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東京現音計画#18〜クリティックズセレクション2:中井悠〜ZOOMUSIC

プログラム:
福田考樹(構想)《staff meeting in progress》 (2022)
古賀晶子 (構想)《m(usi)c  しおんがく)かい》(2022)
ヴァルン・キショール《peculiar convergence chamber》サクソフォン、チューバ、ピアノのための(2022)
ジェン・カービー《music: a movement》(2022 公募作品)
G・ダグラス・バレット《I AM SITTING IN A ZOO (ON ZOOM)》アルヴィン・ルシエを偲んで(2022)
荒野愛子《music, in volumes|巻物音楽》(2022)

演奏:東京現音計画 
有馬純寿(エレクトロニクス)、大石将紀(サクソフォン)、神田佳子(打楽器)、黒田亜樹(ピアノ)、橋本晋哉(チューバ)

主催:東京現音計画
舞台監督:鈴木英生(カノン工房) 
制作:福永綾子(ナヤ・コレクティブ)
フライヤー&ロゴデザイン、写真:松蔭浩之
協力:東京大学副産物ラボ+芸術創造連携研究機構、帝塚山学院大学、有限会社ハリーケン、モモ・カンパニー

今回の企画は、zoomを「固有の特性を持った「楽器」と見なし、その楽器によってのみ演奏•視聴可能な音楽のジャンルがあったとすればという空想」(中井氏プログラム•ノート)にもとづくものだという。しかしながら、zoomを介することの必然性が薄い作品が多かった。

福田(構想)作品…メンバーが「作曲家」に扮して、五線紙に音符を書き込み、ピアニスト(黒田氏)が提示されるそばから弾いていく。パッセージ自体はごく短いけれど、書き足したり、消したりと譜面がどんどん変化していくさまがおもしろい。黒田氏の技量に支えられた舞台だった。でも、この一連のプロセスにzoomを使う必要はない。みんなその場にいるのだもの。

古賀(構想)作品…制作の福永氏に中井氏が、今回の企画の経緯についてインタビューするところから始まる。ところが、突然舞台裏から大石氏のサックスや、橋本氏のチューバの音が2人の声にかぶさるように聴こえてくる。どうも楽器で2人の言葉をなぞっているようだ。それがひと段落すると、今度は2人が自分の発した言葉をスクリプトとして読み上げ始め、言葉がどんどん断片的なものになっていく。
前者の趣向は、言葉をMIDIデータ化し、それを使って楽器でなぞっているという。だが、結局聴こえを模倣することであって、プログラム•ノートにあるように「翻訳」とする捉え方には違和感がある。また、後者のスクリプト作成はzoomのトランスクリプション機能を利用したものだが、同機能のアプリは多数あり、必ずしもzoomの特性を活用したものとは言えないだろう。また、自らの意思で語る言葉と、スクリプト化された言葉の性質の違い、また言葉が無意味化されるプロセスはもっと掘り下げる余地がある。

キショール作品…アニメーション•ビデオの背景と、3人の奏者のライブ映像を組み合わせたものが投影され、提示された背景色が演奏のキューとなる。zoomのスピーカーテスト用のフレーズに始まり、3者のエッジの効いた演奏が繰り広げられる。zoomを立ち上げ、複数の端末のカメラを使っているが、これもzoomである必然性は薄い気がする。

カービー作品…"Music; a movement" は、先のメンバーたちが作った譜面を神田氏が打楽器で奏するのだが、叩く動作をするのみで音は出さない。"movement"は「楽章」の意味もあるが、「動き」が原義なので、一種の言葉遊びか。神田氏の動きは美しいし、少しずれて複数の姿が重ね合わされると、身体の動きがより明確になって興味深い。しかし、なぜ譜面を使い回すのかが不明である。また、これもzoomを使う必然性はない。

バレット作品…アルヴィン•ルシエへのオマージュという。尖った電子音も聴こえてきて、音楽は聴き応えがある。他方、3つの国の動物園を撮った動画を並べているうち、作曲者自身が撮っているブロンクス動物園の動画は、作家自身が映っており、何やら物言いたげだが、他の2つはあまりメッセージが感じられないのが残念。

荒野作品…画面に小さな巻物を持つ手があらわれ、するすると広げていくと、五線譜が記されており、譜面通りにピアノが弾いていく音が聴こえる。巻物を一通り広げ終わると、画面が変わってタブレットが映り、そこで今の巻物を広げていくさまが再生される。と同時に、タブレットの手前に映っている手がまた巻物を広げていく…という具合に、合わせ鏡を覗くように音と動画が積み重なる。途中からは、舞台上のピアノが加わったり、zoom上の複数の奏者の音が重なったりする。zoomを通すことによる音の遅延を巧みに使っており、最後の演目でようやく必然性のあるzoomの使い方がみられた。多くのピアノが奏していく音はシンプルで大変美しい。せっかくならノートパソコンのスピーカーを通してでなく、普通のPA機材とディレイ•システムを使えばいいのに、とも思う。

凄腕揃いのアンサンブルの演奏会である。各人の妙技と、丁々発止の緻密なアンサンブルを期待して出かけたのだけれど、聴かせどころ充分とは言えず、いささか残念であった。

終わってみれば、プロデューサーである中井氏が前面に出た企画で、全体が氏の映像作品を構成していた。自らもアーティストであるので、一回の公演を任された以上、独壇場となるのは当然かもしれない。けれども、上に述べた通り、zoomの可能性を広げたとは言えず、そもそもzoomにこだわる意味が判然としなかった。

なお、「zoom生配信の舞台裏」という設定ゆえか、場面の切り替えごとにスタッフが右へ左へ動き回り、やや落ち着かない。また、機材の切り替えにわずかずつだが時間を要し、曲ごとの転換があまりスムースとは言えなかった。何より、休憩無し2時間の公演はあまりに長い。途中、中井氏の影武者によるMCが入り、その間は出入り自由とされたのだけれど、MCと本編はなんとなく連続的で、出づらかったし。配信のほうが観やすかったのかなあ。(杉並公会堂•小ホール)

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