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本を聴く生活と3歳牝馬血統分析


オーディオブック ー朗読と同期する町並みー

『ウマゲノム版種牡馬辞典(ガイドワークス)』のあとがきでも触れたが、普段、音声で本を聞くことが多い。
 仕事上、データや原稿などで目を酷使するので、なるべく、それ以外は目を使わないで過ごしているのだが、それにピッタリなのが本の読み上げだ。散歩や移動中、掃除とかの家事や風呂の中で聴くことも多く、時間の有効活用にもなっている。しかもベッドに入って聴けば、あっという間に寝られるというおまけ付きだ。
 めんどうだけど聞くぶんには言葉の響きが心地よい古典ものや、なかなか本題に入らないので回りくどいけど内容は面白いタイプの作家(カズオイシグロとか、ドストエフスキーとか)なんかは、音声朗読との相性抜群である。興味はあるけどめんどくさかったり、途中で読むのをやめちゃった人は、読み上げ機能を試してみると、最後まで飽きずに聴けると思う。かつて移動中に聴いていた作品が、ちょうどその聴いていた場所を通るとき、ふと頭の中を流れていく。その途端、有り触れた風景が妙に懐かしく感じるのと同時に、作品とは全く関係ない町並みと文脈が同期し、登場人物の息遣いまでもが耳元で聞こえてくる。特定の場所の空気感と物語が重なり合ったその感触は、普通の読書では得られない、特別な経験だ。科学ものとか統計関係もよく聴くが、もちろんこういったジャンルはさすがに本の方が向くケースも多い。ただ、移動中の風景と素粒子の話が同期する瞬間なんかは、なかなかに得がたいものになるだろう。
 聴く方法としては、電子書籍をスマホなどの読み上げ機能で聴いたり、オーディオブックも利用している。中でもスマホのアプリで聴けるaudiobookはヘビーユーザーだ。会員だと聴き放題の作品も多く初月は無料なので、1ヶ月の間に聴き倒してしまう作戦で試してみるのも悪くないと思う。
 今回はそんなオーディオブックで聴いた中から、元ラグビー日本代表監督エディージョーンズの『ハードワーク(講談社)』を紹介したい。

エディージョーンズの『ハードワーク』        ー監督が驚いたラグビーと農耕民族ー

 話題になったものの、タイトルからなんとなく疲れそうなので敬遠して読んでいなかった本だが、実際聴いてみると、柔軟で、それでいて具体的な考察も多く、なかなか面白い内容だった。その中でも、監督になってからのエピソードで、選手達に「日本のラグビーはどうして弱いと思うのか?」と尋ねた下りには、思わずニヤリとしてしまった。
 選手達が挙げた理由には、「体格が劣っている」などの他に、「狩猟民族のスポーツなのに、日本人は農耕民族だから」といったものが多かったらしい。それを聞いたエディージョーンズは、ばかばかしいと驚き呆れてしまう。
 ラグビーに限らず、日本のチームが守りに入って負けたりすると、「やっぱり農耕民族だから、向こうのスポーツは無理だよ」とか冗談交じりで呟いたりするファンも多いわけだが、ラグビーという攻撃的なスポーツをしている選手自身が真面目な顔をしてそう分析し、指揮官に報告したのだから、さぞ度肝を抜かれたことだろう。私もまさか、選手がそう考えてると思わなかったので、びっくりした。ただそう言う私も、ふとそんな類いのことを呟いたことがあるので、エディージョーンズが側にいたらきっと驚いたに違いない。

「日本人は100%の努力をしない」という話も、ちょっと意外で面白かった。確かに私の観測範囲でも、いろいろ頑張るが、案外明瞭な目標へ向かっての100%の努力はしてないかもしれない。常時、「なんとなく努力をしている」とでもいった感じか。日本ラグビーが置かれた環境という特殊事情もあるが、日本ではとりあえず目標もなく頑張れば良いことになってるので、そう見える面もあるのではないだろうか。

