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メッシ退団の理由 〜クラブ以上の選手になってしまった神の子

決して好きな選手ではありません。

しかし、野球をよく知らない人でも、イチローや大谷は知っているように、
「ノルウェイの森」しか読んだことがなくても、村上春樹は世界的な作家であることはわかるように、

FCバルセロナの10番は、誰にとっても特別な存在であり続けました。

リオネル・メッシ。34歳。

プロデビューから17年間。
バルサ一筋。
クラブ歴代最多の775試合に出場し、
同じく最多の670ゴールをあげ、
これも最多の35個ものタイトルをクラブにもたらしました。

メッシは残りたかった。
クラブも残って欲しかった。

ですが、退団という形になってしまった。

サッカーを知らない人からすれば、相当大きなクエスチョンマークが浮かぶことでしょう。

「両思いなのに、なぜ?」と。

その理由を簡単に説明すると、
サッカーを始め、各プロスポーツのリーグには、
「サラリーキャップ制度」というものが存在します。

その国のリーグが定める額以上に人件費を使ってはダメですよ、
というルールです。

このままだと、つまりメッシが契約延長するとなると、
そのサラリーキャップ制度の額を大幅にオーバーしてしまうことになるので、
メッシは愛するクラブを出て行かざるを得なくなったのです。

そのオーバー額は、1億6000万ユーロと言われており、
ほぼメッシの年俸の額に当たります。
しかし、一部報道では、メッシがいなくなってもバルセロナはサラリーキャップ制度に抵触するなんてことも言われており、
正確な金額はわかっていません。

この1億6000万ユーロですが、日本円に換算すると、なんと約206億円になります。
天文学的な数字ですね。

さて、この話をしても、さらに浮かんでくる疑問としては、
規定違反になることなんてあらかじめわかってたんじゃないの?
ということです。

もちろんそれはそうです。
実はメッシは昨季のオフにも退団騒動があり、
クラブの杜撰な経営と選手への不当な扱いなどに嫌気がさしたメッシが、
クラブに最後通牒を突きつけ、退団間近まで近づきながらも、
土壇場で残留を決めた、という顛末でした。

バルセロナは元々、近年のよろしくない経営、それによる経営陣と選手との不和など、抱える問題は多くありました。

伏線は十分に張られていたわけです。

スポーツ面におけるピッチ内でのメッシ依存、
巨額が動くスポンサー問題やユニフォームの売上、
色んなものが絡んできており、
とても「メッシが減給を受け入れれば良いじゃない」
「既に大金持ちのくせに強欲な」
という問題ではないのです。

メッシ1人で決められることではないのです。
サッカーは金のなる木になってしまったので、
サッカーをビジネスとしてしかとらえない人も、
少なからずいることでしょう。

メッシ本人は大幅減給でも構わないと言っているらしいことは漏れ伝わってきます。
昨季にリークされたメッシの契約書に記載されていたいくつものオプションも、
メッシが希望したのではなくクラブから提示したものだそうです。

そして、一度跳ね上がってしまった給料は、そう一気に落とすことができないことくらいは誰でもお分かりでしょう。

とにかく、バルセロナがメッシを留めておくには、
メッシ自身の心を繋ぎ止めておくだけでなく、
既存の戦力を他チームに売って、どうにかメッシのサラリーの1億6000万ユーロ分の「浮き」を作る必要がありました。

しかし、サッカーのシーズンは5月で終わり、そこからでないとマーケットはオープンになりません。

そしてリミットは次のシーズンが始まる8月の31日。

この約3ヶ月の間に、メッシの心を繋ぎ止める、
余剰人員を整理して1億6000万ユーロを捻出する、
メッシに新契約にサインしてもらう、
ここまで漕ぎ着けなければならなかったのです。

メッシの心は、13歳から所属する愛するチームで選手生涯を終えることで決まっていたと言われています。
クラブはそのために同郷で親友のアグエロをイングランド、マンチェスター・シティから獲得したくらいです。

心はOK。新契約に関しても、あとはサインするだけという状況だったようです。

ですが、やはり1億6000万ユーロは大きすぎる額でした。

余剰戦力に関しては、クラブは放出したいが、選手が出ていきたくないと言っているというケースもいくつかあるようですし、
買い手がつかない選手も何人かいるようです。

そこに加えて某ウイルスの影響による各国経済の冷え込み。
これにより以前なら高値で売れていた選手が売れなくなった、いわゆる買い渋りが起こっていることも、
バルセロナにとっては向かい風となりました。

「バルセロナって楽天がスポンサーだよね?じゃあ三木谷さんに出して貰えば良いじゃん」

と思う方もいるでしょう。
しかし、リーグの規定では、スポンサーによる補填は許されていないのです。

選手の放出か減給でしか、調整はできないことになっているのです。

①近年のチームパフォーマンスの低下とメッシ依存、杜撰な経営とそれによる不和
②サラリーキャップ制度の問題
③某ウイルスによる経済の冷え込み

メッシ退団の理由をまとめると以上のようなものになるでしょうか。

主要因としてはやはり②になるでしょうが、

僕個人としては、やはり元凶は杜撰な経営を繰り返しチーム状況を悪化させた
バルトメウ前会長とそのスタッフだと思います。

大枚を叩いて連れてきた選手たちがこぞって期待を裏切ったことも、後々になってこうして響いているわけですから。

もちろん某ウイルスによる減収や移籍マーケットへの影響は、想定外のことであり不運としか言えないにしても、
それでなくとも同じ事態に陥っていた可能性は大きいのではと思っています。

大きな理由としてはこれらのことが挙げられますが、
もっと間接的な要因もあると思います。

バルセロナには、ある有名なスローガンがあります。

mes que un club

クラブ以上の存在。
という意味です。

クラブ以上のクラブになる、というスローガンのもと、
クラブは大きく、強くなってきました。

フランコ政権下のスペインでは、弾圧の対象となっていたカタルーニャ、バルセロナの街や民衆において、
まさしくFCバルセロナはクラブ以上の存在でした。

弾圧されている日常の中で、鬱憤を晴らせるのも、ほぼサッカーだけだったと聞きます。
首都クラブのレアル・マドリーとのライバル関係もそうして出来上がっていきました。

そんなまさしく地元の希望として大きく、強くなっていった、
クラブ以上の存在、FCバルセロナ。

しかし、遠く南米からやってきた神の子は、
そんな特別なクラブの存在すら超越する存在になってしまったと言えるのではないでしょうか。

クラブ以上の存在に個人がなってしまったときに、必然的に別れはやってきたのではないでしょうか。

もう一度言いますが、僕はメッシはあまり好きな選手ではありませんし、
バルセロナも好きなクラブではありません。

ですが、1サッカー ファンとして、バルセロナとメッシが、特別なクラブであり特別なプレイヤーであるという事実は揺らぎません。

そんな2者の関係が、こんな形で終わってしまったことは、悔しいですし悲しいです。

やはり選手には、愛し愛されたクラブで最後を飾って欲しい。

先日行われた退団会見でメッシは、

「必ず何年後かに戻ってくる」
と言いました。

それがいつになるのか、選手としてなのか、一体どんな形になるのかはわかりませんが、

いつかまた、満員のカンプ・ノウで、万雷の拍手のもと迎えられる神の子の姿を拝みたいと、切に願います。

小野トロ

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