見出し画像

【カサンドラ】 3.横浜-2

ガクが自分の車を出して、助手席にいた金髪男と千恵を乗せ
私の家まで迎えに来た。
”着いたー”という、O型の千恵らしいメールを受け取り外に出ると
自宅からの細い路地を出た川沿いの通りに、木目ラインの入った白いマークⅡのバンが停まっている。
ほぼ純正の仕様で乗っているようだが、
車内にはココナッツのカーフレグランスが香り、おおらかで芯のあるチャカ・カーンの歌声が響いている。

ガクは「こんばんわ~」と上半身を屈ませ、後部座席に乗り込んだ私とバックミラー越しに目を合わせると
すぐに視線を落としてからこちらに振り返り「はい。」と、煙草の箱を私の手に乗せた。
白地に緑のライン、ヴァージニアスリム。
初めて会った夜に、煙草がないが理子の吸っている銘柄が吸えないと言うので、
私が2本あげたのだ。それを箱で返してきた。
箱を受け取って横を見ると、千恵が目を細めてニヤついている。

元町商店街に入って200mほどの位置にある細長い建物の地下に、HADESというクラブがある。
重いハンドルを引き上げドアを押し開けると、自動的に2人ずつに分かれ
私とガクはカウンターに座って1杯目のアルコールを交わした。
爆音で床を突き上げるウータン・クランをバックに顔を寄せ合い、住まいや育ち、
年齢や仕事でのポジション、乗っているサーフボードのメーカーだとか、
互いが纏っている殻を見せ合う時間だ。
私がサーフィンをしていることを伝えると、今度は一緒に海に入ろうという話になったところで
千恵と金髪男が手を繋いでこちらへやって来た。
私は千恵の手を引いて化粧室に行き、2人で個室に入り鍵を閉めると、ぎっしりと葉の詰まったパイプを交互にふかしながら互いの相手の印象を告白しケタケタと笑い合った。
フロアに戻ってガクにパイプを返すと4人で音楽に身を委ね、その場に居た若い男女数人を混じえて会話を交わしながら深まる夜を楽しんだ。
その後金髪男と千恵は近くのバーに向かい、私とガクは海までの道を少しドライブしてから、海沿いのホテルに入った。

理子が嫌いなわけではないし、ガクを好きになったわけでもない。
だからその後付き合うこともない。
友達が気に入っている男が私を見ていることが快楽。ただそれだけだった。
それは麻薬のように私の心を蝕み、いつしかこの快楽の虜になっていた。

オトを連れて行くと寝盗られる。という話を笑い話にするほど
理子も千恵も慣れていた。
きっと2人とも、本気で好きになる男は私に会わせない。
白いエクステを編み込んだ長い髪に、濃いメイク。痩せすぎと言える小麦色の肌を所々露出する、アルバローザ(※1)。 
当時のギャルのフォーマットのようなビジュアルだった私は
彼女たちにとっても、男を釣るためのアクセサリーのようなものだったのかもしれない。


Wu-Tang Clan - C.R.E.A.M.

(※1)ALBA ROSA(アルバローザ)
https://www.albarosa.co.jp/

>>



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?