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『旅するダンボール』特別試写会&クリエイティブトークセッション @IID 世田谷ものづくり学校


夢は、世界中の段ボールを拾うこと。

 「不要なものから大切なものへ」をコンセプトに、路上や店先で放置されている段ボールで、財布を作るCartonという活動を展開している段ボールアーティストの島津冬樹さん。詳しくはこちらを

12月7日からの全国公開に先駆け、ドキュメンタリー映画『旅するダンボール』の特別試写会と、『旅するダンボール』の製作チームのクリエイティブトークセッションがIID 世田谷ものづくり学校で行われました。

その模様をダイジェスト版でお届けします。

参加メンバーは島津冬樹さんに加え、監督の岡島龍介さん、企画段階から携わり音楽製作を担当している映画音楽作曲家の吉田大致 さん、そしてプロデューサーの汐巻裕子さんの4名です。

まずは映画の成り立ちからから。

汐巻:もともとはまだ島津くんがサラリーマン時代に、うちが配給を手掛けていたお肉の映画(*『ステーキ・レボリューション』)のポスターなどを担当してもらっていたんです。

そうこうしているうちに大手の広告代理店を辞めて、段ボールアーティストになる言うから、このご時勢に、そのいい会社は辞めない方がいいんじゃないのって伝えました。

島津:恐る恐る汐巻さんに段ボールの映画を作りたいという相談をしたら、ちゃんと席を設けて話を聞いてくれたんですよね。だから、これはしがみついていけば映画にしてもらえるかもしれないと思った。

汐巻:席を設けたっていい感じに言ってるけど、ちょっとその辺に座って話聞いただけですからね(笑)

しかも島津くんの言い方は、あんなステーキの映画でさえに国際的な映画祭に出展されて汐巻さん買い付けてもらえるんだから、僕の段ボールも映画になりますよねって(笑)

あのね、島津くん、ステーキは好きな人が世界中にたくさんいるけど、段ボールはどうかな、というところから始まりました。

島津:それから、何度もどうですかねというのを2年間ぐらい。

汐巻:自分で企画を紙に落として、「段ボール愛」みたいなやつをプレゼンしてきたんですが、それがまあまあ、秀逸でしたね。ただ何を言っているか、よくわからない状態はずっと続いてました。

じゃあ、わかった。それだけ言うならセルフ撮影でやってみようと。わたしはリスクを回避したいからね(笑)

島津くんはバナナの段ボールの箱が好きで、それをフィリピンに拾いにいくというので、自分で撮影してもらうことにしました。それでその集まった映像の編集部分だけ、当初は監督の岡島くんにお願いしようと思っていた。

岡島:そうですね、段ボールの映画をやるかもしれないから、編集だけお願いするかも、頭の片隅に入れておいてって言われていて、なんのことかまったくわかってなかったですね。

汐巻:島津くんは写真も撮っていて映像センスはいいと思っていたので大丈夫だろうと思って、こういう場面でこういう絵を撮影してきてねって細かく依頼しました。

にもかかわらず、帰ってきて映像を確認したら、撮れているのは段ボールにかけ寄る時の、地面と足元と、あった!という声だけだった(笑)

岡島:好きな段ボールを目の前にすると、島津くんは嬉しすぎて5歳児になっちゃいますからね(笑)

島津:その映像を見せた時の、汐巻さんに絶望された顔が忘れられません(笑)実はフィリピンではバナナはすべて麻袋にいれて流通されていたので、段ボールがまったくなかった。段ボールはなかったけど、バナナの段ボールが拾えるのは日本ということがわかったのは収穫でした。

汐巻:バナナの段ボールがフィリピンにないという話は面白かった。もしかしたら各国にそういうエピソードがあるのかもしれない。それだったら映画になるかもしれないと思ったんですよね。

ただそれだけで映画になるのか、じっくり考えたかったし、なにより素材がない!いったん来年にもうちょっとがんばってみようという感じでウヤムヤにした(笑)

岡島:それで、これはダメだということで、僕が島津くんに同行して撮影をすることになった。わけがわからない段ボール好きな男の、わけがわからない段ボールを拾う旅に同行することになった。完全に巻き込まれる形になってしまいました(笑)。

