[BtoB SaaS] カスタマーサポート立ち上げガイド

従業員20人前後のBtoB SaaSのスタートアップでカスタマーサポートを立ち上げました。これから立ち上げる方の参考になればと思います。

カスタマーサポート業務として何をするかを決める

「顧客にどのようなサポートサービスを提供するか」という話でもありますが、以下2つに決めました。

メールでの問い合わせ対応:問い合わせフォームまたはメールで質問を受け付け、メールで返答し、クローズする。Zendesk Supportを使用。
ヘルプサイトの運用管理:製品の仕様・操作方法・FAQなどをまとめたサイト。Zendesk Guideを使用。

サービス範囲を決めるにあたって留意点を書いておきます。

-- 制限を設ける --
スタートアップは人もいないしお金の余裕もありません。また、会社全体のボトルネックは、"カスタマーサポートという後工程"ではなく、"カスタマーサクセス(導入・運用支援)やマーケティングなどの前工程"または"プロダクト開発"にあります(BtoB SaaSでよくあるビジネスプロセス:マーケティング → インサイドセールス → フィールドセールス → カスタマーサクセス → カスタマーサポート)。

ボトルネックでない工程にリソースを費やしてはダメなので、最初は1人や2人(メイン&サブ)でサポート業務を回さないといけません。そのため、「問い合わせは次のアドレスのメールのみにて受け付ける(チャットとかでは受け付けていないんです🙏)」「問い合わせへの回答は翌々営業日の平日9時~12時と13時~18時に行う(一次返信まで少し時間がかかるんです🙏)」などの制限を設けておきます。

-- 利用規約と揃える --
制限は利用規約にも書いておきます。規約関係は、つくったあとはあまり見返すことがないですが、提供しようとしているサポートサービスの内容が規約を満たしているかを確認しておきます。

-- カスタマーサクセスと区別する --
BtoB SaaSでは「カスタマーサクセスは専任CSM(Customer Sucess Manager)がアサインされるが、カスタマーサポートは貴社専任での担当者はアサインされない」というモデルが多いです。サクセスとサポートそれぞれの対応範囲(やること・やらないこと)と料金を整理し、利用規約・規約別紙・料金表などの顧客向け資料に書いておきます。

なお、カスタマーサポートのKPIはこの段階では決めなくてOKです。こうしたことを企画したり管理する時間は他の仕事に費やすべきだからです。

以上のようなことを考えたら、Zendeskの導入設定をやっていきます。Intercomとかに比べたらZendeskはUIがダサいですが、以前使っていて学習コストが低いので使うことにしました。契約したのはSupportのTeam Edition(月19ドル)とGuideのProfessional Edition(月15ドル)を各1本です。

導入設定を誰がやるかですが、プロダクトとビジネスプロセスの両方をわかっているプロダクトマネージャー(PdM)がひとりで一気にやるのが、結局はスピード面でもクオリティ面でも良いと思います。ただ、以下のような部分だけ、エンジニアとデザイナーの力を借ります。

 -- エンジニア --
・ヘルプサイト用のCNAMEの設定(support.example.comなど)
・ヘルプサイトのテーマカスタマイズ(HTML/CSS/JS/Curlybars)

-- デザイナー --
・ヘルプサイトのデザイン

デザイナーには、「デザイン対象」「雰囲気や方向性」「サイトマップ」の3点を伝えておきます。

-- (1) デザイン対象 -- 
ページ:トップページ、カテゴリ/セクションページ(扉ページ)、記事ページ、検索結果ページ、問い合わせフォーム
要素:ファビコン(プロダクトやブランドサイトと違うもの)、ヘッダ/フッタ、パンくずナビ、検索窓、見出し(H1〜H4)、画像エリア(border・width・captionなど)、テーブル(複数階層のヘッダを考慮)、リスト(複数階層を考慮)、コード(pre・code)、テキストリンク、引用(blockquote)、読みやすさ(Vertical Rhythm)、問い合わせ完了時のSnackbar(デフォルトだと"リクエストは正しく送信されました"というSnackbarが画面上部に表示されるだけで、不親切でわかりづらい

-- (2) 雰囲気や方向性 --
・プロダクトのデザインシステムスタイルガイドと調和させること。
・参考にする他社ヘルプサイト:BacklogSmartHRPinterest、など。

-- (3) サイトマップ --
・特に第1階層と第2階層は早めに固めておきましょう。以下、例です。
- トップページ
  - カテゴリ(1)機能別の操作方法や仕様の説明
    - セクション
      - 記事
  - カテゴリ(2)お知らせ:メンテナンス、プロダクトアップデート
  - カテゴリ(3)よくある質問
- 問い合わせページ
- 検索結果ページ

Zendeskの導入設定

続いて、ゴールを「Zendesk Supportでメールでの問い合わせ対応ができるようになること」「Zendesk Guideでヘルプサイトを公開すること」とし、SupportとGuideの2つに分けて作業の流れを見ていきましょう。設定内容をチェックリスト形式で書いていきます。

