036:ディスプレイと画像とを密着させる両面テープのような存在

ディスプレイを「物理的フチ」として,そこに示されるウィンドウを「仮想的フレーム」とする.さらに,ウィンドウに示される画像の端を「イメージのキワ」と読んでみたい.

物理的フチが物理世界と仮想空間とを区切る.そして,仮想空間を「仮想的フレーム」が区切り,そこに画像が表示されている.画像の端である「イメージのキワ」は「仮想的フレーム」と一致しているときもあれば,フレームより小さかったり,フレームをはみ出しているときもある.イメージのキワが仮想的フレームをはみ出しているときは,仮想的フレームの大きさを調節すればよい.もしくは,画像を拡大して,イメージのキワを仮想的フレームに合わせることもできる.仮想的フレームとイメージのキワの操作をしているときに,物理的フレームは意識されない.それは物理的フレームが操作できないからではなく,仮想的フレームととイメージのキワとがつくるあたらしい意味体系の平面に意識が集中するからである.そして,このあたらしい意味体系としてつくられる平面は,仮想空間の一断面である.仮想的フレームとイメージのキワの操作は仮想空間というより大きなフレームのなかでの出来事である.物理的フチであるディスプレイは物理世界と仮想空間自体を区切っている.

ウィンドウシステムを採用しなかったスマートフォンでは,仮想空間という大きなフレーム自体が仮想的フレームとなる.ウィンドウシステムが持っていた仮想的フレームの二重性が破棄される.同時に,仮想的フレームがイメージのキワと一致する.スマートフォンでは三重のフレームが,ひとつのフレームに収斂していく.さらに,ここに物理的フチも加わる.仮想的フレームとイメージのキワと物理的フチとが密着して,物理的フチが包括的なフレームとなる.このとき,ディスプレイの画像をジェスチャーで拡大すると,イメージのキワが物理的キワをはみ出していく.物理的フチ,仮想的フレーム,イメージのキワの3つが密着しているなかで,ウィンドウシステムであらたな意味体系をつくった仮想的フレームがあたかもなくなったようになる.実際には,画像は仮想的フレームに表示されていてからこそ,物理的フチをはみ出すことができるのだが,物理的フチとイメージのキワに挟まれるかたちで,仮想的フレームが消失したかのように見える.

パソコンではあくまでも仮想空間での出来事であった画像の拡大縮小が,スマートフォンでは「薄い板」で起こる物理的フチとイメージのキワとのあいだの出来事ように見えるようになる.仮想空間はあるのだが,その存在は強調されることはなく,物理的フチと仮想的フレームとイメージのキワとの重なり合いの強調のなかで,ディスプレイと画像とを密着させる両面テープのような存在になっている.だから,スマートフォンとウィンドウシステムをメインにしたパソコンとでは,画像の拡大縮小について異なる感覚を与えるのである.

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