジェクトにアダムスと6本の槍を残した何者か)
⇅別物
今作ゼーレ(この世界のどこかに“本体”があり、何者かが残したアダムスを勝手に使っている)

モノリスを通じてゲンドウと連絡を取っている

と勘違いしていたということです。
実際は今作ゼーレは実体を無くした旧作ゼーレと同一であるため、最初からゲンドウを全然信用していなかったのも納得なのですが、ゲンドウはどうしてゼーレは自分を信用してくれないのだろう…?と疑問だったんでしょうね。鈍感な男…。

ゲンドウはゼーレの電源を落としてしまえばこの世界のどこかに保管されているであろう脳みそも脳死するだろうざまあみやがれ!と思っていたわけです。今作ゼーレは高次元の存在ですしゲンドウとの通信手段がモノリスのみなので電源を切られたらアウトなことに変わりはありませんが。
今作では人類補完計画を提唱したのはミサトの父、葛城博士となっています。ということは旧作の経験からゲンドウを頼りにするのはアカンと判断し、ゲンドウに代わる実行者として葛城博士に入れ知恵したのもゼーレでしょう。

ちょっと話が脱線しそうだったので戻しましょう。
上記からゴルゴダオブジェクトを作ったのはまぁ〜確実にゼーレだろうな、と。
ゼーレによってアダムスと6本の槍が保管されていた場所。

ネブカドネザルの鍵とは
アスカの話をするはずだったのにこんなところにまで行ってしまうのかという感じではありますがマイナス宇宙・ゴルゴダオブジェクト、とくるとこいつの話もしておいた方が後々で楽なんです。すみませんね。

ネブカドネザルの鍵を使いヒトならざる者になったゲンドウは「この世の理を超えた情報を書き加えただけだ。」と言いました。シンジ君に「父さんは何を望むの?」と聞かれた時も「お前が選ばなかった(みんなLCLになった)世界」と、なぜか旧作のシンジ君を知っているようなことを言っています。
ネブカドネザルの鍵を使うと、新劇場版の世界よりも前に終わってしまった全ての世界の記憶(この世の理を超えた情報)を得ることができるのだと考えられます。
ついでにゲンドウは人間体であるはずなのに使徒ビームが撃てるようになっています。本来これはアダムベースしか持っていない力なので、これもネブカドネザルの鍵のおかげでしょう。
つまりネブカドネザルの鍵とは「アダムベースの力を注入する装置」ということですよね。
過去の考察では13号機にダイレクトエントリーするために使うんじゃないか?としていましたが、おしい!

そういえば全ての世界の記憶を保持している存在がもう1人いたと思うのですが…そう、渚カヲルですね。アダムスとなった量産機の1体を魂と肉体に分け、魂だけをクローン体へ入れられた存在。彼もまたアダムスの1人ということです。
なので「アダムスの力=全ての世界の記憶を引き継げる力」それはイコール、ネブカドネザルの鍵もアダムスの1つなんです。(アダムスについてはまた後ほど)
アダムスが保管されていたゴルゴダオブジェクトとは生き物それぞれの魂が持つ記憶を記録している場所、すなわち"歴史(記憶)の保管庫"みたいなものだと思っていただければ。

ゴルゴダオブジェクトは運命を変えられる場所
ゲンドウはここを「運命を変えることができる唯一の場所」と言いますが、自分の運命を変えるってどうすればいいと思いますか?
例えば私にラミエルとどうやっても出会えない運命があるとしましょう。そもそも1回の人生、1回の世界で生きている間、それが運命だなんて気づくことができないのです。
運命というのは何度か同じ現象を繰り返していると観測することで分かる事実です。それは自分の前世を知ること、つまり過去生の「認知」
ラミエルとどうしても会いたいと思う自分が起こすべき行動は過去の世界の自分を知ることなのです。過去の自分の行動と出来事のパターンを知ることで、起こりうる事象に対処するための策を練れる。
過去の自分はどの世界でも第3新東京市に住んでいなかったからラミエルを一目見ることができなかった。だから次は何がなんでも第3新東京市に住もうと対処する。それが運命を変えるということです。

