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値千金のゴール

 金曜日の午前中。町は照らされ、ギラギラしていた。

彼は四角い部屋の中で冷房に電源を入れSNSを見ていた。窓の外には山と鉄塔、丘に暮らす人々の白、グレー、オレンジの家が見える。

 顔も声も知らない人達の感じたことや考えていることを割と真剣に眺め、共感したり、一部分でも自分に取り込める部分があればスクリーンショットを取っていた。心に生ぬるい快感を感じ、安心し、得体のわからない気力が体に湧いてくる感覚を感じていた。この感覚は真夏日の夕暮れに丸っこい風を体に受けた感触と似ていた。
そして、彼自身はその時、それなりに自分のことを考えていた。

「豊かな心、すなわち理想の心とは何なのか」

 時々、彼は困惑し不安になる。心を均等な形に保つためのエネルギーを自らの力で作り出せなくなっていることが分かると焦ってしまう性格なのだ。
そして、時に苛立ち、心の中の渦潮が穏やかな海に溶けていくまでの過程をできるだけ静かに待つ。(それは上から眺めればビニールプールかもしれない)

 彼が自身の中に存在を認めている心は2つある。
この2つの心はぶつかり合い、緩やかで重たい風となって、時に彼をぐるぐる回転している渦潮に押し落とす。

①日常の当たり前のことに小さな幸せを感じたり、部屋から見える景色を美しいと思える心。
②現状に満足せず、理想を追い求める心。

彼は彼だけの呼称で①を「ローカル」と呼び、②を「グローバル」と呼んでいた。

 そして彼の中のローカルとグローバルの対立は常に拮抗している。

サッカーに例えるならば両チームの強さの秘訣は鉄壁のディフェンス陣であり、
そして、両チームとも現状を打破する突破力を持ったオフェンスを探している状態であった。

ピッチの中央付近でボールが行ったり来たりしているだけの試合が終わる時をスタジアムの誰もが望んでいた。

SNSを眺めていると彼はそんな試合風景を想像してしまう。

ふと、目を閉じ、そしてまた開く。
彼はローカルとグローバルの間に
いくつもの人の人生があることに気づく。

そして、視線を上げ、本を開く‼︎

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私はスーパーカブに跨り、1本道を行ったり来たりしている。猛スピードで直進する時もあれば、突然速度を落とし、来た道をゆっくりと逆走することもある。

だが逆走したことなど、走り出すとすぐに忘れて直進する。

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彼は時に音楽を聴く。
友人とビールを飲む。

いつかゴールを決めなければならない、と決意する。

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