1. Zendesk Support

-- メール:初期設定 --
[ ] support@やhelp@など、問い合わせを受け付けるメールアドレスを決める。印象としてはsupport@を使っているところが多い。
[ ] そのメールアドレスでG Suiteユーザを追加する。ポイントは、(1)Googleグループはサポートされていないので使わない、(2)SPFやDKIMなどの設定が不要で設定がラクになる、の2点。
[ ] 「Gmail経由でメールを送信する」を有効にする。
[ ] 「Gmail受信トレイでの自動チケット作成の有効化」を設定する。
[ ] メールテンプレートで不要なフッタ行を削除する。HTMLメールテンプレートでは{{footer}}と{{footer_link}}を、テキストメールテンプレートでは{{footer}}を削除する。
-- メール:Gmailの設定に関する補足 --
[ ] 自動振り分け設定で、不要なメールを既読にして削除する。info@やall@など全社員が参加するGoogleグループ(メーリングリスト)があると、メンバーに「組織内のすべてのメンバー」が設定されていることがある。この場合、info@やall@のメールが問い合わせ受付用アドレスにも届き、不要なチケットが作成されてしまう。こうした事態を避けるため、info@やall@のメールは振り分け設定で既読化・削除する(Google API 形式でチケット作成されるのは、受信トレイ内の新着の未読メールのみなので、既読化かつ削除すればOK)。
[ ] no-reply@accounts.google.comからの通知メールは、Zendesk側で自動的に「一時停止中のチケット」に振り分けてくれる。このチケットを削除する運用にする。情報セキュリティ管理の観点で、G Suiteに不正なログインなどがあった際に気付けるようにするため。
-- 初期設定 --
[ ] 設定 > アカウント:Zendeskアカウント名・ファビコン・ホストマッピング(CNAME)・サブドメインを設定する。アカウント名は「サービス名 サポートセンター」などを入力する。
[ ] 設定 > セキュリティ > SSL:「Zendeskが提供するSSL証明書を取得する」を設定する。
[ ] チャネル > ウィジェット > カスタマイズ:「問い合わせフォームの作成」をもとに設定する。"会社名"・"お名前"・"電話番号"の3つのカスタムフィールドを作成することになると思います。
[ ] チャネル > ウィジェット > カスタマイズ:Chatなど使わない機能のトグルボタンをOFFにする。
[ ] 管理 > チケットフィールド:"ステータス"の値はカスタマイズできない。"優先度"と"タイプ"をカスタマイズする。"グループ"は、1人や2人で運用するならグループは使うことはあまりなさそうだが、「サービス名 サポートセンター」などに変更する。
[ ] 管理 > チケット:「メール経由のエージェントのコメントはデフォルトでパブリック」のチェックを外す。
[ ] 自ユーザ名(エージェント名):「サポート担当」という名前にする。「チケットの担当者名」や「顧客に送信するメールの差出人名」に「サポート担当 (サービス名 サポートセンター)」という文言が表示されるようにする。※問い合わせ対応時に指名されないよう個人名を出さない。
[ ] トリガ:最初は、「リクエスタ名を更新(問い合わせフォーム用のTips)」「リクエスタとCCへの通知 - リクエスト受信(チケット作成時の自動応答メール)」「リクエスタとCCへの通知 - コメント更新(チケット更新時の送信メール)」「Slack Ticket Trigger(Slack連携)」の4つがあればOK。
-- 外部システムとの連携 --
Salesforce:最初は、Salesforceの取引先/取引先責任者でZendeskチケットを参照できるくらいで十分で、「Salesforce -> Zendesk 方向のデータ同期」は設定なしでOKです。
[ ]「Zendesk for Salesforceインテグレーションの設定」を行う。
[ ]「Salesforceでのチケットビューの設定」を行う。

Slack:最初は、チケットが作成/更新されたときに指定チャネルで通知されるくらいで十分です。
[ ]「Zendesk Support用Slackインテグレーションの概要、インストール、設定」を行う。

Google Analytics:一応、設定しておく程度です。
[ ] Zendesk側:GAのトラッキングIDを入力する。
[ ] GA側:必要ならフィルタサイト内検索除外するURLクエリパラメータを設定する。

2. Zendesk Guide

Guideの初期設定は簡単に終わります。時間がかかるのは記事作成です。記事をつくるにあたってのポイントを、「企画」「文章の執筆」「画面キャプチャの作成」「便利ツール」「おすすめ本」の5項目に分けて説明していきます。