興奮は要らない-冷静な闘志を持って

「興奮は要らない」という話も、なかなか刺激的だった。エディージョーンズは、試合前に日本の選手が興奮して泣いたりするのに驚いたらしい(海外のラグビーでそれがないことの方に驚いたが)。必要なのは興奮ではなく、冷静でかつ知的な闘志だと説く。
 控え室から大声が響き、目を腫らした選手達が出てくる瞬間は、見ている方もついカーッと熱くなって興奮してくる、大学ラグビーとかでは大いに盛り上がるシーンだ。
 だが彼は、一時的な興奮は長く持たない。試合は長いので、そういった興奮は役に立たない。冷静かつ知的な闘志が必要だ。
 と諭す。
 私のお気に入りのシーンもあっさりと否定されたわけだが、普通に考えればそれはそうに違いない(ただ、それなら彼が評価するオールブラックスのハカとかはどうなのか?とか、エンターテインメントでもあるんだからファンも盛り上がる場面が多いに越したことはないのではとも思うが)。
 この辺は、日本人の集団性や献身性といったメンタリティーを理解しないとよく分からない部分かもしれない。例えば戦争が嫌でも、いざその場になって高揚感のただ中にいたら、「行って参ります」とか、日本人だと心底興奮して叫ぶことになるのではないだろうか。一匹狼で協調性がないと思われてる(?)私でも、その時代にそこにいたら、そうなってしまった気がする。その辺のなんとも理不尽な熱量が分からないと、日本は外国人にとって意味不明な異世界のままであり続けるに違いない。

「ユニークさ」は何をもたらすのか

 このように日本に批判的な話が続いていくのだが、エディージョーンズの奥さんは私と同じ群馬出身というので、驚くと同時に若干慌ててしまった。なるほど、確かに群馬の女性ともなると手強いが、奥さんや日系人の母親から受ける理知的で強い日本人のイメージとのギャップで、余計に日本に来てその弱さに驚いたということだった。だからこそなのだろう、悪意は感じず、日本への終始冷静な分析が続いていく。
 エディージョーンズはこういった経験を踏まえ、日本人のメンタリティーを理解する為、その歴史を勉強することになる。そこで彼は、チームの中心に武士道を据えることに決め、武士と忍者の象徴的なマークを作るといったようなユニークでありながら(彼のやり方は、いろいろな意味でこの「ユニークさ」がかなり重要な要素になっている)、緻密な戦略の数々で選手のメンタルを上げていき、そして歓喜の南アフリカ戦へと繋げていくのだった・・・。

 最後に、本文中のエディージョーンズの言葉を少し抜粋しておきたい。下の「日本のラグビー」という箇所を、自分の所属する組織、あるいは応援するチームがあるならその監督などに置き換えてみると、より深く、じんわりと味わえると思う。

 私には、日本のラグビーが、発展した文化には思えないのです。
 日本のラグビーは、あまりにも型にはまっています。
 自分の陣地では、安全を最優先し、必ずキックを選んで前に出る。相手の陣地に入ると少しパスし、ゴールが近づくと、確実さを一番に考えて、パスをせず、そのまま前に出る。
 このようなリスクの少ない基本プレーを、ただ繰り返すだけです。そこには、自主性も独創性もありません。
 リスクを負わなければ、進歩はありません。リスクを負わず、決まり事を繰り返すことは楽にちがいありませんが、そこからは何も生まれないのです。
         

 私も以前から、競馬に限らず世界を覆うシステムと向き合って格闘しているときには、こういったメンタリティーを忘れないように努めてきた。だが、それは何だかんだで容易なことではない。常に意識していないと、つい楽な方向に走ってしまうのが、何も日本人に限らず、どうしようもない人間の性でもあると思う(ただ我がベイスターズに関しては、ルーキーの牧と前年のドラ1森が二遊間を固めるようになったら、無頓着に古典的な采配を繰り返すような監督であってさえも、希望に満ちた明るい未来が待っていると性懲りもなく夢想しているのだが、どんなもんだろうか・・・?)。

 3歳牝馬 M3血統タイプ分析

 前振りが長くなったが、いよいよ本題だ。
 今回は、『ウマゲノム版種牡馬辞典(ガイドワークス)』で割愛した3歳牝馬のM3タイプ分析になる。エディージョーンズが言うように、型に嵌まって無自覚なものにならないように意識しつつ、冷静で知的な闘志を持って、早速分析に入ることとしよう。なお、タイプは「競馬予想GP」や「コンビニプリント」などのサービスで提供している簡易式のものではなく、タイプの理解の為に、より多くの要素を入れて表記してある(例えば実際にはCLで良いものも敢えてCL(S)などと、できるだけ補助要素も入れて表記しているので、タイプ判定の参考にして頂きたい)。タイプやオプション等の説明は、以前ここで書いた「Mの用語集」や、『ウマゲノム版種牡馬辞典』を参照のこと。

