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【ネタバレあり】2023年本屋大賞ノミネート 全作《本音》感想

4月12日の大賞発表前に、ノミネート10作品を読了したので、全作品について感想を書いて、順位予想をしてみた。

ただ、順位付けをしていく中でネタバレを書かずに、順位を出すということの難しさを感じたので、思い切ってネタバレしまくって本音で感想を書いてみた。これで順位の理由も遠慮なく書けるはず。

この記事はネタバレありです。個別の作品の感想だけ見たい方は、下の見出しから個別作品に飛んでください。感想の掲載順は読んだ順です。

【ネタバレあり】ノミネート全10作感想

方舟/夕木春央

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▼ ネタバレあり感想
閉ざされた空間で殺人という行為に至るまでの経緯や理由、最後のどんでん返しまで破綻がないと思うし、ラストも秀逸だと思う。
犯人自身が最悪な死に方と考えている溺死を避けるために最初の殺人を行うという動機。「どうせ死ぬ人」だから自分が生き残るために殺していいという極限状況での判断はギリギリありなのかな。自分自身が殺人犯であることを証明するために証拠を残す、名探偵の存在が逆目に働く、という、通常のミステリとの逆を行く展開。自身の犯罪を暴かれれていく過程での犯人の冷静さの理由がラストにわかるという衝撃。トランシーバーアプリの使い方があまりにも効果的すぎる。こんな使われ方はなかなか予想できない。ノアの方舟と同じく、自身と同じ選択を取る者を救う道を残したものの、結局、誰も犯人と一緒には残らず残酷なラストにつながる。
ミステリ好きとしてはこの作品が大賞でいいと思っているが、残念ながら本格ミステリは大賞に選ばれにくいのも事実なので、5位予想とした。


爆弾/呉勝浩

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▼ ネタバレあり感想
タゴサクとの取調室でのクイズを通した対決が描かれる第一部、新たな展開と共に劇場型に変化していく第二部、真相に迫る中で事件のクライマックスが描かれる第三部。読む手が止まらない感覚を久々に味わった。名探偵役の刑事・類家(るいけ)の鋭さは「半端ないって!」って感じがややあるが、スズキタゴサクと紙一重の感覚があってこそ、真相に迫ることができたのかなと思う。たぶんこの感覚は大なり小なりみんな持ってるけど、普段は押し隠していて表に出さないようにしている。なぜなら、一般的には過激な思想と思われるから。でも、何かの拍子に表に出て爆発することはありうると思う。「爆弾」のタイトルにはそんな意味もあるのではないかと考えさせられた。
この作品もかなり好みだが、共感性の高い作品が選ばれる傾向にある本屋大賞っぽさはちょっと欠けるかなと。方舟よりはエンタメ性も高いし、上位と考えて3位予想とした。


#真相をお話しします/結城真一郎

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▼ ネタバレあり感想
ミステリのような、ちょっと違うような短編集。ミステリをあまり読まない人はドキドキしながら、ミステリ好きはなんとなく先が読めそうな感じを推理しながら読み進めるような展開。“今どき”のテーマが詰まっているが、逆に言うと10年後に読んだときに古臭さや時代錯誤感を感じそうな気もする。過去の作品群も含めて本屋大賞候補作っていつ読んでも古びない印象があるので、そもそもノミネート段階で異色な作品だなと思っていた。
作品が面白くないということではなく、本屋大賞っぽさからは一番遠いかなと思って10位予想とした。


宙ごはん/町田そのこ

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結構好きな作品。1話ごとに主人公・宙(そら)が歳を取って、まわりとの関係も少しずつ変わっていくという展開で、その関係の変化や背景も徐々に明かされていく。花野はなぜ宙を手放したのか。一方で、いい思い出だった「ママ」との関係にも変化が起こる。愛って一方的なものでもダメだし、自身の恋愛を通じて、高校生になった宙はそれを理解していく。花野が家の呪縛から解き放たれていく様は、これまでの話での印象を一変させる。知らなかったことを知ることで、人間関係には変化が起きるけど、知らないままでいるよりは良いのか、知らない方が良いのか。
好きな作品だけど、腑に落ちなかったのは佐伯(やっちゃん)の死の部分。物語のアクセントとして重要だし、いろいろなものが受け継がれていくラストにつながるところではあるが、他のアプローチはなかったのかと。
そういった思いもあり、7位予想とした。


