月2回、あんこ屋さんが来る日
小学生の頃、大好きな洋食屋さんがあった。
老夫婦が営む「ドンキホーテ」という名前のお店だ。休日になると、家族4人でよく訪れていた。
お目当てはカニクリームコロッケだった。外はサクサク、中はドロッとチーズのような濃厚で熱々なクリームが溢れだし、絶品だったのだ。
母に「何食べたい?」と聞かれると、「ドンキホーテのカニクリームコロッケ!」と必ず答えていたほどだ。
わたしが中学生になった頃。残念ながら「ドンキホーテ」は閉店してしまい、二度とあのカニクリームコロッケは食べられなくなってしまった。
その後上京して、あらゆるお店でカニクリームコロッケを食べてみたが、味が全然違うことに驚いた。どれもおいしいけど、あの味ではない。
10年以上たった今でも、目をつぶると、あの味をありありと思い出すことができる。そういう”忘れられない味”に出会えたことは、とてもラッキーだったと、振り返ってみてしみじみ思うのだった。
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大阪・中津のシェアスペース「キタナガKITCHEN」に、月に2回ほどあんこやさんが来ると知ったのは数年前。
「あんこや ぺ」というチャーミングな名前のあんこやさんは、量り売りのあんこを販売している。
あんこの他に、おやつも人気だそう。猫の形をした最中や、お豆腐のお団子など。飲み物と一緒に、お店の前のベンチで食べることもできる。
お昼過ぎに行くと大抵売り切れている事が多く、月に2回のチャンスを、いつまでも掴めないでいた。
今日こそは、と意気込んで迎えたあんこやさんが来る日。
外はザーザー降りの絶望的な雨である。
雨ですがあんこたっぷり持ってきましたのでよければお立ち寄りください
しかしお店は開いている。しかもあんこたっぷり(!!!)
それならばと、えいやっと家を飛び出た。びしょ濡れになりながらも、お店へ向かう。
駅に着いたら嘘のように雨が止んだ。
いつもは人が並んでいるお店の前も、がらんとしている。裏路地の一角で、静かに佇むあんこやさん。
「売り切れていませんように…」と祈りながらお店に着くと、ちょうど店主がお店を出てきた所だった。まだ売り切れていないみたいだ。(嬉しい!)
レジ横に置かれた淡いブルーのあじさいがキラキラ輝いている。雨のせいか、いつもはすぐ売り切れてしまうおやつも残っていた。
無事にあんこ100gを購入。念願のあんこを買えたことが嬉しくて嬉しくて。雨に濡れたことも忘れて、いそいそと家に帰った。
まずはそのままお皿に盛ってスプーンで食べる。つやつやと輝くあんこ。その美しい姿に色めき立つ。
口の中に入れると、その優しすぎる甘さに、思わず泣きそうになった。まぶたを閉じて、じっくりゆっくり味わう。みずみずしくて、小豆の風味がふわっと身体を駆け巡る。本当に優しい。優しくておいしい。こんなあんこ初めてだ。
例のごとく、あんバタートーストにして食べたりした。パンとの相性も抜群に良い。
砂糖の代わりに粗糖を使っているから、優しい甘さなのだというが、なんだかそれだけではないような気がする。
あんこは、どこまでも小豆と砂糖。けれど作る人によって全然違う味になるのだと思う。(自分で炊いたあんこはパサパサだったな…)
“忘れられない味”がまたひとつ増えた日。
しかし、ひとつだけ後悔したことがある。
初めてのお店と可愛い店主に緊張したせいか、「あんこ100gください」と、あたかも買い慣れた人のように、迷うことなくスラスラと言ってしまったこと。
あんこは冷蔵で1週間、冷凍で1〜2ヶ月もつそうなので、もっと買えばよかった。おやつも買いたかった。
後悔先に立たず。2日でペロリとたいらげてしまった100gのあんこ。忘れられない味を求めて、また月2回のチャンスを狙おうと思う。
▽お店のInstagram
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