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パン屋の おはなし あのね     たくさんのぱん

たくさんのぱんをつくるためには、それなりの道具や機械が必要です。

ここはパン工場の食パンライン。そこには、工場の中でもひときはハバをきかせている食パン3人娘がいます。

生地を一定のおおきさにカットする中の娘。はっきりものを言うので皮肉屋と思われがちですが、悪気はないのです。本当は慎重な小心者なのです。ただ自分のものさしにあわないと、落ち着かないというところは確かにありますけれど・・・。

カットされた生地をまるめる末の娘。カラカラと明るい性格です。
よく気がつく頭の回転のよい子です。でも、時々手を抜いて形の整わない生地を流して姉達ににらまれちゃったりして・・・。

上の姉は、まるめられた生地を観覧車のようなカップに受け取って休ませてやります。そこから出た生地は、一つの型に6つづついれられて、3斤の食パンになっていくのです。
姉は食パン生地のゆりかごのように包容力があって、ゆったりとした性格ですが・・・
たまに、自分も居眠りをして生地たちを落としてしまうことがあります。・・・たま~にですよ。


・・・今日は定休日
工場の中はひっそりとしています・・・・・
「はぁ~」と末の娘
「はぁ~」と中の娘
「はぁ~」と上の娘
3人?そろってため息をつきました。                                  
「なんだよねエ」と末の娘
「なんだわねエ」と中の娘
「そうよねエ」と上の娘
これで決まりです。彼女達の悩みはあの事です。

・・・ちょっと余談ですですけど、女性の皆さんて「あれよ!あれ」「あーあれね!」「そうよ!あれなのよお」で通じちゃう魔法の言葉を使えるんですよね。彼女達も例外ではありません。本当不思議・・・・・

彼女達の悩みというのは、最近この工場へやってきたサオ秤とスケッパー(生地を分割する道具刃はついてない)の仲が悪いということなのです。
スケッパーが生地をきる音・生地をのせられて秤の跳ね上がる音、工場のいろんな者?たちにとって、かれらの奏でる音はとても楽しいBGMのはずなんですもの。
ところがその二人  ?  ハカリはワルツが好き、スケッパーはロックが好き・・・・・      と まったくあわないんですよ・・・
これは工場の「モノ」たちにとって大問題です。
そんな二人が組んで仕事をすると、なんともギクシャクした音が響き渡ります。
自称音楽通の大型ミキサーからはブーイングまででるしまつです。
・・・まあ彼は普段から文句いいの性分ですがね。・・・
彼らが働くと作業台は頭痛が激しくなり、最近では寝不足もたたってか立っているのがやっとです。
二人の仲をなんとかしようと間に入った一本気な性格の麺棒も、腰骨が曲がって今は静養中なんです。

『何かよい方法はないかしら』というのが彼女達のため息の素なのです。
・・・・・・そう 『素』。まだあるから、もうちょっと聞いてね・・・・・                   

そんな思いが天に通じるときがやってきました。
ある頃から、まだ経験の浅い一人の若者が二人と働くようになったのです。
3日もたったでしょうか・・・なんとその若者が心の中で口づさむ歌がハカリとスケッパーに伝わっていくようになったのです。そして周りへも・・・
熟練した職人さんならいざしらず、彼のようにカンカン(生地を一定の重さに分割していく作業。生地を切る音、ハカリのはねあがる音から”カンカン”すると言う)を始めて間もない人の心が道具に流れていくことは・・・・めったにないことなんです。
ましてや、あの仲の悪い二人にね。

若さと希望に満ちた若者の心が響きます。
工場の者達は大喜びです。
・・・・いえ、・・・・・でした。  ここ  ここからなのよ  問題は・・・

最近になって若者の心の中は、せつなさで一杯なんです。  どうしたのかしらねえ
工場の者達は、若者に元気を取り戻してもらうため、3人姉妹を中心に緊急集会を開くことにしました。
6月の2回目の定休日。
工場の者達は、道具や機械たちはもちろん床・壁・蛍光灯・換気扇などなど、みんなで知恵をだしあっています。もちろん仲良くなったハカリもスケッパーも、作業台も麺棒も参加していますよ。

「どなたか 彼の”せつなさ”に心当たりのある人いらっしゃいません?」
上の娘がみんなに問い掛けました。
少し間があって・・・工場の入り口にある手洗いの蛇口が一言
「僕のところで手を洗うとき  誰かを見てるような・・・探してるような・・・気がするんだけどなあ そしてよくため息をついていくよ」
まってましたとばかりに鏡が言います。
「あの娘が映ったときだけ彼の目が少し大きくなるのよ。原因はあの娘なんじゃないかしら・・」
「だれだ  だれだ」
「しってる?  だれだれ?」
「あのおばさん?うっそぉ」
「だれなんだよおお」

「ちょっと!静かにしてよ!話が進まないじゃない!」
中の娘が言いました。
鏡が少しもったいつけながら、娘の名前を告げました。
「おおおおおおっ」という声がわきあがりました。

「ようは  きっかけづくりよね」
末の娘が言いました。
「そんなの 簡単さ!」
ラックにのった鉄板皿が言います。
「俺達は彼女と働く時間が多いんだ。それでOKさ!よし決まりい!」
「それじゃあ  みんなに  わからないよ」
ラックがニコニコして話を続けます。
「こういうこと・・・みんなで彼とあの娘の仕事のくぎりをいっしょにしてやろうというのさ。そうすりゃ休憩の時間がかさなるだろ できるだけ二人きりの時間を多くつくってやろうじゃないか。それにはみんなの協力が必要なんだ。  なっ そうだろ?」
と鉄板皿にウインクしてやりました。
「まっ そういうことよ」
と鉄板皿。
「なるほど・・・良い考えじゃないか」
無口なオーブンが言いました。
「賛成の人は拍手なり足踏みなりしてくださーい。」
と中の娘が決をとりました。
工場の中は大音響・・・・
「はいはい  わかりました じゃあみなさん 明日から頑張りましょうねえ」
上の娘の一言で緊急集会はおひらきとなりました。

次の日から、みんなの手際の良いこと?悪いこと?といったらありません。ハカリ・スケッパーはスピードアップ、鉄板皿とラックは時間かせぎ、みんなそれぞれ頑張っています。
そんな彼らの努力を知ってか知らずか、若者の心は少しづつ力強く、自信と喜びに満ちていきました。
「やったね!」
「おう!あいつ うまくやったな」
「ばんざーい!」
みんなニコニコしています。
めでたし めでたし    『おはなし』らしい終わり方で よかったよかった。

・・・・・いえ  実は・・・・
中の娘が少し皮肉っぽく言いました。
「今度はあの娘に、彼の歌の先生になってもわはなきゃあねえええ」
そうなんです・・・
彼の誠実さはよーく伝わってくるのですが・・・
リズム感のほうは・・・・なんともかんとも・・・


まあ欲をださずに、気長にいきましょうよ・・・・ネ。

                                       おしまい

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