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モフリーの始め方④~ブランディング編Vol.2~

ブランディング編、後半戦です。


前回はお店のブランドイメージ、ロゴの制作秘話について書きました。



イメージを作る大きな要因の一つであるロゴは決まった。その他にも大事なものはあるけれど、次に取り掛かったのは「制服」の選定だ。


「イメージ」というものは本当に漠然としている。しかし人がある題材をイメージする時に思い浮かぶ風景の大枠というのは実は案外共通していて、特に職業に於いて重要なのは着用している服装、つまり制服ではないだろうかと思っている。

それは警察、消防や医療従事者、学生といった特定の職業や、大きな企業(いわゆるチェーン店など)の制服に限らず、だ。

前回のお話でも書いたけど、たとえば家電売り場の店員のおじさん、スーパーのレジ打ちのおばさん、携帯ショップのカウンターにいるお姉さん・・・この人たちを思い浮かべた時、着ている服装や言葉遣い、接客の距離感、綺麗に髪が整えられているかそうではないか、シャツにアイロンが掛かっているかヨレヨレか・・・等々、そこまで大きなブレがないような気がする。統計を取ったわけではないけれど。


本来は機能的な役割を制服に求めるというが一番重要な目的だと思うけど、今回のテーマでも取り上げるように「雰囲気」を第一に考えた。


カフェの店員が着てそうな服と言われると、これはなかなか幅広い。カジュアルなスタイルに和風スタイル、ヨーロピアン、ハワイアン…帽子の有無やエプロンの種類で雰囲気はだいぶ変わるし、タイやスカーフ等のアクセサリーを付けるだけでも印象はまるで変ってくる。


さて、自分が指向する空間は以前も書いたように「カフェ」よりも「喫茶店」であり、その雰囲気は明るく開放的な風景よりもやや暗めで落ち着いたもので、感覚としてはオーセンティック・バーに近いものだった。

ロゴのカラーでもある白と黒に合わせたい、そうなると白いYシャツに黒のスラックスがやはり基本ではないだろうか・・・という考えに行き着いた。


オーセンティック・バーはもちろんだけど、本格的な老舗の喫茶店でもこのスタイルを基本として、更にタイやベストといったアクセサリーも身に付けているイメージが僕にはある。


しかしそのアクセサリーまで付けてしまうと、ちょっと固く見えすぎないか、もう少し気楽さを感じさせるにはタイやベストは必要ないのではないか…


あれやこれやとイメージをしていた、そんな当時の制服ラフがこちら。

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漠然と想像したものを描いてみたりカタログを取り寄せたりしてイメージを肉付けし、更に以前働いていた飲食店のアルバイトの子を伴って合羽橋のプロ用コスチューム専門店へ赴き、目の前で喫茶店の店員が着てそうなパターンを確認したり意見を貰ったりした。鈴木さん、その節はありがとうございました。


また、イメージではシャツは長袖の方がいいけれど、実際に飲食店で調理や洗い物をしてみると袖が邪魔に感じてけっこううんざりした経験があった。機能的には半袖がいいけれど、しかしそれは外見的にどうもピンとこなかったし、火傷の危険もある。

長いこと製造業に従事していたので危険予知(*1)が職業病として身に付いているのだ。



いずれにせよそんな試行錯誤があって、今身に付けているスタイルに辿り着いた。


Yシャツは効率と感性の両方を満たすのに7分丈を選択した。また、カッチリし過ぎない為にアクセサリーは着けないけれど、シックな感じを出す為にエプロンは長めのソムリエ・エプロンをチョイス。撥水性抜群で汚れも取りやすい素材で、効率面も多少だけど考慮している。