先ほども書いたように、ゴルゴダオブジェクトは記憶の保管庫で自身の過去生を知ることができる場所なのです。ここに行けば過去全ての世界にいた自分の、さらには他人との記憶にアクセスが可能です。自分の過去を知り、運命を認識しそれに対処する方法を考え、そしてエヴァイマジナリーを使って運命に向かってしまう線路を最初から別の道へと切り替える。
私が第3新東京市で生まれていないからラミエルに会えないのだという運命の原因が分かったら次に起こす行動は何か?
エヴァイマジナリーを使って私は第3新東京市の家庭で生まれる子なんだと世界の認識を書き換えてしまえばいいんです。
ゲンドウは一体どんなふうに世界の認識を書き換えようとしたのかというと、とっても単純なのですが「ユイと離別する出来事を誰も起こさない、ユイとずっと一緒にいられる世界」にしようとしました。その結果が人類総インフィニティ化だったんですけど。

一旦まとめ
話が脱線しまくっているので戻しましょう。簡単にまとめると

マイナス宇宙とは
肉体にも時間という軸にも縛られない垣根の無い5次元のような高次元世界。
人類総LCL化した状態に非常に近い場所。
ゴルゴダオブジェクトとは
①旧作ゼーレが残していたもの
②中に入ると記憶を全部手に入れられる保管庫
③自分の運命を認識し、エヴァイマジナリーで世界を書き換える場所。

なのでアスカの話に戻るにあたり、②が重要になります。
ということでアスカ入れ替わり説最後となる
④「ゴルゴダオブジェクト内で旧劇の惣流アスカと入れ替わった」
について考えていきましょう。
(と言ってもここまで読んだ方はなんとなく察しはつくと思いますが)

アスカの話に戻る

④「ゴルゴダオブジェクト内で旧劇の惣流アスカと入れ替わった」
シンジ君はカヲル君と何度も会っていることを思い出したんだと言っていましたね。ゴルゴダオブジェクトに入ったから旧作の時のシンジ君、その次から円環のループで何度も世界を繰り返してきた全ての記憶が新劇場版のシンジ君に流れ込んでいます。
ですが旧世界全ての記憶を思い出したのはシンジ君だけではない。
初号機のエントリープラグにはシンジ君と魂だけのレイ、13号機のエントリープラグには肉体と魂が分離状態のカヲル君と気絶している式波アスカが乗っていますね。なのでマリを除いたチルドレン全員の魂がゴルゴダオブジェクトに集結しており、全員が自分の過去を知ることができているんです。(カヲル君は元から記憶保持者ですが)
式波アスカの中にも惣流アスカだった時の記憶が流れ込んでいます。

あんまり難しく複雑に考えなくても大丈夫です。
シンジ君は過去全ての世界でカヲル君と出会ってきたことを思い出しましたが、中身が旧作シンジ君と入れ替わったか?というとそうではないですよね。
アスカも同じです。過去の世界の記憶がすべて新劇場版の世界に生きる体の中に流入し混在しているだけです。
ですがアスカは直前まで気絶していたので自分がゴルゴダオブジェクトに連れてこられているなんてことはつゆ知らず、目を覚ましたらなぜか真っ赤な海の浜辺にいた…という風に見えているんです。

すごいことにマイナス宇宙およびゴルゴダオブジェクトは他人との垣根もありませんので、自分と共通の思い出を持つ人とはその景色を通して会話ができます。
マイナス宇宙(エヴァイマジナリーの中)で起こっていることは人の感覚では感知できないのでLCLが個人の記憶を投影して知覚可能な状態にしてくれています。誰かと会話する時はその人との共通の記憶・景色を映し出してくれるというわけです。
新劇場版のシンジ君が会いに行った真っ赤な海の浜辺にいるアスカは紛れもなく旧劇惣流アスカです。
ですが、式波アスカの中に混ざり合った“惣流アスカ“部分の記憶にシンジ君がアクセスしているということなので結局は惣流アスカと式波アスカ両方に話しかけています。

ゴルゴダオブジェクトにいるときに誰かと話そうと思うと2人の共通の記憶が投影されるとは言いましたが、マリはどうして旧劇の浜辺にいられるのでしょう?マリとアスカなんて共通の記憶ありまくりのはずですしそれを映し出してくれればいいのに…とは思いますがこれはですね、マリとアスカが過ごした14年間を我々は見れていないので映し出されないんです。 アスカ+我々の共通記憶の中にマリが来てくれているという親切な配慮です。
おそらくマリとアスカの目には我々とは違う景色が映っていたのかもしれませんね。

