第237回:論文31の解説1回目(Prime editingについての解説が始まります? 本当? とりあえずは、ゲノム編集の歴史を振り返ろう!)

論文名:Improving prime editing with an endogenous small RNA-binding protein
掲載された雑誌:Nature
掲載された論文に関する情報:2024, Volune 628, pp 639–647
掲載された論文のDOI:doi.org/10.1038/s41586-024-07259-6

この論文をNature誌の紹介で見つけたのですが、それでも読み始めて「?」が頭に浮かんでまいりました。

それというのも、この論文のキモが何かわからなかったからです。

もともと。ゲノム編集というものがあって、私たちの日々の研究の中で取り入れたりしてきましたが、その流れからどのように異なるのだというようなそういう疑問です。

で、結局は、「ああそうか」と思ったのは、特異性と効率に影響する要因を見つけるということがこの論文の主題としてあったということです。

ですから、本当であればこの論文について深くデータを解読してい行くことが重要なのですが、それはやめて、まずはゲノム編集の歴史をもう一度振り返ることにしましょう。

使ったのは下の総説です。
論文名:A Review on Advanced CRISPR-Based Genome-Editing Tools: Base Editing and Prime Editing.
掲載された雑誌:Molecular Biotechnology
掲載された論文に関する情報:2024, Volune 65, pp849–860
掲載された論文のDOI:doi.org/10.1007/s12033-022-00639-1

ゲノム編集という言葉が出現したのがいつごろかについてはよくわかりませんが、おそらく実際的な言葉として認識され始めたのは長めに考えても10年くらいだと思います。

その当時は新しい技術というだけで、それほど興味(個人的なですが)を引くほど、瞬間的にその技術的な意味は理解できないままにおりました。

その当時使われていた技術というのはZFNとかTALENsといったもので、確かに確実に遺伝子配列を変更できる技術ではあったものの、それほどに一般化できるような感じではありませんでした。

といいますのもたとえばZFNであればzinc-binding protein(亜鉛結合性のタンパク質)と制限酵素の融合タンパク質を作るというものでありましたし、TALENsにしても制限酵素と人工合成拡散結合ドメイン(とでも言いましょうか、とにかく配列特異的に結合できる部位を自分でデザインして作るという面倒くささ)というようなもので、結構なコツと手間が必要そうな直感がありましたのです。

ですから、ZFNやTALENsが幅を利かせていた時代(それほど長くは続かなかったけれど)は一般化しなったのです。

一気に一般化するようになったのはCRISPR/Cas9システムが登場し、実用化してからだと思います。

私たちの研究室でも当然CRISPR/Cas9システムは結構早期に取り入れてきましたし、その手軽さも学部生の卒業研究にできるくらいでした(担当してくれていたIさんは元気に働かれているでしょうか?)。

CRISPR/Cas9システムが一気に広まったのはその手軽さにあります。

まず第一に、酵素はCas9という切断酵素のみですし、CRISPRのほうももうすでにデザインツールがWEB上に公開されていましたし、遺伝子組み換えの経験がある研究者であればどなたであっても、どのような標的配列であっても対象としたCRISPR/Cas9システムを構築することができました。

大体同時期くらいにAddgene(https://www.addgene.org/)がこれまた身近になってきました。

Addgeneは研究者が研究で使ったプラスミドをAddgeneに提供し、別の研究者が安価で購入できるようにした非営利業者です。

ですから、Addgeneが登場して以降は研究者は論文を読んで必要なプラスミドがあった時にはまずAddgeneを検索してプラスミドを見つけてAddgene~そのプラスミドを購入するようになりました。

CRISPR/Cas9システムに使うことができるCas9遺伝子やCRISPRの発現ユニットについてもAddgeneには十分な選択肢があって、研究者はそれらプラスミドを購入することによって、自分たちの研究室にCRISPR/Cas9システムを挿入することができるようになりました。

また、その当時から言われていた非特異的な切断についても、多くの場合には研究の問題にならないことが多いでしょうし、どれくらいの頻度かはわからない非特異的な切断をわざわざ見つけようとする研究者も多くいたとは思えません。

少なくとも、私たち研究内容では、非特異的な切断はそれjほど多くなく、検出されたというような記憶はそれほどありませんでした。

ともあれ、CRISPR/Cas9によって、少なくとも。、我々の場合であれば、遺伝子を部位特異的に、好きなタイミングで切断するようなことができるようになりました。

私たちの研究は細菌を使っているので、細菌は相同組み換えの頻度が真核生物に比較して非常に低いといわれているので、相同組み換えのトライアルは行わなかったけれど、それでもそれなりにCRISPR/Cas9システムの有用性については実感することができたのです。

でも、実際にはCRISPR/Cas9システムは遺伝子組み換えマウスの作出に大きな力となりました。

私は学内の遺伝子組み換え関係の委員をしていますが、ある時からCRISPR/Cas9システムを使った遺伝子組み換えマウス(特に遺伝子ノックアウトマウス)が頻繁に登場するようになりました。

それまでの研究では遺伝子組み換えマウスやノックアウトマウスの作出はいわゆるプロが自分たちの経験や秘策(秘法?)を用いて作出していたように思いますが、CRISPR/Cas9システム登場後は遺伝子組み換えマウスやノックアウトマウスの登場は加速度的に増えた気がいたします。

おそらく、遺伝子組み換えや遺伝子ノックアウトのタイミングを完全に制御できることによって、いちいち胎生幹細胞を使う必要がなくなったということが大きい要因なのでしょう。

で、CRISPR/Cas9システムが一般的になった後はCas9タンパク質の代わりにCas12タンパク質やCas13タンパク質を使い特性を挙げるという故小古呂みがなされてきました。

おそらくCRISPR/Cas9システムの応用としては、特に臨床応用としては、遺伝子変異による病態変化を遺伝子を性状は配列に戻すことによって病態変化を防ぐということがあったのだと思います。

でも、ちょっと待てよと思います。

一般的に病変部はすでに変性してしまっていますので、遺伝子変異をもとに戻したからといって病変部がもとに戻るとは言えません。ですから、直接病変部に作用させることは考えていないのかもしれません。

病変部は外科的に切除するなどして、その後に遺伝子を修正したステム細胞か何かで病変部があった部位を修復するのでしょうか?

でも、そうだとすると、外部からステムセルを導入するのでもよい気がしますので、生体内でゲノム編集を使って遺伝子変異をもとに戻すことは必要ないのかもしれませんね。

でも、ともかくそのように考えたのだと思いますが、ゲノム編集技術をさらに進めて塩基単位での編集技術いわゆるbase editionが行われるように(研究的にですが)なりました。

続く。



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