上海の今〜「自动化」「无人化」が支える近未来実験都市〜

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2019年の6月に、所用で数日間上海に滞在していました。

個人的に、中国には1年に1回は訪れるようにしていています。中国は日本から最も近い場所にあるIT技術大国で、中国のある意味先進的で近未来的なな技術都市の様を観察することで今後のIT業界の趨勢や技術トレンドなどを把握することが目的です。

ここでは、本来訪れた目的については割愛しつつ、今回上海に半年ぶりに訪れてみた感想について記述しようと思います。

キーワードは「自动化」「无人化」

2014年ころからキャッシュレスの普及が始まり、今の中国は都市部では現金を使わずに生活ができるというのは過剰な宣伝文句ではない現実です。今回私も上海滞在中に一回も現金を使うことはありませんでした。

Alibaba(Taobao) や Tencent(WeChat) の強固な ID 基盤の上に支えられたキャッシュレスサービスが今の中国のITイノベーションの中心であり基礎ですが、それらを前提として、中国の都市では2018年ころからタイトルに掲げた2つの言葉(「自动化」= 自動化 / 「无人化」= 無人化)がキーワードといえる変化が起こっているように思えます。

端的に述べると、多くのサービスにおいて、人を介在しない、もしくは人の介在・介助が最低限で済むようなサービスが増えてきています。

豊富な自動販売機、レンタルサービス

最近の中国では多種多様な自動販売機を見かけることができます。決済については当然のことながら QR コード決済に対応しています。

私が上海滞在時に毎日のように愛用したのが「天使之橙」というオレンジジュースの自動販売機。ただのオレンジジュースではなく、最大の特徴は「その場で絞ったオレンジジュースを提供してくれる」ということ。

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15元をQRコードで支払うと、機械の中に設置されてあるオレンジが一つづつピックアップされ、自販機の中で絞ってジュースを作ってくれます。実際に味も美味しいですし、量も多く、値段は300円程度と高めですがお金を払って全く損した感じはないです。何よりこれが全自動で、自動販売機で提供されているというのが驚きです。日本だと技術的なところ以外の問題(衛生面でのクレーム)でなかなか実現が難しそうです。

その他、中国で普及していて、最近日本でも注目されているのが自動レンタルサービスです。

傘のレンタルサービス「摩伞」は日本でもパク…参考にして「アイカサ」という同種のサービスが提供されています。

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その他にもスマフォの充電バッテリーの自動レンタルサービス「充电宝」も普及してきており、いかにもスマフォキャッシュレス経済が普及している中国ならではだなと思います。

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完全無人のカラオケサービス「友唱」

無人サービスとして完成度がとても高いな、と個人的に思うのが、完全個室の無人カラオケサービス「友唱」

日本の公衆電話のようなボックス型の設備の中にカラオケ機材が用意されています。WeChat を用いて入り口の QR コードを読み取ると鍵が解錠され、中に入ることができます。

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料金は、1曲ごとに料金を払うプランもありますし、30分など時間を決めて料金を払うプランもあります。

ボックス内にあるカラオケ機から曲を選曲することもできますし、スマフォアプリから選曲することも可能です。曲は20000曲くらいあるとのことで、海外の曲も収録されているような表示になっていますが、私が試した時は日本の曲は見つけられませんでした。歌は自動的に採点され、歌い終わると点数が表示されます。

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友唱が一番良くできているなと思うところはクラウドとの連携で、曲を歌うと、歌った曲の音声データが WeChat 経由で投稿されます。そのデータをダウンロードして聴き直したり、自信があれば友達などにシェアすることも可能です。昔の2chなどであった「歌ってみた」的なやりとりを、より現代的にスマートに行うことができるサービス、と言えると思います。

完全に無人で他人の目を気にせずカラオケに没頭できること、都市部の地下鉄の駅やショッピングセンターのいたるところに設置されている利便性などもあり、かなり若者の支持を集めているようです。今回の上海滞在の際も、かなりの友唱のボックスが人で埋まっていました。

無人コンビニの隆盛と衰退、そして無人レストランの流行

「中国といえば無人コンビニ」という風に喧伝されていた時代が2018年に一時期ありましたが、雨後の筍のようにたくさんの無人コンビニ店舗が生まれては、クオリティの低さや維持費用の高さなどからその多くが撤退してしまいました。

