見出し画像

サブカル大蔵経153 前田日明他『証言 長州力「革命戦士」の虚と実』(宝島社)

 Twitterや YouTubeのハジけぶりで現在どのプロレスラーよりも目立つ長州力。数年前から、雑誌「カミノゲ」での井上編集長とのスリリングなインタビューでその素顔?が伝えられてきました。それをまとめたものが『ほんとうの長州力』という題名で先日発刊されました。

 他のレスラーとYouTubeで対談したり絡んでるのを見ると、長州はずば抜けて頭がいい。というか頭の回転が速すぎるくらい速い。今までのリングでのたたずまいは全て計算されていたことがわかる。対抗戦で強者・安生をグラウンドで固めた時のセリフの高揚感だけガチだったのかどうか、それだけがずっと引っかかっています。

 本書で語られる長州の苦悩と明るさ。さまざまな団体プロレスの中で最も能動的に動き、作っては壊し、飛び出ては戻る。組んでは離れていった仲間たち。

 長州とはプロレスの権化だったのか、プロレスを破壊する側だったのか。その変遷と遊泳が外部にはつかみづらい。長州を語るということは、何を語ることにつながるのか。長州に負けた者の愚痴なのか、権力者を讃えた言葉なのか。翻弄された永島だけがかわいそう…。永島もYouTube開設したし、長州とコラボしてほしい。

画像1

ハイエースに乗っていてね。そこに木村健吾さん星野勘太郎さんがいて長州さんもいたのかな。星野さんからお前かヨッチョンか?って聞かれたんだよね。そうですって答えたら、俺らもそうだよって言われて、そうなんだって。(前田日明)p.24

 前田と長州の同朋感は今も続いている。前田を「アキラ」と呼ぶ長州。前田にとって、新日での在日の方々との出会いは家族のようなものだったのだろうか。その後のUWFもリングスもアウトサイダーも家族的だ。前田と長州の軌跡は意外と近いのか。

俺には関節技の本物があって、あっちはアマレスの本物。持っているものも本物だったんだよ。やっぱり自分のバックボーンを生かして本物の技術と気持ちを見せないと怖いプロレスはできない。俺が1番嫌いなのは、リング上から皆さん愛してまーすとか言っちゃう奴。(藤原喜明)p.45

 〈怖いプロレス〉藤原組の正式名称が〈プロフェッショナルレスリング藤原組〉だった理由がここにある。本田多聞が思い浮かんだ。多聞と藤原は縁がなかったのだろうか。なぜ多聞はアマレス技より頑なに頭突きにこだわったのか。藤原に出会った船木。

台湾で同じタクシーに乗った時、船木、お前これからお母さんを泣かせるような人生を歩むもんじゃないぞ。それが全てだからな。いつも本当に優しい言葉をありがとうございます。それが全てです。(船木誠勝)p.58

 船木が新日に残っていたら、エースになっていたのだろうか。船木のYouTubeを見ていたら、道場でのセメントの練習に衝撃を受けてそのまま藤原について行ったような流れを話していました。

長州さんは1人でいたくない人というか。巡業でも休日があると部屋に遊びに来てくれないって電話がかかった。外に出るにしても1人で飯を食いに行きたくないんです。(新倉史祐)p.67

 新倉に声をかける長州。なぜ寂しがりなのか。今もそのまんまだが、謎だ。

今回の取材ではいや2千万円って聞いたよ。永源は1700万持っていった。今からでも返してほしいよと頑だった。長州とか坂口さんは後ろめたいことをしてきてるから下向くしかねぇんだよ。(キラー・カーン)p.77

 カーンがプロレスをやめた理由。それを聞くために皆店に足を運ぶ。

札幌で藤波vs長州戦を組んだ日、控え室に入っていくと猪木さんがこれ、どうするんだい?こんな試合、ぶっ壊しちゃえよ。長州入ってくるところ誰かに襲わせて、試合自体なくしちゃえば良いと。私もその案には賛成したんです、面白いと。ただ襲撃者を誰にするかで揉めてね。猪木さんは小杉、私が藤原を推した。私が猪木さんの言う事に逆らったのこの1回きりだったと思います。(ミスター高橋)p.91

 なぜこの時、猪木は小杉推しだったのか。藤原をまだ手元に置きたかったのか?小杉幻想。

長州さんが、宮戸みたいな気違いがいなくなったからプロレスもつまらなくなったみたいなことを言われていたそうです。(宮戸優光)p.114

 中野を訴えた宮戸、長州に敬意を表す。団体を背負った人にしかわからない想いがあるのかもしれません。

あの頃の長州の言葉にセンスがあったのは、それまでメインストリームにいなかったからなんだよね。下の方で窮屈してたから、それだけ業界がよく見えて、状況に対する批判が客観的にできたってことだよね。(ターザン山本)p.122