君のクイズ/小川哲

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短めなので一気に読めるし、内容も難しくないのでいろんな人におススメできる本ではある。ありそうでなかった、クイズプレイヤーの思考を読み解いていくという切り口も面白い。
ただ終わり方があまり好みではないかな。形式としてはエンタメ的な新しい形の頭脳バトルの要素を持った倒叙ミステリに近いけど、ミステリというにはちょっと弱いラストだなと思う。終始ミステリアスだった三島の俗な部分が急激に主人公像を壊した感じ。なかなか共感を得にくい作品ような気もするので、8位予想とした。


光のとこにいてね/一穂ミチ

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▼ ネタバレあり感想
物語にケチをつけるわけではないけど、第三章での再開は運命というには偶然に頼りすぎていると感じてしまった。結珠の夫である藤野が果遠の居場所を何となく知っていたとしても。
各章最後に果遠が結珠に残すのがタイトルでもある「光のとこにいてね」で、それぞれ違う意味を持った別れのセリフにもなっている。最終章では、そのセリフを言った果遠を結珠が追うラストを迎えるが、個人的にはモヤモヤポイント。親も一人の人間であり、感情や人生があるのは承知の上で、それでも子供や夫に対して無責任であっていいのか、という点がひっかかる。二人が互いに心の片割れみたいな存在であったとしても、年月を重ねて別の家族がいる中で、それを放棄するのはどうなんだろうか。
終始、主人公2人に共感できなかったため、9位予想とした。


ラブカは静かに弓を持つ/安壇美緒

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▼ ネタバレあり感想
良い意味で「思ってたのと違う」作品で、後味も悪くない良い作品だった。今回の候補作の中では一番好きな話だと思った。
少年時代に遭った誘拐未遂をきっかけに世の中が信じられなくなり、深海に閉じ込められたような夢を見るようになった主人公・橘が、音楽教室への潜入調査をきっかけにチェロと再会。スパイという偽の立場でありながらチェロをきっかけとした本当の人間関係との間で思い悩む姿が、橘のコンサート選曲でもあり、本書のタイトルにもなっているスパイ映画「ラブカ(邦題:戦慄きのラブカ)」とリンクしていく。「ラブカ」は作中作で、実在しないらしいが、実在作品だったらさらにプラスの印象を持ったかも。
そのすべてが偽りでもなく、虚実入り混じる中での葛藤を通じた変化は、苦しさも感じるが前向きな変化だと思った。エピローグで、いったん壊した関係を作り直そうとする橘は、明らかに物語最初の橘とは別人になっていると思う。
構成、展開、読み味も含めて好みの作品だった。これまで本屋大賞に選ばれてない作家の作品という期待も込めて、この作品を大賞予想とした。


川のほとりに立つ者は/寺地はるな

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▼ ネタバレあり感想
タイトルになっている表現は劇中作品である「夜の底の川」の一文『川のほとりに立つ者は、水底に沈む石の数を知り得ない』から取られている。穏やかな川に尖った石、荒々しい川に傷ついた石。川のほとりに立つ者からは、そういった水底の石は見えない。こんな石が沈んでいるかもしれないと想像することができるだろうか。
不可解な出来事を明らかにしていくという点ではミステリっぽさもあって好きな話ではあった。ただ、ミステリっぽさを出すためか、天音の読みを「あまね」と思わせといて実は「まお」でしたという演出は、漢字の読みが最初に固定化されてしまって、なかなか正しい読み方に変換できず、読書の雑音になってしまった。この演出必要だったかな?正直余計な演出だったと思った。
そういう点がマイナスに働いて、良い作品だけど6位予想とした。


