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井上ひさし『十二人の手紙』の仕掛け販売について

井上ひさし『十二人の手紙』(中公文庫)が最近売れている、らしい。
いわゆる「旧作文庫の発掘企画」として、中央公論新社が現在仕掛けているアイテムで、新聞広告も出ているので、
ここ最近、重版を重ねている、そうだ。
実は現在の新しいオビには、私の推薦コメントが掲載されている。
なのに、「らしい」とか「そうだ」とか、曖昧な書き方をしているのは、自分の店ではいまひとつ売れている印象がないからだ。
こんなことで自分の感想がオビに使われてるなんて申し訳ない、という気持ちだ。
でも、世間では、めちゃくちゃ売れているらしい。
伝聞で聞くので、なんか実感がないのだが、でも、売れてるのはとても嬉しいことだ。

『十二人の手紙』は、1978年に中央公論社から発売され、1980年には中公文庫に入っている。
実は今回のヒットの前にも、10年前の2010年ごろ、小泉今日子さんが紹介されてヒットしたことがある。
その前から『十二人の手紙』は、ミステリマニアの間では有名な作品だった。

プロローグとエピローグを含め、13の作品からなる短編集だ。
最大の特徴は、全てにおいて、手紙文だけで構成されている点である(エピローグのみ手紙文ではないので、「十二人の手紙」となっている)。
それでいで、どの短編にも何らかの形でサプライズが仕掛けられている。いわゆる「叙述トリック」のバリエーションだ。
手紙だけの構成なのに、こんなにドラマチックに物語を構成できることに、まず驚くと思う。
さらに、「赤い手」のように「届出書類」だけで短編を成立させたり、ネタバレになるのでどれとは書かないが、「引用」のみで小説にしてしまう、などの超絶技巧もいかんなく発揮されている。井上ひさしさんだからこそ書けた作品、とも言えよう。
読み進むにつれて、この短編とこの短編は関連性があるな、と気がついてくるのだが、それらの構造が最終話で……という展開も見事というしかない。

今回の件は中公さんから「旧作の掘り起こしをしたいので、なにかセレクトしてもらえないか」というお話があり、咄嗟に思いついたのが『十二人の手紙』だった、ということだ。
私はその選定とキャッチコピーを考えただけなので、何の功績もない。
これだけ売れているのはひとえに、作品の力と、中公さんの宣伝のおかげである。
まだ展開されていない書店さん、今なら仕掛けお薦めアイテムですよ。

ただ、こういった感じで掘り起こしをすれば売れる作品は、各社ともたくさん埋れているはずだ。
今後とも、なにか機会があれば、掘り起こしをしていきたいと思う。

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