 アマレスのエリートとして入団した長州は鶴田や谷津とどこが違っていたのか。全日と新日の、馬場と猪木の違い。くすぶっていたということは、日本プロレスでの猪木状態か。猪木は長州に自分を見たのでしょうか?最新の「カミノゲ」でターザンは、自分で動けない立場の猪木が、佐山や長州や前田に自分の代わりを託し全日本やUWFに放っていった、という説を述べていました。そういえば長州も猪木の掌を実感したというような言葉も残しています。

週プロは、アングルに沿ったように見せて違うことを取り上げる。だから団体は嫌がるわけ。俺は団体が仕掛けたアングルから漏れたアクシデントのようなものを大きく取り上げていってたから。(ターザン山本)p.124

 アングルに生きるレスラーと団体。アングルがプロレスの命綱。私たち素人も自らのアングルを抱えているはず。

あの人は試合でコテンパンにやっつけられないじゃないですか。ほんとに嫌いで嫌いで仕方がないんですけど、逆に存在が気になってしまう。(西村修)p.132

 西村のラリアット・ハイスパート否定の思想。無我ムーブ。新日での思想対決はもっと見たかった。プロレスで思想が全面に出た奇跡。

そう考えるとあの団体がダメになった最大の原因は、関係者に長州力で稼げると思わせるきっかけを作った俺にあったのかもしれないな。(大仁田厚)p.154

 この言葉と視点はさすが。長州はリング上で戦い方を変えることはなかった。このWJ旗揚げの時の混迷は天龍にも責任あると思うが。

焼酎六本ですよ。先輩、あの時は飲んだねえ。ばーか、あの時、みんな水を飲んでたんだよ。それがプロレスだよ。だから俺はプロレス嫌いになったんですよ。(谷津嘉章)p.173

 最初で最後のウブな谷津。この時、谷津のプロレス道が確定か。谷津は自分でそういう騙されボヤキキャラの道を歩んでいった。猪木にも長州にも翻弄された谷津。オリンピックで大逆転のはずだったが…。

実は福田さんとリキちゃんは札幌の寿司屋でばったり会ってるんですよ。リキちゃん俺の存在に気がついたらそのまま店から出て行っちゃったんだよねって寂しそうに言ってました。(高田龍)p.195

 夢ファク懐かしい…。WJで意外と重要人物だった高田龍。札幌寿司幻想。

裁判の時のミツオとの会話?ほとんど話してないよ。ホテルであって、裁判に出て、すぐ帰った。そんな男だよ、ミツオは。(永島勝司)p.207

 裁判とミツオ。長州と永島の関係は、猪木寛至とアントニオ猪木を分けて接した新間・猪木のようにはならなかったのか?長州をミツオと呼ぶということは永島は長州力ではなく吉田光雄と接してしまったということ。それが永島の唯一の武器であり、残念な関係に繋がった。

お前なんで俺が来たらいつも消えるんだ?って聞くから、いや、俺はお前のことが嫌いやし、って言ってあげましたよ。長州が笑いながら俺に、お前人相が悪いなって。(金本浩二)p.230

 長州の苦笑いは、人間らしい。思わぬ時に吉田光雄に戻る。

バスとかでは面白いおっさんですから。だから、ちょうしイイりき、なんです。(田中ケロ)p.242

 今のYouTubeそのまま。知らぬはバスの外ばかり。バスの内と外。W杯のイラン代表のバスの中のよう。バス幻想。

これ、お前のじゃないからな。お前の女房のだからなって、胸ポケットに50,000円突っ込んでくれてたんです。お金にうるさいけど、ここぞと言うときにはそういうことするの。決してがめついわけじゃなくてきっとお金で嫌な思いをしてるんだと思う。育ちだったのかもしれない。そんなの誰も責められないって。(上井文彦)p.248

 長州の育ち。WJから上井ステーションの流れ。裏方にとっての長州とは。

この時、石井を長州にに紹介したのは他ならぬ金沢だった。(金沢克彦)p.271

 元長州番。現永島番。それにしてもYouTubeでの金沢はレスラーと対等感出すなぁ…。

リングに上がれば先輩後輩関係は無い。ストロング小林さんはグラウンドでのスピードがないし、坂口さんには捕まらなければ勝てる。坂口さん、今やりますか?と発言。坂口が気色ばみ、山本小鉄が、吉田、いい加減にしろ。と言うシーンも。p.280

 小鉄から長州は何を学んだのか。現場監督は小鉄イズムのはずだが。そして長州を受け継いだのは誰なのか。

1987年11月19日。前田が長州の顔面を襲撃、その後の公式戦は長州の代わりに、責任を感じた藤原が代打出場。マサ斎藤・藤原組がリーグ2位の好成績を残した。

 この辺の藤原の立ち回り。長州と藤原の関係。

この記事が参加している募集

読書感想文

本を買って読みます。