インタビュー:ピアニスト川崎槙耶さんに聞く
2024年10月18日、横浜みなとみらいホールにて「みなとみらいピアノフェスティバル 2024〈Day1. ホール公演〉」が開催されます。このフェスティバルの第1部『春はいけにえ。秋はピアフェス。ー「儀式」の再構築ー』(12:00開演)では、ピアニストの和田華音さんと川崎槙耶さんが、ストラヴィンスキー作曲の「春の祭典(連弾版)」を披露します。
インタビューシリーズ最終回となる今回は、ご出演者の一人、ピアニストの川崎槙耶さんにフォーカスし、音楽観や今後の活動について語っていただきました。
現代音楽との出会い
現代音楽に触れるきっかけについて教えてください。
川崎槙耶さん(以下、川崎):現代音楽に初めて触れたのは、小学生のときでした。当時お世話になっていた恩師の播本枝未子先生に、海外のコンクール(アメリカのジーナ・バッカウアー国際アーティストコンクール)に出るための曲を決めようと言われ、日本人の作品を取り入れようという話になりました。そのとき、矢代秋雄のピアノソナタを勧められたんです。それが私にとって現代音楽への最初のステップでした。
矢代秋雄の作品は、譜読みは大変でしたが、弾いてみると面白く感じました。その後も、矢代作品をコンクールの全国大会で演奏したりと、小学生の頃から現代音楽に親しんできました。
大学に入ってからの現代音楽との関わりについて教えてください。
川崎:大学の学部3年生の時に大きな転機がありました。大学構内で、シュトックハウゼンの娘さんであるマイエラ・シュトックハウゼンさんが来日して、公開レッスンをするという掲示を見つけたんです。現代音楽と言えばシュトックハウゼンということで、私もその公開レッスンに参加することにしました。それが自分の中で大きな変化をもたらしました。
その後、学部4年生の卒業試験では、自分の独自性を出すために現代音楽一色で行こうと決め、ブーレーズ、メシアン、シュトックハウゼンの作品を取り上げました。それが現代音楽に振り切る大きなきっかけでした。
実験音楽への興味
実験音楽への興味はどのようにして芽生えたのでしょうか?
川崎:実験音楽に興味を持ったきっかけは、幼い頃から抱いてきた疑問に遡ります。「なぜ、過去の巨匠の作品を再現することがこの音楽分野では自明とされ、その作者の意図(≒楽譜)を重んじて演奏することが演奏者の美徳とされているのだろうか」という疑問です。実際、学部時代に取り組んでいたブーレーズやシュトックハウゼンの作品に対しても同様に、その疑問を抱えたまま演奏をしていました。なので、大学院に入ってからはその疑問を形にするべく、ジョン・ケージなどアメリカの実験音楽家たちの作品に取り組むようになりました。
ジョン・ケージらの実験音楽作品の中には、作品から作曲家の意図を排除し、演奏者の恣意的選択によって音響結果が変わる「不確定性の音楽」というジャンルがあり、これが私の長年の疑問にマッチしました。それを研究材料にしようと思ったのが実験音楽にのめり込むきっかけです。実際には「不確定性の音楽」にも作者の暗黙の意図や演奏者への制約があるとわかり、結果的にケージ批判の修士論文となりましたが……。
現代音楽と実験音楽の違いについて教えてください。
川崎:現在「クラシック音楽」の主流とされている諸概念(調性や形式、記譜法や楽器法など)が形成された1600〜1900年の期間を経て、この時代の音楽を歴史的に相対化し、拡張や否定をしながら音楽の多様性を求めたのが、20世紀初頭から現れた「現代音楽」というジャンルであると、現在広く一般的に言われています。「実験音楽」は、その現代音楽という大きなジャンルの中に位置する、主にアメリカの作曲家たちによって発展した音楽です。「実験音楽」という用語はマイケル・ナイマン著「実験音楽:ケージとその後」という本で使われていますが、専門書によっては異なる用語を使っていたりします。
川崎さんの中で、実験音楽をどのようにして深めていったのでしょうか?
川崎:大学院で実験音楽を深めていくきっかけとして特に影響を受けたのは先に述べたマイケル・ナイマンの「実験音楽:ケージとその後」です。あとは庄野進氏や沼野雄司氏など多くの音楽学者の論考にも影響を受けました。また、YouTubeなどで実験音楽の演奏動画を載せたり(川崎さんのYouTubeはこちら)、SNSで実験音楽への熱い思いをアピールしていくうちに、実験音楽を上演する公演に呼ばれる機会も増えました。
実験音楽の未来と今後の挑戦
今後のキャリアについて教えてください。どのような夢や目標をお持ちですか?
川崎:YouTube などで実験音楽の試みを公開していますが(川崎さんのYouTubeはこちら)、もっとアウトプットを増やしたいと思っています。自主企画の公演を定期的に開催し、ピアニストという肩書きだけでなく、実験音楽のパフォーマーとして広く認知されたいです。
また、将来的には大学で実験音楽を学べる授業を開設したいという夢もあります。現代の大学では実験音楽があまり学ばれていないのが現実です。しかし、私はそこに可能性を感じていて、実験音楽のスキルや思想を受け継ぐエキスパートとしてのキャリアを築きたいです。そして、そういった授業を通じて、現代の私たちが考える新しい実験音楽を一緒に探求できるよう、後身の育成もしていけたらと考えています。
具体的にはどのような実験音楽を構想しているのですか?
川崎:例えば現代のメディアを使用することで、ケージが時代的に実現不可能だったことを現代の技術で実現し、新しい実験音楽を作り出すこともできるのでは、と考えています。また、実験音楽の「演奏」に関しても、当時の実験音楽家が想像し得なかった方法で解釈することが可能だと思います。
演奏者の身体性や人間ならではの予測不可能性も重要だと思います。人間が演奏することでバグが発生し、それが面白さにつながる場合もあります。そうした可能性も追求していきたいと思っています。
「人間ならではの予測不可能性」は、今流行りの人工知能とは違った、人間の可能性を考える際のヒントになりそうですね。
ありがとうございました。
「みなとみらいピアノフェスティバル 2024〈Day1. ホール公演〉」
横浜みなとみらいホール 小ホール
■ チケット 全席指定 ¥2,000
■ 出演・プログラム
公演詳細は、こちらをご覧ください。
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