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野手育成におけるコンタクト力重視がインディアンス打線の不振の根本的な原因である

インディアンスの好調な投手陣と低調な打線

インディアンスの先発投手陣が絶好調です。エースのシェーン・ビーバーを筆頭に今季はここまで先発投手の防御率が2.11(両リーグ1位)とWAR(同2位)と圧倒的な成績を残しています。しかしチームは地区3位と必ずしも順調に進んでいる訳ではありません。その原因は打線の酷さです。チーム打率は両リーグで唯一2割を割って.196で両リーグ最下位となっています。

またインディアンスの先発投手陣は全員MLBデビュー時点で既にインディアンスに所属しておりMLBレベルでは全員生え抜きで構成されている点も特徴的です(厳密にはクレビンジャーとカラスコはマイナー時代にインディアンスに移籍しました)。一方生え抜き野手陣はというとフランシスコ・リンドーアとホセ・ラミレスはリーグを代表する選手に成長しましたが、ヤンディ・ディアス(TB)やジオ・アーシェラ(NYY)といった選手はインディアンスを離れてから大きく飛躍しました。このように投手育成と野手育成で大きく異なる結果が出ている原因を今回の記事では考えていきます。

結論から言うとインディアンスは野手育成の際にコンタクト力を重視し過ぎておりパワーを軽視しているのではないかと考えました。以下で具体的に説明していきます。

アーシェラがブレイクしたきっかけ

まずアーシェラが昨年大ブレイクした理由についてです。これに関してはアーシェラのブレイクについて扱ったnj.comの記事「Who Yankees’ Gio Urshela is thanking for late growth as hitter … and slugger」を参考にします。記事の中でアーシェラにブレイクのきっかけを与えた人物は2018年にプレーしたTOR傘下3Aの打撃コーチであるPhil Plantierだそうです。アーシェラはPlantierからボールを(強く)叩く事を意識するように言われてこれが彼のブレイクを助けたのです。ボールを強く叩くようになったアーシェラはHard Hit%が2017年の27.4%から41.8%へと急上昇して一気にヤンキース打線に不可欠な存在になったのです。

このアーシェラの事例からはいくつかの事が考えられますが、その1つにインディアンスの「コンタクト志向」があるのではないかと思います。つまりインディアンスではボールを強く叩く事よりもボールに当てる事をより重視した指導を行っているのではないかと言う事です。

実際に2016年以降チーム全体で非常に高いContact%を誇っており、昨年まで4年間のContact%はいずれも30球団中上位5位に入っています。またK%も低く、2017年は両リーグ2位・2018年は両リーグ1位になっています。つまりインディアンスはチーム全体として日本でもよく言われる“シェアなバッティング”が出来る選手を育てようとしている事が伺えます。

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このコンタクト重視の指導の成功例が前述したリンドーアやラミレスなのでしょうが、近年は若手が育っていません。近年のインディアンスの野手プロスペクトと言えばフランシスコ・メヒア(SD)やタイラー・ネークインやグレッグ・アレンがいます。彼らはまだMLBで目立った活躍はほとんど出来ていません。彼らはインディアンスの「コンタクト志向」の"マイナス部分"の影響を受けてMLBで思ったほど活躍していないのではないかと考えました。以下でその"マイナス部分"について説明します。

「コンタクト志向」の負の側面

まずコンタクト能力とパワーは本来相反するものではないと思います。実際に三冠王を獲得した事もあるミゲル・カブレラ(DET)やマイク・トラウト(LAA)は高打率と長打の多さを両立しています。

しかし現実的にはMLBでも両立出来ている選手は一部のエリート選手に限られています。ある意味それもMLBの厳しさと言えると思います。その結果多くの選手はコンタクト能力orパワーの取捨選択を迫られます。

ここで考えたいのはマイナーからMLBに昇格した時にMLBでも変わらず発揮しやすいのはどちらかについてです。勿論MLBレベルでは両方とも発揮するのが難しくなりますが、コンタクト能力の方がより難しいのではないかと思います。それは単純にMLBでは投手のレベルが一気に上がるからです。一方パワーは選手の体格等先天的な要素もあるので、MLBでもコンタクト能力程劣化しないのではないかと思います。

つまり選手をコンタクト能力とパワーに基づいて4パターンに分類すると以下となります。

・コンタクト能力とパワーを兼ね備えるタイプ
・コンタクト能力に特化したタイプ
・パワーに特化したタイプ
・コンタクト能力とパワーいずれも低いタイプ

このうち最後のパターンの選手はMLBに昇格する事がそもそも難しいと思います。また3番目のパワー特化型の代表例はミゲル・サノー(MIN)です。彼は規格外のパワーが売りでマイナー通算の長打率は.557です。MLB昇格後も低打率ながら持ち前のパワーを生かして昨年までの5年間で25HR以上を3回記録して見事に生き残っています。

問題は1番目と2番目のコンタクト能力に優れたタイプです。1番目の選手が両方MLBでも発揮出来れば、スーパースターになります。イメージはトラウトです。しかしコンタクト能力で躓くとパワーに特化しなければ生き残れません。その選手の代表例がカイル・シュワーバー(CHC)です。彼はマイナー時代の打率が.334でしたが、MLBでは.235まで下がっています。しかし現在は昨年38HRを記録したパワーで生き残っています。

近年の長打率がそこまで高くないディアス(.414),メヒア(.462),ネークイン(.430)のようなパワー面で圧倒的な選手は少ないインディアンスのプロスペクトに関して考えると多いのは1番目と2番目のパターンです。その結果MLBに昇格するとコンタクト能力が生かせず、パワーもそれ程無いので長打を打つ事に振り切る事も出来ず苦戦する事が続いているのです。パワーのないシュワーバーを想像すればいかにこれが厳しい状況か分かるはずです。

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インディアンスを離れてボールを強く打つ事を意識したアーシェラのContact%は2017年に比べて低下しました(83.7%→79.6%)が、全体の打撃成績は大きく向上しました。この事からも改めてボールにただ当てる事以上に強く打つ事がMLBで結果を出す上で重要なのではないかと思います。これは近年流行っているフライボール革命の考えともある程度整合していると思います。

まとめ

ここまで見てきたようにインディアンスは野手の育成に関してコンタクト能力を重視し過ぎているのではないかと思います。しかし残念ながら現在のようなHR全盛時代にはそれよりも選手達のパワーを鍛えてHR数を増加させる事が打線を強化する上では良いのではないかと思います。

もちろんパワー優先の指導といっても一朝一夕に出来るものではありませんから、今後数年間インディアンスがMLBに送り込むプロスペクトのタイプが変わっていくかについて注視していきたいと思います。

Photo BY :Erik Drost