神田川の秘密 二十四の4 テムズ川、セーヌ川、テレベ川、メナム川、イラワジ川
二十四の4 テムズ川、セーヌ川、テレべ川、メナム川、サイゴン川、イラワジ川
こういう景色の街は、世界のどこにもない例外のように思いたかった。
ロンドンを流れるテムズ川を何年か前に見た。ビッグベンを背景に写真を撮った記憶がある。ロンドンでオーガニックスーパーを経営している友人にクルージングに案内してもらったこともある。パリのセーヌ河岸を一人で散歩した記憶もある。ローマのテレべ川は何度か見ている。水の色は神田川の方が澄んでいるが、他の都市を流れる川に比べると景色はひどく無機質に見える。
今までに見てきた川で、首都を流れる川にはそれぞれの特徴があった。ブダペストで見たドナウ川は悠然とした顔をしていたし、流れもゆっくりだった。裁判所や国会議事堂などの古い建物と馴染んでいた。同じ川をベオグラードで見た。ドナウ川がサバ川と合流するのがベオグラードの街の中心部だが、同じドナウ川がブダペストとは違う顔をしていた。川が自然の一部をなしていた。
アジアの川もそれぞれの顔をしている。バンコクの中心部をうねるように流れるチャオプラヤ川はいかにもバンコクの顔だったし、プノンペンのメコン川も神田川とは違っていた。上海で見た長江はそれらとは全く異質で、川というより海といった感じだった。ヤンゴンのイラワジ川、ホーチミンのサイゴン川、それぞれの街とそれぞれの川とは互いにふさわしい顔を持ち、個性的な調和を見せていた。神田川は東京都内に水源があって、東京のど真ん中を流れる川で、水源に水を持たない世界のどこにもない特殊な川なんだ。
神田川は気の毒なくらいコンクリートでがんじがらめに囲まれている。川だけでなく東京の街全体がコンクリートの巨大な塊になっていて、川も街もコンクリートの、のっぺらぼうな顔になっている。これが東京の顔だと思うしかない。東京で暮らすにしても、仕事をするにしても精神的な疲れ、ストレスが加速する。川が生き物を癒す力を失っているからだろう。
方南橋から中野新橋までの約2、5キロの間、公園らしい公園もなく、一休みするスペースも見当たらなかった。コンビニで買ってきたジュースやサンドイッチを食べたい。午後1時過ぎていて、空腹と疲れで足が痛い。腰をおろしたい。
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