❛悲しいんだね。いいんだよ、涙が涸れるまで泣きなさい❜
【ピエロの手記 104】
グリーフ・セラピー
泣くだけ泣くところからケアは始まる
アメリカで生まれたグリーフ・セラピー
「そんなに暗い顔してばかりしていないで
気分転換に旅行にでも行ってきたら」
などとは絶対に言わない
「そんなに悲しいんだね
いいよ 泣きなさい
気のすむまで
涙がなくなるまで泣きなさい」
そこからはじまる
これには驚いた
でもどんな悲しみも
とことん悲しむことからしか癒しははじまらない
悲しみを胡麻化そうとしたり気を逸らそうとするのは逆効果だ
また
悲しむことの中にも何ほどかの癒しがあるのだ
私のグリーフ・ケアは
世界が寝静まった時始まる
私が手繰り寄せた癒しはピアノである
夜のしじまを縫って
ショパンの旋律が心を震わせる
悲しみの全てをショパンに委ねる
涙は ハンカチーフがいるときもあれば
胸の中の小川になったり激流となったりすることもある
ショパンの前座を少しつとめる懐メロは西田佐知子だ
♬ アカシアの 雨に打たれて このまま死んでしまいたい
この歌詞と心のバイブレーションは
類例を見ないほど鬼気迫る迫力である
何しろ心の主は ほんとに死にたいと思っているのだから
このケアは悲しみを悲しむことによるケアである
惜しむらくは私には1日しか続かないことである
翌日の夜にはケアをしないと生きるのは難しい
悲しみに倒れてしまいそうなとき
降りかかった絶望に涙をこらえているとき
グリーフ・ケアが局面を変えてくれるかもしれない
悲しみを悲しみ尽くして、涙も枯れ果てた先に
新しい心象風景が現れてくるのではないか
一抹の希望ははたして実るだろうか
‟悲しいピエロ”