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映画感想「ミッドサマー」02月24日(日)

・ミッドサマーを見てきた。土着信仰の閉鎖的な祭事が好きなのと、見たことない映像を見るのが好きなので、昨年からずっと楽しみにしていたのだ。

・ヘレディタリーは未見なのだけど、なるほどすごい人気である。映画館は満席だった。全方位から「『これくらいなら言ってもいいだろう』という薄いネタバレを重ねた結果、全貌が理解ってしまう現象」に晒されていたので、早いうちに見られたのは幸いだった。

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🌞以下ネタバレ感想🌞


⬛︎ホルガという巨人
・「始祖の巨人ユミル」というワードが出る。ホルガは全員で一つの巨人になろうとしている。なので一緒に食事を摂るし、同じ感情をわかちあう。個人の集団ではなく、アリやハチのような集まりの生き物。食べ物を用意する役割の人間、生殖をする役割の人間、思考する役割の人間。人間一人一人がホルガという巨人の細胞を担う。マーヤの恋のおまじないも、一見個人の意志があるように思えるが、卵子が精子を選ぶのと同じもののように感じた。

外からの訪問者は食事。必要な分を摂取したら残りは排泄する(生贄に捧げる)。必要なものは精子であったり、財産であったり、命であったり。排泄は気持ちいいんだから、ミッドサマーのラストが気持ちいいのは当然だったのであった。

・関係と死体の凍る夜の冬と、命が産まれて灰に帰る昼の夏。死体も命も、とどこおりなく廻ってゆく方が健全だ。

⬛︎頑張れ♡頑張れ♡
・ホルガのセックスっていやらしくなくない?性的な描写に感じない。シュチュエーションの異様さもだけど、ナショジオとかで魚が卵に精子かけてるな……卵子、受精してるな……の気持ちで見られる。上映前の予告編で、幸せそうに鼻と鼻をすり合わせる男女の映像が流れた時の方が「マ!!イヤラシっ///」って思っちゃったな。なんだこれ。

・家人曰く「人間が見ている前でセックスできる動物は家畜化できる」そうだ。(なんでそんなこと知ってるの?)

⬛︎幸福と文化
・社会で生きている人間にとって、「役立たずであることが露呈すること」が一番耐えがたいことなのだという(それはマジでそう)。ホルガではみな、巨人を維持するための明確な役割が与えられ、役立たずの恥を露呈する前に肯定的な死をもたらしてくれる。うれし〜い。

・考える役割は長老たちが担ってくれているので、考える必要はない。周りと同じ感情を抱けばよいので、疎外感もない。あたたかな羊水のような一体感だ。あったか〜い。

・ダニーは妹のことも両親のことも救えず恋人ともうまくいっておらず学業も仕事も成功していなさそうなので、じんせいつらそ〜。

・ホルガでは全てに理論が立っているし、理不尽なことが何一つ起こらない。住民の嘘ひとつとっても、必ず納得させられる理由がある。なぜなら完璧にシステマチックで合理的で理論だっているから。その点こそ、ミッドサマーはガチカルトの話だから!気持ちいい〜♡って言ってる人は人生気をつけてねと言われるのだろう。

・グリーンインフェルノ(食人文化一族に出会う話)も、外界の人間を捌いて食う。人間の解体が当たり前に描かれ過ぎて恐怖を感じなかったので、似た気持ち。あの夏至祭がカルトの域を超えて彼らの文化だと感じさせるのは、綿密に計算されたシステムの説得力のおかげ。

⬛︎恋愛映画
・人間社会で、傷ついた自分のために声を上げて一緒に泣いてくれる人なんているのか?私の痛みを自分の痛みのように感じてくれる存在なんてありはしない。結局人は他人同士なんだから。究極の理解と赦しを得るには同じ人間になるしかないのだから。

愛する人に望むこと、究極「私と同じ人間になってくれ」だと思っている。セックスもよく「ひとつになりたい」とかいうでしょ。レクター博士は頭の中に愛する人の人格を作り上げたり(コワ…)、肉を摂取したりとかして同化の濃度を上げてきたけれど、ホルガのように大勢の人間でひとつの生き物を形成することは『愛』ね…。と思う。結局人間は自分が一番可愛いから、隣人が自分なら自分のことを一番愛せるというわけ。

⬛︎日本人的な感覚
・夏至祭の根底の感覚。欧米人の一神教の宗教感覚より、日本の輪廻転生に近いので、違和感や嫌悪を感じない。熊が出てきたら燃やされるなと思うし。火葬、するし。姥捨、するし。田舎の食事における謎のマナー、あるし。汚してはならない場所、あるし。お墓におしっこ、できないし。

⬛︎映画としてまとめ
・いろんな田舎見てきたけど、入った人間を絶対1人も帰さない気だなと思った村は初めて。死体残しておくのは愚か村のやることだわ。

・最も背徳的に感じたのは「世界一の美少年の顔面を杵で砕く」行為。例えどんなに美しかろうと、役目を終えればみな平等な方法で終わりが訪れる。スゲー!!
・あの道具は杵に似ていたな。杵って頭を砕く道具に適しているんだ。

・永遠に見ていたかったし、好奇心に駆られる映画だった。たいていのホラー映画は事件が短い。犯行が盛り上げどころなので、何人も何人も殺していられないのだ。祭りは「奇妙」が何日も続く。もっと祭りを知りたい、奇妙で美しいものを見たい、永遠に続いてほしい悪夢だ。

・常に明るいと死体がよく見えていいな。ホラー映画は死体を暗いところで映してすぐ隠してしまうんだもの。死体が恐ろしいものとして描かれていない映像が好きなので、CSIの検死シーンなどを好んでいたのだけれど、死体に忌みを感じなかったのもよかった。

・死者や死体を冒涜しようという意図はないのでハンニバルのような面白死体は登場しない。ただそこにある。通夜の寝ずの番の時、横たわる死体のように。

・ダニーが飛行機で起こしたパニック障害がマジで職場のトイレに駆け込む私にバチクソソックリだったので笑っちゃった。

#ミッドサマー
#Midsommar


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