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サブカル大蔵経225 高橋ユキ『つけびの村』(晶文社)

noteという言葉をはじめて目にしたのはこの本についての論評だったと思います。そして、晶文社の本が面白いと再認識し、買いはじめたのもこの本からでした。自分の中でも伝説の、物語の本になりました。

ルポであり、実話であり、説話であり、推理小説であり、ホラー小説であり、紀行であり、ファンタジーであり、現代社会を象徴する提言の書でもありました。

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人は絶え、うわさが残る。ウイルスか。

まるで事件のおかげで村に平穏が訪れたかのような口ぶりなのである。皆が家族みたいに仲良しだった集落で鍵をかけるものが頭になかったと言う報道に接していた私は、また驚いた。p.40

この本のもうひとつの主人公、虫。おそらく、虫はうわさを象徴する。

そして、なんといっても虫が多い。歩いていても、止まっていても、走っても、体中に小さな羽虫がまとわりついてくる。p.51

善意からのスタートが地獄へのゴール。

あの新しい家でシルバーハウスHOMIを開業したんです。そこでやっぱり介護とかデイサービスみたいなこともやろうと思ったんじゃないですかね。p.56

そして追い詰めたのは住職だと思う。

男は寺の住職も兼ねておりワタルは彼と村おこしをしようとしたが梯子を外されてしまったと言うのである。p.58

些細なこと、こそが、人を動かす。

ワタルが「ありがとう」を言わないことや田舎者呼ばわりしたことなど、貞森さんの酒癖の悪さに比べれば些細なことのように見えるのだが…この村では違うようだ。p.83

本書で一番象徴的な描かれ方をしているのは、悪気ないコープの寄り合いのYか。

まるで金峰地区における諜報機関ではないか。この「コープの寄り合い」は、たしかに金峰地区の皆が知っていた。ただ単に食品や生活用品を共同で購入すると言うだけではなく、その後に何人かが残って、うわさ話をしていた、ということをだ。p.89

「コープの寄り合い」の情報集積力の凄まじさがわかってきて、私は少し怖くなってきた。p.95

そう、面と向かってやらんかったから生き残ったんやね。でもあれも今、苦労しよるよ。息子が死んだからね。嫁が権力を持ったから苦しいと思うよ。自分が小さくなって、苦しい生活をしよる。p.225

村という共同体、の特性。

金峰地区には特定の苗字が多い。金峰神社参道脇にある墓地や石碑にも、これらの姓が多く確認できた。p.112

著者もゾンビのように次々と入り込んでいく。有機体のように。女性だから、入り込めるのか?次のシーンはミイラ取りがミイラになったシーン。

その隙間に顔ぴったりとしつけてすいませーんと何度か呼びかけた。p.120

次の構造が、哀しい。実は、私を、日本を表しているのかも。

ワタル一家が"盗人の家"と郷集落の中で囁かれていたように、周辺集落からは、郷集落自体が、白い目で見られていたのだった。p.129

うわさという最強の化け物。全ての根源。

(ワタル)あれ、おかしいとこに来たなぁ〜、と思いました。言ってることがわからない。15歳まで金峰にいましたけど、みんな話すのはあそこの家のアレがどうのこうの、という話。うわさ話です。p.146

もう一人の探偵、田村老。その推理は果たして…。

生き字引田村さん「金峰全員に関する大きな問題がある」。p.157

異人論的生贄。

この村では昔からいじめがあったんじゃ。あの家が土地を持っているだの、裕福だのとなるといじめの対象になる。p.194

ワタルの手紙のユーモアが救いであり、村民よりもまともさを感じたりもしました。

着替え中 カメラに見られ 玉隠す
入浴日 看守に見られ 玉隠す。
また下ネタだ。p.260

これは、事件ではなく、現代そのものなのか?

殺害された被害者らの遺体には頭蓋骨の骨折があり、なかには口に棒のようなものを突っ込まれた形跡もあった。聡子さんは、歯が折れていた。村で囁かれている自分のうわさを止めたい、黙らせてやろう、黙らせるしかない。そんな気持ちから起こした事件だったように、私は思える。p.268

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