マイナス宇宙(ゴルゴダオブジェクト)は記憶を投影させた精神の世界ですからアスカがやけに艶めかしいのもそういう演出なのではなく、あれがアスカの精神年齢を投影させた本当の姿です。(私は最初見た時スタッフのアスカ愛が爆発した結果あの作画になったのかと思いました。)とはいえ私自身も自覚があるのですが、実年齢より精神年齢って幾分か下を行っているなぁと思うので、アスカの内面的にはまだ20代前半ぐらいの気持ちかもしれませんね。理想も少し投影されるんじゃないでしょうか。
じゃぁ精神年齢29歳のはずのカヲル君はなんで大人の姿でシンジ君の前に現れなかったの?!と疑問に思うかもしれませんが、彼は今までどの世界でもずっと使徒で歳を取らなかったので精神的には大人になっていても、自分の体が成長した姿を思い描けないのです。シンジ君との思い出の姿でいたいのかもしれませんし。
アスカはエヴァの呪縛が無かったら、自分が使徒に侵食されていなかったらみんなと一緒にこう成長していたはずだ…というイメージをしっかり持っていたんじゃないかな…?と。
この辺りは観た方それぞれの受け取り方に委ねられていていいんじゃないでしょうか。

アスカが精神の世界から現実のエントリープラグ内で目を覚ました時、マリに切ってもらったはずの髪の毛はまた伸びています。アスカは式波オリジナルに使徒の力を奪われた瞬間にエヴァの呪縛が解け、本来の大人の体に戻った。よってアスカの肉体は健在であったと分かります。
「さよならアスカ。ケンスケによろしく」「姫、お達者で」と見送られ、目を覚ましたアスカは自力で13号機からプラグを強制射出させて脱出し、そのプラグはケンスケの家に届いていました。(あんな美女に選んでもらえたケンスケ…羨ましすぎる)
もしこの時のアスカが惣流アスカになっていたら、ケンスケの家には行っていないでしょうから、惣流の頃の記憶を思い出しても式波アスカは最後まで式波アスカだったんですね。新劇場版のアスカはクローンであろうとも式波アスカですから。

ということでアスカ入れ替わり説は全部ナシ!の方向で結論づけましたが、
記憶を手に入れたアスカは式波アスカであり、惣流アスカでもあり、式波オリジナルでもあるので④は物理的に入れ替わったのでは無く全てが式波アスカの中に混在しているとして落ち着きました。
式波オリジナルとも個体は違えど元は一つの魂でしたからね。
式波アスカも「自分はオリジナルではないコピーの存在だ」っていう劣等感のようなものはずっと持っていたと思います。
新劇場版において明確に両親がいる描写があったのってシンジ君だけです。それはシンジ君が紛れもなくオリジナルであるってことで、
式波オリジナルにとっては甘えられる両親がいることが羨ましいし、式波アスカにとってはオリジナルであるということ自体が羨ましい。アスカから見たシンジ君って自分が持てなかったものを持っている人だったんですよね。
でも自分がオリジナルでなくたっていいんです。たとえクローンだったとしてもそれが新劇場版の世界で頑張ってきた式波アスカなんです。

「アスカはアスカだ。それだけで十分さ。」
この言葉は式波アスカへの救いであり、式波オリジナルへの救いでもありますよね。
エヴァパイロットはそれぞれが重たいものを背負っていますが、旧作の時からアスカって一番重たくて苦しいんじゃないかってぐらい多重にいろんなものを背負ってて、正直シンジ君だけではどうしようもしてあげられないんじゃないかなって思ってました。シンジ君も抱えているものが重いので自分のことで精一杯。欠けている部分と抱えている問題点が似ているせいで相補できないんですよ。新劇場版ではそこをマリとケンスケが補ってくれていましたね。