何度も言うけど制服というのは、イメージを定着させる上で非常に有効な手段だと思う。


なんでもない日常でこのスタイルを見た時、


「あ、この格好はモフリーだ」


と思い出させるのはブランディングとしてとても重要なのではないか。顔や声だけでなく、「この格好は◯◯だよね」と認識させるのだ。


大袈裟に聞こえるかも知れないけど、制服を着ることによって自分の存在を象徴化、記号として捉えられることに成功したら、それだけで広告として成立すると思う。



ちなみに僕がここまでイメージというものにこだわる大きな理由の一つが、調理に関してあまり自信がなかったため、というのがとても大きい。


なにせ調理なんて自炊の経験しかなかった。飲食店に転職したのも調理の技術よりオペレーションを習得・研究するためで、そのチェーン店のレシピはその後のメニュー作りに大いに参考になったもののそのまま流用するところまでには及ばなかった。

もちろんお店に出すために考案したメニューは様々な試行錯誤の上に出来たものだし、何度か試食会を開いた末に完成に漕ぎつけたものだ。しかしそれでも若干の不安はあった。


大抵の人が飲食店を出すのは、調理技術に一定以上の自信があるからだと思うし、飲食店に於いて「他と差別化出来るほどの美味しいものを提供する」というのは当然ながら最重要なものの一つだと思う。

もちろん冷凍モノや出来合いのものを出すと割り切っている飲食店もあるだろうけど、それは回転率と単価の低さが前提だ。なによりビジネスとして僕が目指すものと大きく異なってくる。


僕が目指すものは一人でお店を運営出来ることが前提だったので席数は限られ、その上ゆっくりと時間を過ごせる空間を指向していたので回転率は捨てていた。

そうなるとある程度の客単価を見込まなければお店は成り立たないので、一定以上のクオリティを担保しなければならなかった。

そこで目を付けたのが、イメージや雰囲気だ。


語弊はあるけれど、「美味しい」と感じる要素には味や匂いだけでなく、視覚や情報も同じくらい重要だと考えている。

もしかしたら情報だけで「美味しい」と人によっては感じるかも知れない、とさえ思っている。


料理の経験がまるでない人が適当に作ったものを「有名な〇〇店総料理長が作りました」と言って出せば、まあまあ美味しければ実際以上に絶賛され、たとえそんなに美味しくなくても「上品!」とか「奥深い!」なんて言葉で納得する人は多いのではないか?


僕の場合、世の中にたくさんある飲食店と渡り合える自信があまりなかったことでそういったイメージや雰囲気、ブランディングというものに目を付けたのだ。


もちろんイメージだけでは人は騙せない(語弊があるなあ)ので、「腕がないなら素材で勝負できないか」と食材を探すことにも力を入れたのだけど、それは次回『食材仕入れ編』で書けたらと思う。




最後に制服についてもう一つ重要だと思うこと。


これまで散々述べてたようなイメージや機能性もあるけれど、制服を定めることが大事な理由の一つに「着るものを選ばなくていい」というのがある。


事業をやる上で決断する回数を減らすこと、これはけっこう大事だと思う。


毎日「着るものを選ぶ」ということに考えを割かなければならないというのは非常にストレスになるだろうな、というのは考えていた。実際こんな小さな店でさえ、大小あれど日々様々なことを取捨選択しているので、余計な決断は一つでも減らせたのは本当に良かった。

これだけでも制服を採用するのは有効だと思う。


イメージや雰囲気という今回のテーマとは違うけれど、ここは特記しておきたい。



(*1)KY、またはKYT(危険予知トレーニング)とも。

その作業に潜む危険を予想・指摘し合い、予測できる災害の発生を未然に防ぐことを目的とした訓練のこと。

ケガや事故を起こした際、原因と対策をいくつも書かなければならない上に多くの人のハンコを貰わなければならないスタンプラリーのような報告書の提出を求められるし、程度によっては他部署も集めて見世物になり糾弾される「現場検証」という名の儀式が執り行われる。

ケガをしない為、というより、そんな面倒事を避けるために店主は常日ごろ安全を心掛けておりました。ケガしていいことは本当にありません。ゼロ災でいこうヨシ!


最後まで読んで頂きありがとうございました。