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【感想】プラチナ・ビーズ(五條瑛)

五條瑛先生のデビュー作であり、私の五條作品との出会いとなった作品。
「鉱物シリーズ」の1作目です。
スパイ小説や謀略小説好きというわけでも、極東の国際情勢に明るいわけでもなかったただの学生でも、それが全く苦にならないほどの物語としての面白さと魅力的な登場人物に惹き込まれました。

この物語は、米国情報機関の末端に籍を置くHUMINT(人的情報収集。この言葉も本作で初めて知った。)の担当官 葉山隆を主人公にしたもの。
情報の世界に当事者として身を置いてきた作者だからこそなのでしょうか、情報を扱う人々や仕事そのものへの愛情と誇りを感じます(私の勝手な思い込みかもしれませんけど。)。

誰かにこの本を貸すならば、細かいことは何も言わず、「とにかく読んで。分厚くて大変だと思うかもしれないけれど、少し頑張って読んでみて。絶対に面白いから。」と伝えます。
まずは、「プラチナ・ビーズ」の正体と、そこに至る展開を体感してほしい。

北朝鮮のこと、米軍のこと、国というもの…読者はこの作品から様々なメッセージを受け取ると思いますが、私が一番心に残ったのは、“知る”ことそのものの魅力です。

主人公の葉山隆の育ての親、田所先生の口癖だという 「情報も知識も、それを活かせる人間だけが知ればいいんだ」

主人公をHUMINTの世界に引き込んだ(隆さん曰く陰険)上司エディの悪魔の囁き 「-知りたくないかね?」

情報の世界に生きる男たちが織りなす物語と、目の前に広げられた雑多な情報から真実が紐解かれていく快感は格別です。
人の言うことや世間にあふれるニュース…“情報”は、それを扱う人によって、あるいはその人の目的によって、その価値が変わるのだという気づきが新鮮。
そして、できるなら、その価値を見つけられる側の人間でありたいと憧れます。

鉱物シリーズは、とても分厚い背景をベースに書かれた物語で、プラチナ・ビーズはそれだけでも面白い物語ではありますが、シリーズ全体で言えばほんの序章にすぎません。
後からわかることもたくさんあって、その度に何度も読み返してしまう作品です。

鉱物シリーズと、本作にも登場するサーシャが出てくる革命シリーズへの入り口として必要不可欠なのに、本作が絶版状態なのが悔やまれます。
プラチナ・ビーズが書店に並んでいれば、続編やスピンオフ作品の魅力も最大限発揮されると思うのですが…。
現状では、図書館や古本ということになると思いますが、興味を持った方はぜひ手に取ってみてください。