一応、まだ残っている店舗もあるので訪れてみました。欧尚というスーパーマーケットが提供する無人コンビニです。

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入店の際は WeChat で入り口の QR コードを読み取ります。会員登録が済んでない場合は電話番号などを入力し、登録後に再度 QR コードを読み取ると解錠され店内に入場できます。

店内の品揃えは中国のコンビニではよく見かけるような飲み物やお菓子などが陳列されています。

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品物の購入は出口近くの決済機で商品のバーコードを読み取り、Alipay や WeChat Pay で支払うことで完了します。商品が購入し終わると鍵が開き、外に出られるようになります。

と、便利に見えるのですが、色々問題あるのか最近上海市内では無人コンビニを見かけることは少なくなりました。

代わりに流行り始めているのが無人レストラン。注文から配膳まで、基本的に人が介在せずにサービスが提供されるレストランが増えてきています。

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こちらは Spacelab 失重餐厅。日本語ではよく「無重力レストラン」と訳されます。

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入店すると丸いテーブルの真ん中に螺旋状のパイプが置いてあります。これは屋根を伝ってバックヤードまでつながっており、作られた料理がパイプを伝って手元に配膳される、という仕組みです。

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注文は机においてあるタブレットで行います。これで商品を選び、Alipay や WeChat Pay などで決済を行うと、あとはしばらくすると料理が自動的に手元に配膳されます。この一連の流れに人が一切介在しないのが、無人レストランたる所以です。

実際のところ、Spacelabの方式は少し特殊で、多くのお店ではコインロッカー方式で料理の引き渡しをするやり方が多いです。

アプリで料理を注文し、注文された料理は出来上がるとコインロッカーの中に置かれ、ユーザーにはプッシュで通知が飛ぶ。ユーザーは自分の料理が置かれているロッカーをアプリで解錠し、料理を引き取る。というのが一連の流れで、これも基本的には注文から配膳まで人を介在することなく完結します。

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写真は次世代スーパーマーケットとして日本でも喧伝されている盒马鲜生の、新業態の盒马F2。スーパーというよりは、自動・無人配膳のファストフードショップもしくはフードコートというような趣になっています。盒马F2でもこのような形でコインロッカーが置かれ、注文した内容を受け取れるようになっています。

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「自动化」「无人化」を支える技術

上に述べてきたような自動化サービス、無人化サービスを支えている技術について。

まずは、強固なID基盤の上に築かれたキャッシュレスサービスの仕組み。これにより現金による支払いから開放され、様々な処理の自動化・無人化が達成できました。

そして同じ位に重要なのがカメラの技術。

先に述べた無人店舗を眺めていると、いたるところにカメラが設置されているのが分かります。

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こちらは無人コンビニの店内。

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こちらはSpacelabの天井。各テーブルを確認できるようにテーブルごとにカメラが設置されています。

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こちらは盒马F2の店内。それこそ数メートルと離れずにひっきりなしにカメラが設置されています。

単なる防犯という目的にしてはカメラの数が過剰で、このカメラ群により人の動態調査や商品陳列内容の確認などの業務を行っているのだと思います。サービスによっては裏側で AI などを用いた自動識別、分類なども行われているでしょう。

キャッシュレス機能だけでは決済の手間と、ID基盤と連携した個人識別の手間から人間を開放しただけで、その他の人間が行うべき業務の代替とは補えきれません。その残りの余白を、カメラ機能によって補おうとしているのが伺えます。

キャッシュレス機能と、カメラの組み合わせにより、中国での「自动化」「无人化」が推進されていることが、上海に訪れてみるとよく分かります。

カメラとキャッシュレス技術の融合

そして2019年ころから、キャッシュレスの技術とカメラの技術が統合され始めました。

Alibabaなどを中心に、顔認証により決済まで自動的に行う技術を開発し、各店舗などに設置し始めています。

顔情報の登録には中国のIDが必要そうなので、私は実際に動作を確認することはできていませんが、中国のいろいろな店舗で顔認証決済端末が置かれているのは確認をしました。

今まで「自动化」「无人化」を支えるための両輪として並行して寄り添っていたキャッシュレス機能カメラ機能が、完全にひとつの流れに統合しはじめたのが2019年の中国、といえると思います。

法律・プライバシー、顔認識の精度など解決すべき問題は多数内在していると思いますが、また一歩新しい近未来的な世界、ユーザーとして極めて利便性の高い世界に中国は踏み出したな、と感じさせる出来事です。

これが2019年の6月に上海に訪れた際の感想です。また近々中国には訪れたいと思いますが、その際はまた違った印象を得るのだろうなと思います。



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