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輝け、ミラーボール

私の住む学生寮の共同キッチンには、ミラーボールがひっそりと置かれている。

乱雑に各々の食器や調味料が置かれ、お世辞にも綺麗とはいえないこの空間の一角に大人しく鎮座している、ミラーボール。

ちょっとシュールなこの光景は、寮の友人が”それ”を先輩から譲り受けたことがきっかけ。
なんでその先輩がミラーボールを持っていたのかについて、なぜか誰も聞くことはなく。すぐさま”それ”は雑然としたキッチンの一角に置かれ、輝きを失っていた。

明らかに、場違いなミラーボールはどこか寂しげで、ただの銀色の球体としてそこに存在するだけだった。

そんな寂しさをかかえていたミラーボールが、輝いている。

ダンスパーティ。

海外ドラマでしか見たことのないそれが開かれている。会場はいつもの雑然としたキッチンであるから、やっぱり、ちょっとシュールなのだけれど。

けれど、ここで、当然の問題が発生。

だれも、踊れない。

当然である。誰も、そういう文化で育ってきていないのだ。

このダンスパーティは、ミラーボールを譲り受けてきた彼女が「ミラーボールに活躍の場を!」と企画したもの。
場違いとなってしまっているミラーボールへの申し訳なさを優先した結果、そもそもの個々人の能力を完全に度外視してしまっていたようだ。

立ち尽くす我々。

「あさぎちゃん、バレエやってたよね!踊ってよ!」

いやね、確かに昔習っていたけれど、そういうことじゃないのだ。バレエと日常的に音楽に乗るようなダンスは、全然別物なのだ。振り付けがなきゃ私無理よ。無茶ぶりって言うんだよ、ねえ。


こんな調子ではきっと、ミラーボールも困惑している。
踊れないのになんでダンスパーティなんて企画したんだよ、と。俺のためとはいえ、もっとなんかあるだろう、カラオケごっことかさ、なんて思っているに違いない。

救世主は、遅れてやってきた。

寮内随一のムードメーカー。彼女はハーフで、高校まで海外で過ごしていたために、ダンスが日常的なものになっていた。

ガラリと空気が変わった。
気がつくと、そこはクラブの世界。(行ったことないので、想像です)

彼女は「踊り方がわからないから踊れない」と嘆く私たちの手本となり、手や腰や首を動かし音楽にのってみせてくれた。
そうして、「あ、本当に適当に動けばいいんだ」と気づかせてくれた。

ふと周りを見渡すと、みんな、笑顔だった。

ダンス未経験だからこその、勢い任せの奇妙さで音楽にのり、笑い、ふざけ、はしゃいでいた。
「なにやら変なことやっているらしいぞ」と噂を聞いた人たちも集まってきた。皆、ミラーボールに驚いていた。えへんと胸を張っているのか、輝きが一層増したように見える、ミラーボール。

その、いきいきと輝く様を見て、よかったね、と、ミラーボールとミラーボール思いの彼女に思う。

あの日の動画を見返すと、完全に酔っ払いテンションでわけのわからない動きを繰り返す私たちの姿があった。

「ひどくない!?ただの酔っ払いじゃん!」
と、みんな、笑う。実際にアルコールを摂取しているので、本当にただの酔っ払いがふざけている動画である。

海外ドラマのダンスパーティのような、美しさもかっこよさも全くない。醜くすらあるかもしれない。
けれど、ひたすらに楽しいのだ、ということだけは伝わってくる。

「ミラーボール、綺麗だね」

何度見たって、存分に輝くミラーボールと皆の陽気さに、口元がゆるんでしまう。

ミラーボールはいまでも所定の片隅に、ひっそりと置かれている。

知らない人が見たら、場違いな存在だろうけれど。
私たちにとっては、あの楽しい一夜の空気をまとった存在だ。

今日もミラーボールは輝かずとも、日々にぎやかな私たちを見守ってくれている。

次に輝く日を楽しみに、私たちも、片隅にいる”彼”を眺めている。


***

記憶が間違えていなければ、今日で毎日投稿100日目。
そこで、一番初めに書いたnote記事(下記)を、再度書いてみることにしました。このダンスパーティのミラーボールのことを記したくて、noteをはじめたのでした。
反省点だらけだったから、やり直し。のはずが、あれ、昔の方がよかったかも??



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