箱の中の太陽
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箱の中の太陽

もちもちの藻

 窓ガラスから望むのは昼夜問わずいつだって闇が覆い尽くした空だ。
 それが地球誕生以来なのか、はたまた別の要因なのか、俺は知らない。

 だが曰く、かつて黒雲なき碧空には太陽が燦然と輝き、街灯の明りなどものともしないほどの光で地上を満たしたという。数十年前の大粛清から辛うじて逃れた藤田の爺さまが懐かしむように嘯いていた。
 それが本当なら俺も太陽とやらを拝んでみたいが、しょせんは年寄りの世迷言だ。鵜呑みにするほどガキじゃない。

「これ、国家保安省に持って行ってくれる?」

 吉田課長が俺のデスクに見慣れたアルミのコンテナボックスを置いた。通常、こいつには重要隠匿物が仕舞われ、ご謹製の特殊未開封シールを巻き付けて封をするのが規則だが、目の前のブツはその多分に漏れ素っ裸だった。

「シールがちっとも入荷しなくてね」

 隣の課から借りればいい。

「そりゃ駄目だ。それが知れたら連中は喜んで僕の管理能力を問いただす。ただでさえ、これの確保で課に死人が出た。もう不祥事はマズイ」

 俺はその死んだ同僚の面々を思い出して胸糞が悪くなった。

「しっかり頼むよ」

 いい気なもんだ。お前が殺したようなもんだろう。

 吉田がパーテーションから消え失せるのを見届けると俺も立ち上がった。
 地下二階にある駐車場から耐用年数がとうに過ぎた防弾仕様の社用車に乗り込む。
 コンテナをしげしげと眺める。
 エンジンが急かす。

 俺はしばらく道なりを進んだが、突如憑りつかれたように大通りを逸れると暗がりの空き地に停車した。

 知りたくなったのだ。
 反政府主義者が『希望の象徴』と呼ぶ代物が一体何か。
 死人を出してまで確保するに値するのか。

 むろん、これは重大なタブーに他ならない。
 だがこんなチャンスは二度とない。

 固唾を呑む。
 タバコの紙箱を懐から取り出し、中を覗いた後グシャリと潰した。また闇市に行かなくては。
 周囲を見渡す。誰もいない。

 たっぷり時間を置いて、俺は助手席のコンテナに手を掛けた。

【続く】

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もちもちの藻