シンジ君が最後に「ケンスケによろしく」と言ったこと
それはシンジ君の目に映っていたアスカとケンスケの関係がそう見えていたからだと思っています。
シンジ君が知っているアスカは14歳だった時のアスカ、久しぶりに会ったらトゲトゲしくなって荒んでいるアスカ。そのアスカがケンスケのことはケンケンと呼んで信頼を置いている。
アスカはケンスケに父役を求めていないけど、ケンスケはそう接しようとしている。第3村に1ヶ月ほどは滞在していたでしょうから2人の間にある信頼関係と、その関係が構築されていく14年間にアスカとケンスケの間にどんなことがあったのか考える時間もシンジ君にはあったでしょう。
それにシンジ君も心の大部分を占めている“再会したい人“がいるためお互いにもう違う方向を向いており、昔みたいには戻れないということには気づいています。
この世界をどうにかするためにエヴァに乗る。それだけがシンジ君とアスカの共通事項。

でもシンジ君はどの世界でもアスカが自分を好きになってくれたことに対して「ありがとう」と言った。これは式波アスカへの救いであり、惣流アスカがシンジ君へ抱いてきた気持ちへの救い、そして繰り返してきた全ての世界のアスカへの救いでもある。
過去の恋は無駄な時間では無かった。後悔しない恋になったからアスカは次に進めるんです。だから今の自分を認めてくれ、大切に想ってくれる人の元に行くと決めた。アスカは自分が戻りたい場所を自分で選び、自分がそばにいたい人を自分で決める。自力で幸せを掴みに行く強い女性になっていることをシンジ君は知ったから見送ることができた。
アスカってシンジ君やレイとどうも足並みを揃えない子といいますか、少しおませで1人だけお先に次のステージへ幸せを掴みに行ってしまう。そこは変わらずアスカだな〜という印象でした。

ケンスケはアスカの父親のような存在でいようとしていたことは確かです。でもアスカはケンスケをそう見ていたかというと違うような気がします。
ケンスケはアスカを「式波」と呼び、どこか線引きをしているように感じますが、アスカは「ケンケン」と呼んでいる。アスカがケンスケを父代わりとして見ていたり、好意の矢印がケンスケ→アスカならこうは呼ばないと思うんです。
アスカはケンスケに父性を求めていないけどケンスケがアスカに父の必要性を感じている。ミサトと加持さん、シンジ君とカヲル君とは逆のパターンなんです。
アスカは最初からケンスケのことを1人の人として見ています。ですがケンスケは身体年齢14歳のアスカにしてあげられることは父親のような存在になるしかない。
エヴァの呪縛が解け、体の年齢が元に戻ったアスカのエントリープラグはケンスケの家に行った。それはケンスケに対等な大人として接してもらいたいから。どんどん身体年齢の差が開いていくしかなかったケンスケとアスカの関係にも可能性が開けたということなんです。
しかし先ほど述べたようにミサトが自分に父を重ねて見なくても良くなるまで待ちづつけた加持さん、カヲル君に父さんを重ねるのをやめ1人の人として見ようとしたシンジ君のパターンとは逆です。
ケンスケはアスカの親としての目から今度は女性として接することができるようになるのかというのはケンスケとアスカの関係次第です。まあお互い14歳の頃から一緒にいるわけですから、大丈夫だとは思います。

こればかりは感想なのですが、
私はアスカには救われてほしいし、幸せになってほしい。でもアスカを幸せにするのが特定の誰であって欲しいとか、その人とじゃなきゃ嫌とはあまり思っておりません。
アスカを理解してくれる人がそばにいてくれるのであれば、誰と一緒になってもアスカが幸せを感じてくれるならそれでいい。むしろどんなアスカもアスカだと認め、理解して受け入れてくれる人とじゃなきゃ嫌です。
新劇場版の世界ではそれがシンジ君では力不足で、 14年間自分が歳を取らないせいで第3村にいづらくなっていったところに、安らぎと居場所を与えたのはケンスケですし、そしてアスカが幸せになりたいと自分から選び、帰ろうとした場所がそこだった。ならそれでいいと思ってます。
シンジ君が作ったエヴァの無くなった世界では、アスカもエヴァに乗っていたから出会った人たちとは最初から出会わなかったことになっているのかもしれない。1人の大人として自立したアスカは別の誰かを好きになるかもしれないしその可能性だって開けた。
あれだけ重くて苦しいものを背負っていたアスカが自分から幸せを掴みにいけるようになった。それだけで私もなんだか心が軽くなったような気がします。
アスカの話は一旦これで。

