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わたしの島ぐらし

わたしは大学を卒業してから、とある離島で暮らしている。ゼミの実習で訪れて好きになり、その後も何度か足を運び、卒論の研究のために通った。当時特に将来やりたいことも見つけられず、ふわふわしていたわたしは、ふとこの島に住んでみようかな?と思うようになり、幸い仕事も見つかったので卒業と同時に引っ越してきた。それから縁あって結婚して、今は夫と二人で暮らしている。

島でくらそうと決めた時、そこには「自然の中での田舎ぐらし」みたいなものへの憧れがあった。せっかく島へ行くのだから、島でしかできないくらしをしよう、と。

だけど実際住んでいるのは、島の中でも中心地の住宅街の中にあるアパート。平日は仕事をして、家にいる間は買い物に行く以外は家でぼんやりと本を読んで過ごす。「自然の中での田舎ぐらし」の雰囲気はない。

そんな時、同じく卒業してから島に来たという同年代の友達ができた。その子が住んでいたのは、比較的「田舎」と思われる地域で、活発な子だったから地域の人と仲良くなって飲みに行ったり、いろんなことに挑戦して楽しんでいた。

学生時代の友達に会う機会がある時、わたしが島に住んでいるということで、「島らしい生活を楽しんでいるんでしょう?」と聞かれることが多かった。

自分のイメージしていた生活、島の友達がしている生活、学生時代の友達がイメージする生活、そのすべてと、自分の実際の生活はかけ離れていて、わたしは「せっかく島にいるのに、つまらない生活をしているんじゃないか」と思うようになった。島にに来たばかりの何年かは、その思いがずっとわたしをどこかモヤモヤさせていた。

いろいろと、積極的に活動もしてみた。友達も増えてきて、飲み会に行ったり新しい趣味を始めたり。いろんなことをやってみるのは、楽しかった。ロードバイクに乗ったり、着物の着付を習って、仲間のみんなで出かけたり、民謡や日本舞踊を教わったり。友達の紹介で今の夫と出会うこともできたし。

初めはいろんなことに手を出してしまって、最初は楽しいばかりだったけど、少し疲れてきてしまって、途中で続けられなくなったものも多い「せっかく島にいるんだから」という気持ちとか、勝手な島ぐらしのイメージに囚われすぎて、自分が何をしたいのか、どんなくらしをしたいのかっていう部分を、ずっと無視していたんだよね。

「こんな生活をしたら素敵」っていう憧れじゃなくて、ほんとに自分がしたい生活ってどんな感じ?って考えるようになって、それに合わせてしたいことをしようって思うようになった。そして、そもそもわたしは、本当は人付き合いが苦手で、週末は引きこもっていたいタイプで、手芸とか読書とかインドアなことが好きなんだって気づいた。

気づいたというか、やっと認めたって感じかな。もともと自分はずっとそうだったけど、活発な人間に見られたくて、ましてや「せっかく島にいるんだから」もっと外に出て楽しもうって、思い込んでいたんだろうな。だけどだんだん、そういう思い込みで生活を続けることが苦しくなってきて、ついに自分の本心を認めることができた。

自分の本心を認めて、それに従ってくらすようになったら、すごく楽になって、自分の生活を楽しめるようになったの。ずっと、よくわからない憧れとかイメージを求めて、ふわふわとしていたのが、ようやく地に足ついて生きられるようになった。

結局のところ、島にいようがどこにいようが、わたしはわたしなんだよね。どこにいたって、わたしはわたしの生活を楽しめばいいの。島にいるっていうことが、わたしの中では大きすぎて、自分の生活を楽しむという気持ちが、ちょっと遠ざかっていたんだよね。

地に足つけて、わたしの生活をしようと思うことで、島での生活を、ちゃんと楽しめるようになった。

実際島にいることで、ちょっと出かけたら綺麗な景色が見られたり、わたしみたいな運動音痴でもロードバイクとか挑戦できちゃったり、おいしいお寿司が気軽に食べられたり、島ならではの楽しみはたくさんある。仕事を始めてから勉強して国家資格を取ったことや、結婚したことも、島ならではないかもしれないけど、こっちに来てから出会えたこと。いろいろ手を出した趣味も、自分が本当に楽しめるものだけ続けている。それだって、島にいなかったら、きっと経験できなかったこともある。

こうして、心から島でのくらしが楽しいって感じられるようになるまで、実はかなり時間がかかったの。でも悩んで葛藤してきた時間も、大切なわたしの生活の一部。そうやって自分自身についてじっくり考えてきたからこそ、今こうして楽しむことができていると思うと、不器用に悩んでいた過去の自分も愛おしい。

そして今こんな風に楽しく生きることができるのは、たくさんの人のおかげ。わたしは本当に、人の縁に恵まれていると思っていて、たくさんの人のおかげで助けてもらったり、学ばせてもらったり、いろんな経験をさせてもらっている。わたしを取り巻くすべての人に感謝したい。

こうしていろんな出会いや経験を積み重ねていった先に、どんな未来ができあがるのか、まったく想像もつかない。だけど、ただ今幸せでいられることに感謝して、今という時間を大切に楽しんでいきたい。


読んでくださって、ありがとうございました。

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