私のにおいがするこの部屋で

私は今日、引っ越しをした。
大学4年間住んでいた部屋から荷物をすべて運び出した。
荷物の向かう先は、実家。
もう二度と戻りたくないと思っていたあの地方に舞い戻る。

にしても、私の部屋には荷物が多すぎた。4年の間で服の趣味も変われば、食の趣味も変わるし、好きなアイドルも変われば、聴く音楽も変わった。
私は、この4年間で明らかに、ここに来た時の人とは違う人になっていたのだということを、自分の部屋を片付けながら気づいた。

都内の3階建て、エレベーターなし。3階に住み、洗濯機は着る服がなくなったらまわす日々。自炊はそこそこ頑張ってたし、8畳ワンルームの部屋にはふさわしくないほどの物の量だったから、すぐに部屋は散らかってた。
特技は、出かける前にバタバタ準備してもなぜか間に合うこと、その代償に帰ってきたときの部屋は空き巣が入ったみたいに汚い。ふかふかのベッドは私の欲を忠実にさせて、家具が配置しずらい間取りは、私のことを何度もイラつかせた。収納いっぱいあるじゃんといわれるけど、ちょっと足りない。お風呂は広いし、独立洗面台、階段ではいつもどこの国かわからない系の香辛料のいい匂いがしてて、映画のセットみたいにかわいいのは外観だけだった。それが私の部屋。だったところ。

この部屋には、私が多すぎる。
この部屋中から私のにおいがしてくるし、この部屋の隅々に私の青春が刻み込まれている。この部屋は私には私すぎて、居心地が良すぎる。
壁にも床にも、私がつけた傷跡があって、その傷跡に引っ張り込まれるようにその時の記憶がよみがえってくる。

ここに越してきたときよりも格段に物が増えて、自分で買ったものであふれかえって、逆に高校生の時からずっと持ってるものってなんだっけ?とこの間ふと思った。いったい私は4年間でいくら使たんだろうか。今度はちゃんと家計簿をつけておこう。あー、あと日記もつけておかないと。せっかくの4年間だったのに、もやもやしたときに書いた殴り書きの日記しか残ってなかった。あとは、くるりを大きな声で歌いながら海岸沿いをドライブしたいという理想のデートプラン。

春になるとこの部屋は、あったかい西日が差す。その西日が差す部屋で、私は自分の夢をあきらめないように泣いたり、自分を鼓舞したりしていたし、BTSのtomorrowを聞きながら、これは自分のためにある曲だと思い、永遠に聞き続けていたこともあった。西日が差し込む春の日になると、私は毎年思い出すのかな。この部屋で、自分の夢という大きくて想像できない、希望と明るさで満ちた未来を想像しては焦ったり、苦しくなったり、それでもやっぱり諦められなくて悔しかったり、あの時感じた感情を思い出せるのかな。

この部屋で友達とお酒を飲みながら話し込んだ時間も、泣きながら話した時間も、DVDを見た時間も、一緒に洋服を決めた時間も、風船を割って笑いあった時間も、いつかちゃんと思い出になってちゃんと思い出せる日が来るのかな。

この部屋には、私が多すぎる。私のにおいが染みついている。私がここで過ごした時間すべてが、愛しくて、せつなくて、馬鹿げていて、楽しそうで、苦しそうで、そしてうらやましい。
思い出がありすぎるこの家を離れることも、忘れることもできそうにない。私には、この家がすべてでこの家が私だから。
4年間ずっと、いつも私を守ってくれて、慰めてくれて、どんな時も私を受け入れてくれたここは、私にとってはもう私でしかない。私は私と離れることができない。いや、私は、この家に住んでいたどの瞬間の私のこともおいていくことができないのだ。あの時の私があったから、今の私がある。あの時、この家で感じたこと、考えたこと、見たこと、すべてのことが今の私を作り出している。あの時の「私」だったあの子のことを、私はこの家に置いていけない。だから、あの子もその子も、みんな連れて行かないと。
荷物では運べないものもあるのが引っ越しのさびしいところなのか。
次の家に着く時までには、ちゃんとあの時の私たちを連れて行けるのだろうか。もしかしたら、何年も後になって、久しぶりって笑ってやってきてくれるのだろうか。

泣いたり笑ったりしたけど、どれも本当にきれいだった。
BTSが言っていたことは本当だった。
この家で過ごしたこと、過ごした私、過ごした仲間、どれもみんなきれいな思い出。私の青春。

泣いたり笑ったりしたけど、どれも本当にきれいだったよ。

ありがとう。



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