ラストシーンでアスカはどうして1人だったのか?(2021/09/01追記分)

エヴァが存在しない世界へと書き変わったことで、アスカはエヴァが存在した世界で持っていた記憶も書き換わって無くなっているでしょうし、エヴァがきっかけで出会った人達との縁も全く別のものに書き変わっているのでしょう。
カヲル君とレイ、シンジ君とマリが一緒にいてアスカはどうして1人なのか。今はフリーであるとか、これからケンスケに会いに行こうとしているとか、そういった風に見ることもできるかもしれません。
ですがアスカを一旦抜きにして考えると、カヲル君とレイ、シンジ君とマリが一緒にいることにはそれぞれ別の意味があり、それを示すための描写となっています。宇部新川駅でのシーンについては第3部に追記で書くつもりですが、アスカだけは先行してこちらに書かせていただきます。
私はアスカが1人でいることは「アスカが自分の願いを叶えた姿」だと思っています。

アスカは確かに自分を見て、認めてくれる存在を欲していたのは事実です。でもそれと同時に1人でも生きていける強さを欲していました。他者からの評価に依存しなくていい自分でありたいと願っていたんですね。
アスカが求めたものは2つ。承認と自立です。
これって実はどちらかしか手に入れられないわけではないです。ですが心の成長過程において先に承認をされていないと自立を手に入れることはできないと思っています。

テレビアニメ版22話の追加シーンで惣流アスカは加持さんとシンジ君に無意識に助けを求めています。1人であっても強くありたいと望んでいるのに、その実異性から守ってもらえることを期待している面があるわけです。
人に認められたい、理解されたいという純粋な気持ちは男の人に守られたい、求められたいという気持ちに内包されて奥に潜んでいる。その承認欲求に気付くということは1人でも強くありたい、自立したいと望むアスカ自身と相反しています。
誰かの助けを必要としていることは「弱さ=悪いこと」だと捉えてしまっているため、その自分に気付いたことで自己嫌悪に陥ったのですね。
誰かからの救いの手を取ることも自分の弱さを突きつけられるようで怖い、ともなればかなり拗らせていると思います。
惣流アスカは承認と自立、そのどちらも手に入れることができなかった存在なのでしょう。

その点で式波アスカの方は自分の心の奥に潜む願望には気付いていますし、理解しているのです。その上で自分は立場上・身体上それを手に入れることができないだろうから必要無いと思っている。
式波アスカはマリとケンスケが承認を与えてくれた。惣流アスカと比べると環境に恵まれていたことにより自分の手で自立を掴み取れたのだと思っています。

ところで私は結婚出産やパートナーがいることだけが今の時代の女性の幸せだとは思っていません。
家族やパートナーという理解者がそばにいてくれることを幸せだと思う人もいれば、友達という理解者がいることで十分幸せを感じる人もいる。1人で自由に気楽に生きることが幸せだという人もいるでしょう。幸せの定義は人それぞれです。

でも、今回ばかりはもしラストシーンで隣にケンスケがいたら、自立を望んだはずのアスカも結局支えてくれる他人無しには生きられないのかと捉えられてしまう可能性だってあったのです。それが幸せの形であると固定されかねない。
誰かとセットになることが善でも全てでもないし、強さでも弱さでもない。1人でいることが悪でも寂しさでもないはずです。
ラストシーンのアスカはもう人形ではなく空っぽでもない。彼女の前には無限の選択肢があり、自分の意思で選び決めることができるようになった自立した1人の大人の女性になりましたよ。と描いてくれているのではないでしょうか。

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という感じで一旦きりのいいところで第1部を終わらせてみようと思います。
第2部は新劇場版の世界の成り立ちを考えていこうかなと。キャラクターの心理がどうこう、といった話よりも旧作との繋がりやインパクトの仕組みなどの解説ですね。
2部は長くなると思いますので、先に謝っておきます。
まずはここまで読んでくださりありがとうございました!
シンエヴァ解説&考察3分の1読了記念に「スキ♡」いただけますと第2部でも頑張っちゃいます! (noteアカウントを持っていない方でもどなたでも押せますよ♡)

続けて第2部を読む!

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