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100日後にデビューするYouTuberを見つけたので盗撮してみた #16

「とにかくめっちゃ僕のこと下に見てるんすよそいつ。全然仕事できへんくせに」

「どんなやつなんその上司?」

「デブでチビでブスです。そいつの利点ハゲてないとこだけっす。『黙れハゲ』とは言えないっす。ハゲてないんで。でも他全部言えます。そんな奴になんであんな偉そうに言われなあかんねん」

仕事帰り、丸山に誘われて私は『大阪王将』にいた。彼は貸し会議室を運営する傍ら、水道会社の社員としても働いていた。

こういった機会は定期的に訪れた。会ってから解散するまで、彼は仕事の愚痴を喋り続ける。いつも同じなので、これは彼の趣味なのだろう。

「そんなこと言われて僕も腹立つんで、一切謝らなかったんすよ。そしたら『謝ることもできへんのやったらもう丸山君終わりやで?』て言われて、はあ!? みたいな。わかります? ヤバないっすか?」

「ヤバイな」

適当に相槌を打ちながら私は餃子を口に運んだ。咀嚼した瞬間肉汁が溢れ出し、うま、と思う。

「そしたら一時間後、そいつ、お客さんから超特大のクレーム来て、部長にまで話行って、一緒に謝りに行くことなって。ヤバないすか? 損害賠償がどうとかいう話になってるらしいっすよ? それでよう俺にあんなこと言えたなと。そしたらそいつ、焦って見たことない顔色、うんこみたいな顔色なって」

食事中でも関係無く彼は汚い言葉を使用する。これもいつものことだった。

「僕言ったんすよ、『顔うんこみたいな色なってますよ』て。『大丈夫っすか?』て。めっちゃムカついてたから」

聞きながら、彼の前に置かれた天津飯を私は見ていた。運ばれて来てからまだ一度も手を付けていない。勢いよく立ち昇っていた湯気も今では元気を失くし、表面にかろうじてまとわり付いているだけだった。
彼は、これがカップラーメンでも同じことをやるのだろうか? と考え少しゾッとした。

「そしたらそいつ、『なってへんわ』て。小3みたいな言い方で。『なってへんわ』。こう口尖らせて『なってへんわ』て」

丸山はそのときの上司の態度を懸命に表現してくれた。たぶん似てないだろうが、どちらでもよかった。

「いやいやいやいや、はあ!? なってへんやあれへん。わかります? なってへんじゃないっすよね? なんでなってへんねん。自分が大失態して客からホームラン級のクレーム来た。収集つかず部長にまで話いった。これから一緒に謝りに行く。損害賠償がどうとかいう話になってる。客との話がついたとしても会社での立場どうなるかわからへん。ほなうんこみたいな顔色なるでしょ。で、『なってへんわ』。いやいやいやいや、なってへんわやあれへん。なんねん」

丸山の愚痴は結局、私が最後の一口を食べ切ったところで一段落した。
ようやく天津飯を食べ始めた彼に、私は言った。

「丸山君さ、たつやに近づいてみてくれへん?」

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