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嫉妬

小さい頃住んでいたところで、母の近所の人がよく言っていた。
「一人っ子じゃかわいそう。兄弟作ってあげなさいよ」
そう言われると母はいつも困惑していた。その様子を毎回見ていた私は「兄弟なんかいらない」と、目の前のおばさん相手に大声で言っていた。結局私は最後まで一人っ子だった。
幼い私の当時の発言をどうというわけではないのだが、私が「一人っ子でいい。兄弟はいらない」と言うことで、本来この世界に生まれるべきだった私の兄弟が生まれなくなってしまったのかもしれない、と考えると背後に冷たさを感じる。
私がいけなかったのだろうか。それとも私が言っても言わなくても、兄弟がいない定めだったのだろうか。私が生まれなかったら他の兄弟が生まれていたんだろうか。そんな平行世界を考えたりする。

とはいえずっと一人っ子が心地よかったと言うとそうでもない。一人っ子というだけで余計な偏見がついて回るし、弟のような存在兄のような存在にはよく憧れる。 「弟がいそうだよね」とはよく言われるセリフだが、私はそれを褒め言葉として喜んでいる。

自分に弟がいたらとても可愛がっただろう。多少のやんちゃには目をつぶって。
自分に兄がいたら結構頼ってしまっただろう。親に言えない悩み、恋の悩みなんか相談してみたりして。

では、姉や妹がいたらどうだったのか。
きっと私は心を開かなかっただろう。歳が近ければ近いほど、同じ領域で対抗しようとして、離れていればいるほど、その年齢による 美しさや可愛さと、自分のそれとの違いに嫉妬の気持ちを抱いただろう。

ふと、そんなことを考えているから子供が生まれないんだろうか? という気持ちになった。それとこれは別。自分に言い聞かせていても。
嫉妬とは憧れであり 、自分と相手が隔絶されていなければいないほど憧れは嫉妬になる。
自分の心を見つめているだけで、そのようなものが滲み出てくる。子供が生まれたら私は嫉妬するのだろうか。夫が私には見せない仕草や表情を子供に対してしたら私は嫉妬してしまうのだろうか。そういう様子を想像してしまうと醜く寂しい。
今はそうならないための訓練期間なのかもしれない。そう思いながら、おまじないとしての葉酸をとりあえず飲み続けている。

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