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あざとい

あざとい

あざとい2

あざとい3

あざとい4

あざとい5


 Hama Project(ハマプロジェクト)は、日本の大手事務所によるガールズグループプロジェクトである。
 メンバーそれぞれの男性に対する媚が連なり、大海を泳ぐ”ハマチ”のようにいずれ立派な鰤(ブりっ子)になる存在を発掘・育成するというH.M.Chiiの想いから「Hama Project」と命名された。
 本日は、そんなHama C選抜オーディションの日である。
「失礼しますぅ。はぢめましてっKama☆Totoです!」
 語尾が癪に障るような女性が入ってきた。
 オーバーなリアクションはさながら劇団員の如く。
 過度ではあるが、H.M.Chiiには好感触のようだ。
「ハジメマシテ。名前、とてもイイね。どんな想いがあるの?」
 憧れのH.M.Chiiに尋ねられた女は、瞳から☆を出して慌てつつも、自信の名前の由来を語る。
「かまぼこってぇ〜お魚のすり身でできてるじゃないですかぁ〜? そんな当たり前のことぉみ〜んな知っているのに、生まれて初めて知ったかのように『えぇ〜!!! このかまぼこ、魚(とと)でできてるのぉ〜!?!?』って言ったらびっくりされてあだ名になったんですぇ〜」
 語りしな、女は舌先をピロッと出して拳を握り、己の頭をちょこんと小突いた。
「ハイ。とてもイイです。あなたが必要です。TUBEをあげましょう」
 女は、TUBEのジャケットを手渡され、感極まった。
 H.M.Chiiに海を彷彿とさせる、この『TUBE』をもらうことは、オーディションの合格を意味する。
 女が部屋から出ると、次の者がやってきた。
「はじめまして。ぶりこです」
 松田聖子を彷彿とさせるシルエットのヘアスタイルに、ノースリーブの白いワンピース。
 瞳は純朴に艶めき、笑うと覗く八重歯があどけない。
「…アナタみたいな人を求めていた。一緒に素敵なもの、作りましょう!」
 女はH.M.ChiiからTUBEを手に入れた。
 女が部屋から出ると、次の者がやってきた。
「どうも。シロフクです」
 全身を覆う毛皮のコート姿で登場した女は、実のところそれは毛皮ではなく羽毛で、少々緊張のあまり体を細く擬態していた。
「イイ。何も言わなくても伝わるよ。フクロウ、猛菌類だ…。可愛い顔して何人も食ってきたネ!! 合格デス!」
 女が部屋から出ると、次の者がやってきた。
「こんにちは。あざとくて、何が悪いの?」
 体のラインを強調するタイトなニット姿で登場した女は、席に着くなりそう言った。
 女性らしい丸みや柔らかさを持ち合わせているが、とても細く引き締まっていて媚を売りすぎていない感じがする。
「…ん? なに?」
 女の登場に一切心が揺れないH.M.Chiiは表情を消した。
「え、あ…。あの…。結婚できないんじゃなくて、しないってスタンスです」
「ふーん」
 H.M.Chiiは女の情報が書かれた資料を手に取るわけでもなく見つめて、面倒臭そうに言った。
「なんかさ、肉肉しさがないっていうか、パンチが弱い」
 女の表情が引きつる。
「なんかキャラが頭に入ってこないんだよね。なんだっけ? “あらそい”?」
「“あざとい”です」
「ああ、それそれ。なんかね〜。ひよってない? まだロールキャベツとか言ってるほうがマシだよ」
「でも今まで数多の男を虜にしてきました! ボディーメンテナンスも欠かしませんし、食生活や睡眠にも気をつけて…」
 H.M.Chiiは女が発しているのを上から被せるように言う。
「ありきたりなんだよね。つまんない。10年経っても覚えていられる存在が欲しいの。弱いよ、えっと…“こいしい”?」
「“あざとい”です」
 自信を持って参加したオーディションに落ちてしまった女はあざとさを捨てて、美味しいものを好きなだけ食べたり、ちょっと野暮ったい服を着たり、日常のささやかな楽しみを満喫した。
 そんな女の姿に好意を持った男が、彼女に交際を申し込み、後に結婚。
 今は元気な男の子の母親となった。
「ごはんできたよ〜」
食卓に並ぶ鮮やかな夕餉。沸き立つ湯気が部屋をまろやかに染める。
「うわぁ〜! 今日も美味しそう! 僕、お母さんのご飯大好き!」
「父さんも、母さんのご飯が世界一だと思うぞ!」
褒めちぎる男たちに、母親は言う。
「うれしいなっ。実は今日の夕飯のロールキャベツはお母さんの得意料理なの♡」
母親、もとい女は旦那と息子に向かって小さく舌を出した。

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