汝、星のごとく/凪良ゆう

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▼ ネタバレあり感想
読んでる途中から、本屋大賞っぽさで言うとずば抜けてるなと思った。本端的に言えば多くの人に共感を与える作品。目に見える関係なんて表面的でしかなくて、本当は誰にも分らないという点は、直前に読んだ「川のほとりに立つ者は」に似ているところもあるけど、テーマにLGBTQを織り込んだり、ヤングケアラーの問題に触れたりという点で社会派な一面はこっちの作品の方が強いと思う。
女性の自立もテーマの一つだとすると、瞳子はその象徴。瞳子も一見理解のある大人のように描かれている側面はあるが、表面的にみると暁海の父親を略奪した女である。経済的自由を持っているから自分の未来を選べるし、自分の人生に責任を持つこともできる。その影響を受けて暁海は成長していく。他人に答えを求めると苦しくなることをいろんな形で体験していた暁海だからこそ、自分で人生の選択をして責任を取る覚悟を持ち、最後、櫂のところへ行くことができたのではないかなと思う。
終わり方は非常にきれいだと思った。なんなら櫂が書き残した「汝、星のごとく」と本作が同じ装填ならもっとキレイな終わり方だと思う。
ただ、賛否分かれるかもしれないけど、プロローグはあの形でない方が先入観なく作品を捉えられた気がする。表面的に見えるものと、「本当」は違うということを示すためのプロローグ→エピローグの関係性だとは思うけど、プロローグがあることで、途中から北原先生との共同生活や、櫂の死へ向かう展開が想像されてしまった。
本屋大賞っぽさはずば抜けてたけど、プロローグの引っかかりと、過去に受賞したことのある作家という点を勘案して、2位予想とした。


月の立つ林で/青山美智子

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▼ ネタバレあり感想
「月が立つ」=つきたち=一日(ついたち)の語源という話と、竹林は根っこでつながる一つの樹のようなものという話を繋ぎ合わせると、「月の立つ林で」というタイトルの意味が浮かび上がってくる。各話を通じて、人と人の関係は目に見えるもの・言葉で表せるものだけではないということが語られており、月の立つ、すなわち「新月の竹林で」という言葉には、姿は見えないけれど根っこはつながっている場所で我々は暮らしている(生きている)のだとということを暗に示す。そして、そういった目に見えない関係に支えられて、日々を過ごしているし、ときには大きな助けになっているということに改めて気づかされる物語だった。タイトルの付け方とか、連作短編としての構成とか、月や竹取物語をモチーフにしてることとか、全てがキレイな物語だなと思った。
ただ、きれいすぎる点が良くも悪くもさらっとした読み味になってしまったなという印象を持った。個々のエピソードの登場人物に共感はできるんだけど、なんというか苦しさみたいなものは他の候補作に比べると小さめだと思う。個人的には好きな作品だなと思ったけど、読んだ後の印象も勘案して、4位予想とした。


順位予想まとめ

🥇 ラブカは静かに弓を持つ
🥈 汝、星のごとく
🥉 爆弾

4位 月の立つ林で
5位 方舟
6位 川のほとりに立つ者は
7位 宙ごはん
8位 君のクイズ
9位 光のとこにいてね
10位 #真相をお話しします

たぶん全作感想は最初で最後かな。普段は好き勝手な順番で、好きな時に読んでる本だけど、大賞発表までに候補作を全部読まなきゃ(そして感想をアップしたい)という強迫観念にさらされながら読むのは最後にしたい。

候補作にならなかったら読まなかった作品も多いし、これをきっかけに初読みとなる作家との出会いもある。20回目の本屋大賞だけど、本好きとしては長く続いて、本への興味を拡げてくれる賞であってくれるといいなと思う。

以上

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