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思い出は向こう側に

久しぶりに彼の夢を見た。確かに彼だった。だけれど、彼の顔はのっぺらぼうになっていて、まるで思い出の輪郭だけになってしまったようだった。それでも、私は楽しそうに、時には泣きそうにお喋りをする。今までの事、今日あったこと、昨日の話。それはもうとりとめもなく。

そんな時間が永遠に続くと思ったけれど、そんなに甘いものでもなく、彼から「彼女にバレると面倒だから、やっぱり俺の携帯に入れたお前のアドレスは消すよ。それと、あんまり連絡されると困るんだよね。お前は都合のいい女だし」と告げられ、呆気なく終わりを迎えた。そしてやっと交換出来たアドレスは、私が消したわけでもなく、彼が消したわけでもないのに、私の携帯電話からきれいさっぱり消えてしまっていた。

待って、なんて彼には届かず、私の手元で渦巻く。待って、待って、待って。さっきまでこの中にあったのに。ねえ、待って。なんでないの、なんで、なんで。嫌だ、行かないでよ、ねえ。

その瞬間、目が覚めた。首筋は寝汗で濡れていた。少しだけ頭痛もする。気だるさで重くなった体をどうにか起こす。終わった恋に振り回されそうだなと呟いて、カーテンを開けた。

思い出はいつだって近いようで遠い。

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