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梅雨のはじまり

大好きなお店が幾つか、知らぬ間に5月で閉店してしまった。

この街に引っ越してきてから、1人で何度も訪れたカフェ。
友達や母が遊びにきた時にも、必ず連れていった大好きな場所。

最後に足を運ぶこともできず、しばらくはその事実が、ふわふわと雲のようにただ浮いているだけだった。

梅雨がちょうど始まった頃。

「あの喫茶店の店主、元気かな」

ふと、ある喫茶店の店主の顔が浮かんで、久しぶりにお邪魔することにした。

お店の近くまで行くと、ガラス越しに見える花柄の壁紙。そのおしゃれな壁紙の前で、おじいちゃんがアイスコーヒーを飲んでいる姿が見える。聞こえてくるのは、店内で流れるジャズの音。

ここは海外か…と錯覚するような、すごく素敵なお店。なのだけれど、一人で切り盛りする店主(優しい雰囲気を放つ二児のパパ)の気さくな人柄のせいか、カフェというよりは喫茶店と呼びたい、そんなお店である。


「お久しぶりです」

「久しぶりですね〜、元気でしたか?」

少しやせたような気がして心配になったが、話すと元気そうで安心した。

「チャイプリン」を注文して、ジャズを聴きながら待つ。

カウンター横にはレコード盤と、今流れているジャズのジャケットが飾ってある。店内で流れるジャズの音に耳を澄ませながら、ぼーっとする。そうそう、この感じ。久しぶりだ。心地が良いってこういうことだよなあ…と、一人で勝手にしみじみしてしまう。

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初めましてのチャイプリン。

ほろ苦いプリンに濃厚なクリームがのっている。どんな味か想像できなかったけれど、これは頼んで正解。黙々と食べていたら最後の一口になっていた。

「チャイというとスパイシーなイメージがあるかもしれないけど、ミルクティーのことなんです。だからミルクティーにシナモンを少しだけしか入れてないんですよ。それをゼラチンで固めて、濃度高めのクリームをのせてます。」

カレー屋さんで働いた経験からできたメニューだそう。これはまた食べに訪れたい。

気付くと他のお客さんは帰っていて、わたしと店主だけになっていた。ジャズは別の曲に切り替わり、少し静かになっている。

一時的に臨時休業していたこととか、その前までお客さんがたくさん来ていたこととか、最近オープンした知り合いのカフェのこととか、

「あんこだったらあそこです。僕はあんこ苦手だけど、妻がおいしいって言ってました。」

最後には、ちゃっかりあんこ情報まで教えてもらった。

そんな世間話を繰り返していたら、何時間も経っていた。

「またいつでも来てください」

お店を後にして、店主おすすめのおはぎを買って帰った。

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食後にちょうどいい小ぶりサイズのおはぎ。弾力がしっかりあって、塩気が効いていて、素朴で、今まで食べた中で一番好きな味だった。

久しぶりの喫茶店、つるつると食べてしまったチャイプリン、店主とのおしゃべり、素朴でおいしいおはぎとの出会い。

引っ越してきて1年半。気付いたら安心できる場所、好きな場所、大好きな味、また会いたくなる人、そういうものが増えていたことに気付く。変わらずにそこにあるってことは奇跡のようで、とっても有難いことだ。

まだまだ今までのように気軽に出かけることは難しいけれど、これからも、「あれを食べたい」とか、「あの人に会いたい」とか、そういう気持ちを大切にしていきたいと思う。


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