-- (1) 企画 --
・3つのIを考える。
・Issue:ユーザまたは自社のどのような問題を解決したいのか。
・Input:各記事を書くにあたってインプットとなる資料や情報源は何か。
・Index:ヘルプサイト全体をどのような記事で構成するか(MECE:モレなくダブりなく)。各記事をどのような内容で構成するか。
-- (2) 文章の執筆 -- 
・書きすぎない。言は簡なるを以て貴しと為す。
・「ですます調」で統一する。ヘルプサイトの記事に尊敬語・謙譲語があろうがなかろうが読者は気にしていない。
・自社やシステムではなくユーザを主語とする。「...してください」や「...を表示します」という書き方をなるべく避ける。
・スタイルを統一する。たとえば、ボタンのラベルは角括弧で囲って太文字にする(例:[保存] ボタン)、タブ名やページ名はカギカッコで囲む(例:「ユーザ」タブや「レポート」ページ)、英単語の前後には半角スペースを置く(例:ダウンロードした CSV ファイルを開きます)、など。
・読者の気持ちになって、疑問文やLet’s文をところどころで使う。「では、どうすれば...できるのでしょうか?」「...を使って...を増やしましょう」など。
・絵文字(😃や🤔など)を少し使うと、あたたかさが出る。
-- (3) 画面キャプチャの作成 -- 
・画面のエリアや要素に名前を付けておく。画面上部は「ヘッダ」と呼ぶのか、「グローバルナビゲーション」と呼ぶのか。「フィルタ」と呼ぶのか、「絞り込み」と呼ぶのか。表記のゆれが発生しないように。
・画面キャプチャを多用しすぎない。UI変更に追従するのが煩わしいから。SalesforceGoogleは画面キャプチャを一切載せていない。
・画面キャプチャと記事内容とマッチさせる。説明しようとしている操作方法に合わせて、いくつかのチェックボックスにチェックを付けたり、アコーディオンを展開したり。
・画面キャプチャのスタイルを統一する。枠囲み線(色・太さ・角丸)、矢印、引き出し線、補足テキストなど(参考:sociomedia)。
-- (4) 画面キャプチャをつくるための便利ツール --
Skitch:静止画(操作が簡単)
Figma:静止画(少し見た目にこだわりたいとき)
LICEcap:アニメーションGIF
-- (5) 文章執筆と画像作成に関するおすすめ本 --
書く技術・伝える技術
理科系の作文技術
日本語スタイルガイド
ノンデザイナーズ・デザインブック
なるほどデザイン

カスタマーサポートの稼働開始

Zendesk SupportとGuideの構築が終われば、いよいよリリースです。スケールしやすい事業体にする意味で、(1)ユーザが何か困ったことがあったときヘルプサイトを見て自己解決できるようにすること、(2)アサインされたCSMがいつまでも特定案件に引きずられないようにすること(手離れをよくすること)は、押さえておかないといけないポイントです。ヘルプサイトと問い合わせ受け付け用メールアドレスの存在をお知らせし、使っていただけるようにしましょう。具体的には以下のような作業を行います。

-- ヘルプサイトのリリース作業 --
[ ] プロダクト(管理画面)からリンクを貼る。多くのSaaSで、画面右上にクエスチョンマークのアイコンが付いてますよね。
[ ] ブランドサイトなどその他サイトからもリンクを貼る。フッタに貼られていることが多い印象。
[ ] プロダクトからの自動送信メールや個人メールの署名にヘルプサイトのURLを載せる。
[ ] ヘルプサイトのバックアップを取得する。エクスポートする方法もあるけど、とりあえずは全記事の全画面キャプチャを手動で取得しGoogleドライブにアップするだけでもOK。
[ ] 必要なら2要素認証を有効化する。

リリースが終わったら

記事の作成や更新、メールでの問い合わせ対応、Zendeskの運用管理などの定形業務をこなしていくことになります。それとは別途、中長期的な課題として以下を心に留めておきましょう。

-- プロダクト(管理画面)とヘルプサイトとの統合 --
たとえば、画面右上のクエスチョンマークアイコンをクリックすると、右からDrawerが出てきて、そこにヘルプ記事や問い合わせフォームへのリンクを載せる。ヘルプサイトに行かなくても管理画面内で自己解決できるように。Zendesk APIを使ってDrawer内で問い合わせを送信できるようにするのもあり。

-- プロダクト内での軽量級ヘルプコンテンツの拡充 --
記事が盛りだくさんのヘルプサイトを重量級ヘルプコンテンツとすると、プロダクト内のオンボーディングツールチップ・吹き出し(Balloon/Popper/Popover)は軽量級コンテンツです。ヘルプ記事を読まなくても済むよう、「段階的な情報提供」という考え方をプロダクトに組み込んでいきます。

-- フィードバックの仕組みづくり --
問い合わせ対応をしていると、「お、これはプロダクトの改善に活かせそうだ」とキラリ✨と光るアイデアがあります。そうしたネタを収集・管理するツールとプロセスを整備しましょう。ちなみに、直近在籍していたチームでは、GitHub IssuesとZenHubで課題管理していました。

-- 一斉メール配信のツールと作業手順の整備 --
緊急/計画メンテナンス、プロダクトアップアップデート(機能の追加/変更など)、料金体系や利用規約の変更の際、顧客にメールを一斉配信します。DBのusersテーブルからメールアドレスのCSVを出力し、次にMailChimpなどの一斉配信ツールにインポートし、続いてメールの件名/本文を書き...という一連の作業について、配信事故が起きないよう手順を書いておきます。

-- ライティングガイドライン --
顧客が目にするプロダクト・各サイト・各ドキュメントで表記のゆれや文体のズレが少なくなるよう、将来的に「MailChimp Voice and Tone」や「Salesforce Lightning Voice & Tone Guideline」のようなものもつくると良いですね。

以上、「カスタマーサポート立ち上げガイド」でした!

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