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神田川・老人の秘密 高井戸/永福町

十四の(1) 高井戸から永福町へ(2021年1月31日)
 あっけなく1月が終わろうとしている。
 1月31日の日曜日、気持ちを奮い立たせて井の頭線・高井戸駅に向かった。前回は神田川が環状八号線と交差する佃橋までたどり着き、気持ちが折れてしまった。もう川歩きを止めてしまおうとさえ思った。しかし、またやって来た。途中で投げたくないという思いもあるが、神田川が自分を呼んでいる気がしていた。

高井戸駅前、佃橋の真下で神田川に玉川上水の水が
流れ混んでいる

 高井戸駅から環状八号線の陸橋を渡って佃橋の欄干左手に立ち、川を見下ろした途端、それまでのためらいや迷いが一気に吹き飛んだ。橋の下、神田川の右岸に、暗渠の出口があって円筒のセメント口からほとばしった水が吹き出ていた。吐き出されている水量は神田川の水量を凌ぐ量で、設えられた堰に突き当たり、直角に曲がると飛沫をあげながら本流に注ぎ込んでいた。緩やかに傾斜している堰に溢れんばかりの水は20メートルほどを滑り降りて神田川の水量を倍加させ、混じり合い、溶け込んでいた。豊富な水を抱え込んだ神田川は源流の緩やかなせせらぎから本格的な川に変貌していた。2つの流れは運命的な出会いを成し遂げた満足感に浸るように下流に向かって行く。神田川はまた一つ成長し、姿を変えていた。

 暗渠から流れ込んでいる水は玉川上水からの助水だった。中央自動車道の地下を流れた玉川上水が環状八号線の地下に埋設された鉄管を通って佃橋の脇で神田川に流れ込む。玉川上水の取水口は羽村の先、多摩川だから水は豊富にある。神田川は川幅も広くなっている。佃橋を大股に歩いて川幅を測り、おおよその見当を付けてみたが、12、3メートルはありそうだ。

手入れの行き届いた桜並木
井の頭線・高井戸駅前から下流に長く続いている

 橋から眺める下流域は訪ねる時期を誤ったと思わせた。
 右岸から、左岸から、太い枝が川に覆いかぶさっている。手入れの行き届いた桜の枝が遊歩道を巻き込んで長く続いていた。枝振りの見事さから、満開の桜を想像する。多くの人々に感嘆と安らぎを与え、咲き切った花びらは神田川の川面に落ちて花筏となり、流れにそって流れていくのだろう。

両岸に長く続く桜。
4月には見事な花を咲かせるだろう

 今はどこからか迷い込んだ枯葉が1枚、2枚、川面を孤独に下っているに過ぎない。川面は冬晴れの日射しを浴びて魚鱗のようにキラキラと光っている。岸に近いところでは大蛇の鱗のように細かくうねうねとしている。その光を掻き分けて鴨が2羽、胸をそらし姿勢を正して音もなく泳いでいた。これが冬の風情なのだろう。


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