岡島:当初は島津くんが段ボールを通じて何がしたいのか、まったくわからなかったんですが、二人でキャンプに宿泊したり、ピッツバークでワークショップのための段ボールを一緒に拾ったりしていくうちに少しづつ理解が深まっていった感じです。

ピッツバークでは、僕が運転して、夜な夜なけっこう危険なところにあるゴミ捨て場に、段ボールを拾いに行きました。翌日のワークショップで使う段ボールが大量に必要だったんです。ありました!って言って島津くんが戻ってきたら、数枚ずつしか拾ってきてないんですよ。ワークショップで使うことは忘れて、自分が好きなヤツしか拾ってこなかった(笑)

島津:習慣的にいいヤツを選んじゃうんですよね。でも、いいヤツを見つけると、これをWSで使う人にあげちゃっていいのかって迷う(笑)

世界中に段ボールはを拾いに行くんですが、例えばイスラエルでは入国で「段ボールを拾いに来た」と言ってしまい、そのまま4時間拘束されて、帰りは、スーツケースに段ボールをいっぱい詰めていたせいかまた怪しまれて4時間拘束されたりとか、かなり苦労して集めているんですよね。

僕が作っているお財布は、段ボールの箱っていう生命を断って作っているわけで、財布にしていいのかは、なかなか心の整理がつかない。自分が段ボールを殺してしまっているような思いになる。

汐巻:島津くん、そこまで行くともう誰も理解できない。ほら、だれもうなづいてないよ。さっきまでみんな「へえ」って顔して聞いていてくれたのに(笑)

汐巻:島津くんは、この2年間で、繰り返し繰り返し、私や岡島監督に段ボールを通じて、何がしたいのか、段ボールとはなんなんだ、ということを問われつづけてきた。その中で本人もよくわかってなくて、言語化できていなかったことがだんだんと想いが整理されてきたんです。

その反復作業というのはクリエイターにとってすごい大事なことなんだなというのは見てて思ったんですよ。自分のやりたいことはなんだったんだというのがあぶり出されて、シンプルにそれを追求できるようになって、そうすると好循環のスパイラルに入るんだなと。

岡島:普段は編集の仕事が多くて作ったら納品して終わりという感じなんだけど、今回の映画は作った後にどうやって多くのお客さんに届けるかというプロモーションの仕事がたくさんある。今日もその一環なんですけど、つくるだけじゃなくて、届けるまでがディレクターの仕事なんだということを今回のプロジェクトで気付かされた。

汐巻:うん、そうなんですよね。監督の映画のプロモーションに参加するモチベーションがだいぶ変わってきてて。もちろん、はじめは雇われ監督で私たちとモチベーションに差があるというのはあったと思うんですけど、わりとスロースターターでしたね。公開に間にあってよかった(笑)

汐巻:監督はサウス・バイ・サウスに参加してみてどうでしたか?

岡島:監督や編集の仕事というのは、お客さんの感情を考えながら俯瞰で見ることが重要で、ある意味、はとバスの案内役みたいなものなんですね。

はい、ここにきたら笑ってください、次では楽しんでくださいというようにアトラクションを用意していて、後ろを振り向いた時に全員お客さんがついてきてくれていたら、それは成功だし、だれもついてきてくれなかったら失敗なんです。それが意図したところで想定していた反応をしていたので、それはものすごい収穫だったなと思います。

汐巻:今回は日本のお客さんと海外のお客さんのリアクションポイントが一緒で、それはけっこう珍しいことなんで新鮮でしたね。

日本の映画は映画にあまり関係のない既存の楽曲をエンドクレジットのテーマソングに流すような音楽の使い方が多くて、私としてはそれがちょっとフラストレーションで、それもあって映画音楽の作曲をやっている吉田大致さんと一緒に仕事をしているんですね。

やっぱり映画の音楽というのは監督が仕込んだアトラクションの盛り上げるためにある音楽だから、様々な緩急をつけて感情に膨らみを出すための作曲家で、たんなるメロディーの作曲家ではないんですよ。

