〈最後の一葉〉ーー0・ヘンリー短編集より
【ピエロの手記 112】
塀に寄り添うように
蔦の木がある
連日の激しい風で
葉はすっかり吹き飛ばされてしまった
塀に貼りつくような枝に
残っている葉っぱは1枚だけだった
パリの下町
画家のたまごたちが集い住んでいる古いアパート
ジョンシーはアパートの2階の窓から眺めて
あの1枚が散るときに わたしは死ぬんだわ
肺炎の弱々しい声でつぶやいた
その夜吹き荒れた台風は
一晩中アパートを揺るがしていた
よく朝
ジョンシーはつぶやいた
あの最後の一葉はもうあるはずがないわ
それを確かめて私は死ぬんだわ
ベッドから手を伸ばして
窓を開けた彼女の目に
緑の一枚の葉がくっきりと飛び込んできた
えっ 本当?
私は生きていいんだわ
その時アパートの仲間たちが
朝食を運んで彼女の部屋にやってきた
ジョンシーさん
病気なのに何も食べないのはほんとに良くないわ
さあ スープから少しでも食べて頂戴
すると窓から向き直ったジョンシーは
見て! あの葉は散らなかったのよ
私、生きるわ
ありがとう 朝ご飯をいただきますね
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管理人のおばさんが落ち葉を掃除しようと
庭に出て叫んだ
「あら!誰か倒れているわ
おや、1 階の絵描きさんじゃないの
まあ、冷たくなってるわ」
塀に描かれていた最後の1枚の葉は
芽のでなかった老画家の最後の傑作だったのである
一晩中風雨にさらされて
彼もまた肺炎の老画家は立てなかったのだ
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ピエロは
自分があの老画家であってもよかった、と思っている
‟悲しいピエロ”