LC(CS)  アカイトリノムスメ  パワーと量が豊富な血統だが、牝馬なのでしぶとさ(C要素)も比較的強く、鮮度時なら馬群も対応する。速い上がりも出せるが、忙しくない流れでの消耗戦が相対的には走りやすい。距離は延びても問題ない                             オプション(重 開 延 中) 距離(20 18 16) 状態(平行)

LC(S)   クールキャット   不器用も持続して脚を使うタイプで、揉まれ弱いわけではないがブレーキを掛けないでだらだら加速する形が合う。そのため外目の枠や延長、平均した流れが走りやすいが、荒れてばらける馬場なら内枠も走れる                               オプション(重 開 延)  距離(20 22 18) 状態(不安定)

SL(LC)  ステラリア    パワーの持続力で走るキズナ産駒。矯めれば速い上がりも出せるが、相対的には消耗戦がベター。ブレーキを掛けたくないので、外枠や少頭数、道悪は得意。延長も淀みない一貫した流れなら体力を活かせて向く                                オプション( 延 交 開 少) 距離( 20 22 18) 状態(不安定)

CL(S)  スライリー    オルフェーヴル産駒らしく、前走よりゆったり流れるけど、前走よりタフな体力勝負になると激走する。精神的に不安定で、位置取りショックの効きが良い。最後に馬体を併せる形に持っていきたい    オプション(延 巻 交) 距離( 20 22 18) 状態( 不安定)

CL(S)  スルーセブンシーズ   ドリームジャーニー産駒でパワーと体力が豊富で集中力も高いが、ダッシュ力が弱いのでなかなか得意の馬体を併せる形に持って行きにくい。その為、内枠や道悪がベター。前半は速くないけど上がりの掛かる展開で強い                         オプション(内 重 延 巻)  距離( 22 20 25) 状態(不安定)

SL(SC)  ソダシ   クロフネ牝馬らしく闘う意欲が旺盛で、体力、パワーも十分で鮮度時なら馬群も割れる。同馬は母系も似たタイプで、よりその傾向は強調されている。ブレーキを掛ける競馬より、一貫して速い流れで最も強さを発揮する。高速馬場や道悪など、極端なレース質が理想           オプション(短 延 重 特)  距離(18 16 20) 状態(平行)

CL(S)  タガノパッション   まとまっていて完成度が高いキングカメハメハ産駒。距離は2000m以上がベター。道悪も適性が高いが、タフな馬場なら平坦の方がより向く。使い詰めるとよくないが、ある程度馬群も割れる。速すぎない上がりが良い                            オプション(延 短 中)  距離( 20 18 22) 状態( 平行)

SL(LC)  ファインルージュ   キズナ産駒の中でも強引なパワー型のS系。一貫して速い流れを強引に押し切る競馬に向き、高速や重などばらける特殊馬場を目一杯走って強い。極限では非根幹距離がよりベター。速い流れの高速馬場なら速い上がりも合うが、消耗戦の方がより良い             オプション(重 開 延) 距離( 16 14 18) 状態( 平行)

LC(S)  ホウオウイクセル   体力と量が豊富も、ダッシュ力が弱く、揉まれ弱い典型的なルーラーシップ産駒。したがって延長で前に行く位置取りショックが向く。短縮で忙しい流れだと外目の方が競馬しやすい。荒れ馬場で鮮度が高いと馬群を割れるので、延長の道悪とかなら内枠が良い。上がりの掛かる前残り競馬が理想                         オプション( 外 重 巻 延)  距離(18 20 22) 状態( 平行)

S(CL)  ユーバーレーベン   ゴールドシップ産駒は気持ちが乗っている間は集中して混戦で走れるが、硬くなりやすく、使われるとかなり不安定になる。ただ牝馬の場合はその度合いが緩やかなので、3歳一杯くらいはある程度真面目に走る。ダッシュ力が弱く、揉まれても大丈夫なので、馬群に取り付きやすい延長の内枠が理想。重も合う                    オプション(重 延 巻 内) 距離( 20 18 22) 状態(不安定)

S(LC)  ソングライン   一貫した流れに強く、外を回って伸びる競馬が理想で、あまり接触すると良くない。左回りだと多少スムーズ。テンションが上がりやすく量系なので、入れ込んで大幅減があると良くない         オプション( 短 外 巻)  距離(14 16 18)  状態( 平行) 

 ところでこの間、本屋に行ったら『ウマゲノム版種牡馬辞典』にカバーが掛かっていて内容が見られない状態になっていたのに、びっくりした。そこで、買わ前に内容が多少なりともイメージできればと思い、今回の写真は辞典からルーラーシップの部分を少し切り抜いておいた。

 

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