手前味噌ではありますが、この映画でもそれがすごく上手くいっているなというのがあって、だからどこの国でも同じような心の反応を引き出しているのかなって思いますね。

吉田:この作品を通じてどういうものを伝えるのか、そのためにどういった音楽が必要なのかというのは作品を理解するまでなかなかイメージできなかったんですけど、さっき監督が語ったような流れを共有してもらったあとはすごく作りやすくなりましたね。

汐巻:とはいえインディーズだし、サウス・バイに間に合わせなきゃいけないというスケジュールがあったので、かなり無茶言ってつくってもらいましたよね。

吉田:最後、十何分あるシーンで音楽が必要で、かつその場面はこれから撮影するから、仮で黒い画面をいれておくから、そこのシーンを想定して先に音楽をつけて欲しいと。それじゃないと映画祭に間に合わないと言われてどんなオファーだと思ったんですけどなんとかやりましたね(笑)

でも、なんか聞いたら監督もピッツバーグの帰りの飛行機の中でギリギリで編集していたとか(笑)

岡島:はい、もう本当に吐きそうになりながら編集しました(笑)

吉田:なんとか間に合わせたSXSWでは、ひとり能天気な島津くんは、ほとんど英語もしゃべれないのに段ボールアーティストという他にはないオリジナリティがすごくユニークだと受けとめられていた。英語で一言、「きょうの朝、段ボール拾ってきました!」と言うだけでウケててズルいなと思いましたよね(笑)

ここからは参加者からの質問タイムにうつります。

Q財布や名刺入れ以外にこれからどんなものをつくるんですか?

島津:抱きマクラをつくりたいと思ってます。ガサガサだけど意外とそれがよくなるかもしれない。あとは、インテリアに興味があります。ゆくゆくは段ボールの素敵な家とかを作りたい。

iPhoneケースも何度かチャレンジしているんだけど、もう少しで完成するところで、iPhoneの本体がアップグレードして形が変わってしまい、なかなか完成しないんです(笑)。

Qこの映画のターゲットは?

汐巻:映画というのは複製芸術なんですね。より多くの人に見てもらわないと意味がない。だからユニバーサルなポイントで言うと「温かさ」。ほっこりしたい人向け。

テーマとしては、パッションを伝えたいというのがポイントですね。最近の映画はターゲットっていう代理店用語で語られることが多いのですが、うちの作品はそういうことではなくて、常にオールターゲット、とにかく一人でも多くの人に見てもらいたいと思って企画しています。

Q段ボールが貴重な国は?
島津:途上国やリサイクルが発達していない国、ベトナムやインドなんかがそうなんですが、僕以外にも段ボールピッカーがいて、朝起きて拾いに行くころには全部なくなってたりするんです。貰おうとすると、30円とか40円とか要求される。段ボールがただで拾える国は恵まれていると思います。

Qいま所有している中でお気に入りの段ボールは?

島津:カートボード・オブザ・イヤーというその年に拾った段ボールの中でナンバーワンを決める授賞式を一人で勝手にやっています。2017年度の受賞作品は、

3位 ミャンマーで拾った段ボール 

ポイントはビルマの言葉とミャンマーの国旗の色が入っているところ。

2位 大好きな中東のエアーラインの段ボール

シドニーで見つかった。それを見つけた時にもうシドニーにきた意味があったと思った。

1位 ブルガリアで見つけた支援物資の段ボール。

難民キャンプで使われている貴重な段ボールで飛び上がるほど嬉しかった。

今欲しいのは、警視庁が家宅捜索で使う段ボール。一度富山県警にもらいに行ったんですが、やっぱりダメでした。

今年のカートボード・オブザ・イヤー2018は大晦日にやろうかなと計画中です。

以上、『旅するダンボール』特別試写会&クリエイティブトークセッション @IID 世田谷ものづくり学校の模様を紹介しました。

2018年12月7日(金)

YEBISU GARDEN CINEMA/新宿ピカデリー

ミッドランドスクエアシネマ(名古屋)、MOVIX京都、神戸国際松竹、MOVIX仙台、MOVIX橋本ほか

出演:島津冬樹(CARTON)監督:岡島龍介
製作・配給:ピクチャーズデプト
公式サイトはこちら



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