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女子高生の私が撃たれた話



ツイてない日はことごとく不運が重なる。

その日は午前中の体育で馬車馬のごとく走らされ、腹の虫が大合唱していたので学食のメニューの中でも1番ボリュームがあるとされる日替わり定食を注文しようと決めていた。限定20食でご飯に味噌汁、メインのおかずにデザートまでついてくる、それはそれは食べ盛りの学生に嬉しいメニューだった。

学食は我が母校の誇りと言っても過言ではない。まずなんと言っても安い。そしてほとんどのメニューが500円以下にも関わらずボリューム満点で味も非常に美味しい。日中クタクタになった食べ盛りの学生たちもおばちゃんたちの愛に心も体も満たされ、丸々とした腹を撫でながら食堂を後にするのであった。

定食は品数が多い為提供に時間がかかる。体育の後だった事もあり着替えに時間を取られ、完全に出遅れてしまった。長い列の最後尾に並び、腹の虫たちの機嫌をとりながら自分の番を待つ。
ようやく自分の番が来た時には、次の授業が始まる20分前だった。一刻も早く食べねば、そう心に誓っている間に、深刻な顔をした食堂のおばちゃんが「ごめんねぇ、今日味噌汁がもうなくなっちゃったの」と申し訳なさそうに定食のお盆を差し出してきた。


なんだそんな事か。「いいよ!味噌汁くらい!」どうせ時間ないしと続けようとした私の言葉を遮り

「だからね、味噌汁の代わりにうどん作ったから!それで勘弁してちょうだい!」

一人前のうどんをドーンとお盆に乗せながらとんでもない代替案をかましてきたおばちゃんに私は言葉を失った。

こうして私はご飯とうどんというダブル炭水化物でトンカツ定食を食べるハメになった。いくら女子高生にしては食べる方の私でも、味噌汁の代わりにうどん一玉はなかなかしんどいものがある。いつもなら嬉しいおばちゃんのサービス精神が憎い。
授業開始へのリミットは刻々と近づいている。
別のメニューを食べていた同級生たちはすでに完食し、次の授業に向けて席を立とうとしていた。
頼む私を置いていかないでくれ、クラスメイトの背中を視線で追いながら定食をかきこみ、デザートの杏仁豆腐に至ってはほぼ丸呑みでなんとか完食した。

授業には何とか間に合ったが、胃の中では米とうどんとトンカツと杏仁豆腐がチークダンスを踊っておりすこぶる気分が悪い。気分の悪さに拍車を掛けるかのように、つぎの授業は私と最も相性の悪い数学だった。微分積分がブンブンと教室を飛び交う中、私は気絶するかのように眠りに落ちた。


もう何分経っただろうか。
突然「バーーン!!!!!」という鋭い銃声が聞こえ、私は叫び声を上げながら目を覚ました。
左下腹部に衝撃が走る。私は撃たれたのだ。

ウゥ、と呻き声を上げながら衝撃の走った左下腹部を押さえる。私を撃った何者かが、どこかに居る。みんなは大丈夫だろうか、寝ぼけ眼をこじあけ周囲を見渡すとまぬけな顔をしたクラスメイトと目が合った。

「おい、おまえ、大丈夫か」

大丈夫な訳があるものか、私は撃たれたのだ。
状況が掴めず狼狽えている私にクラスメイトはちいさな金具を差し出した。

弾丸と思われたそれは、私の制服のスカートのホックだった。
炭水化物のエレクトリカルパレードで膨れた腹は、机に突っ伏していた事でスカートを圧迫し、頑丈に縫われていた金具を弾き飛ばしたのだった。
先の衝撃音が私のスカートのホックが弾けた事だとわかるや否やクラスメイトたちは私を指差して笑った。

数学教師に「そのスカートをどうにかしてきなさい」と言渡された私は教室を出てトイレで体操服のズボンに履き替えた。上はブレザー、下は短パンという最高に情けない出立ちであるが致し方ない。その後半日このスタイルで過ごした為、すれ違う顔も知らない生徒たちから後ろ指を刺され、生徒指導の先生に見つかるたびにこっぴどく叱られるという散々な目にあった。


もうこんな目には2度と会うまい、そう誓った私は小さな裁縫セットをカバンの中に入れるようになり、その後も懲りずに食堂で爆食してから居眠りに勤しむのだった。

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