短編:人格荒廃者のノート3

__2024年7月26日、○○さんのノートはあらかた目を通したが、意味のあるまとまりは全部で3つ、昨日までに発見した2篇と以下に書き記す最後の一篇が最後だった。定かではないが、彼女は恐ろしい幻覚妄想を抱いていた。そして同時に恋もしていたのだろう。物語は寓話的でひどく抽象的だが、おそらく描かれる感情が本質で形はなんでもよかったのであろう。
 全体を通して若い頃から連合弛緩が進んでいたと思われ、○○さんは大分長い間今のような状態で過ごしてきたようだ。ノートは僕が若い頃のデザインでもう20年になるか。いずれ時代が進歩すれば彼女のような妄想に起因するであろう発想力は金に勝る価値のある創造性に変わるかもしれない。が、精神分裂病の生産性のなさだけが評価されてしまう近代から現代までの時代が悔やまれる。僕らにできることは今を生きる彼ら彼女らのケアだけである。




気の弱い少年の話ですが、少年は不幸な最期をたどる前に恋をしていました。じつはずっと前から気になる女の子がいて、ずっと目で追っていたのです。でも少年は手を触れると壊してしまう、なんとなく自分の中の殺人鬼がその子を壊してしまうとわかっていたから、開いた窓越しに遠目から女の子の家を眺めて、いろんな想像をするのが幸せになっていました。女の子に手紙を出すと女の子は喜んで何度も会いたいと言いました。少年は飛び上がるほど嬉しくて、でも近づくことをしたらきっと一瞬で壊してしまう。だから会えないけどずっと話していようと、手紙に書き記してじっと手を見つめていました。

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