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花火と手袋【シロクマ文芸部】

花火と手袋は、顔を合わせることがない。
花火は主に夏に上がるし、手袋は寒い冬に使われるからだ。

きみちゃんの手袋は、黒い手袋に、たくさんの黄色や赤や白な細かい柄がついている。
親戚のお姉ちゃんがくれた手袋だけど、きみちやんはあんまり可愛くないな、と思っていた。

しかしある時、きみちゃんが、手袋をしてパッと手を開いた時、みよちゃんが、
うわあ、花火みたいね!
と言った。

きみちゃんは、嬉しくなって、冬の花火だね、
と言って、空に手袋をした両手をかざして、手袋を眺めた。
それからきみちゃんは、この手袋がお気に入りになった。

しかし冬が終わると、手袋は、また暗い押し入れの中に仕舞い込まれた。
手袋は、押し入れの横にいた、きみちゃんの麦わら帽子に尋ねた。

ねえ、花火ってどんなものなの?

すると麦わら帽子は、僕も知らないんだよ。
今日は花火を見に行く、なんてきみちゃんがいうときは、いつも僕はお留守番なんだ。
花火は夏の夜に見られるものだからさ。
僕は明るい日中しか、きみちゃんに被ってもらえないからね。

夏の夜に、見れるものなのか…

でももしかしたら、団扇うちわさんなら知っているかもしれないよ。
麦わら帽子が言った。

ねえねえ団扇さん、花火ってどんなものなの?

団扇さん入った。
花火ねえ、それはそれは美しいわよ。
夏の夜空に明るくキラキラ光るのよ。
でもそういえば最近は連れていってもらえてないわ。
なんだか小さい扇風機みたいなのを持っていっているようなの。寂しいわね。

夏の夜空に明るく光るものなのか…

手袋は、花火って一体どんなものなんだろう…
と想像した。
色とりどりのネオンや、明るいシャンデリアを見て花火かと思ったけど、どうやら違うらしい。

その年きみちゃんは、冬休みに家族でテーマパークに行かことになった。
きみちゃんは、お気に入りの花火のような手袋を持って出かけた。
暗くなってきて、寒くなってきた。
きみちゃんは、手袋をはめて手を擦った。
手袋はほんわり暖かくなった。
そんな時、手袋は1番幸せを感じるのだった。



そろそろ帰る時間だな、
とパパが言うと、
ママが、
寒いけど今日は花火上がるんですって。
花火見てから帰りましょう。
と言った。
きみちゃんは、わーい!と喜んだ。

きみちゃん以上に喜んだのは、手袋だった。

花火が見れる!やったあ!
花火って一体どんなものなんだろう…

少しすると
ヒューッと音がした。
見ると空に大きな大きな花が咲いた。
光の花だ。
立て続けに、シューっと空に光の筋が登った。

夜空の花は、ドーンと大きな音を立てて、あっという間に散った。
それでも次から次に、色とりどりの花を咲かせ、夜空を彩った。

空が花畑のようだ。
この花火は、お星様がたくさん降ってくるみたいだ。
なんて美しいんだろう…
僕とは似ても似つかない。

しばらくして、花火が終わると、きみちゃんたち家族は、帰路に着いた。

ママパパ見て見て!
きみちゃんの手袋も花火だよ。

きみちゃんは、手袋をはめた手で、
指を全部くっつけてつぶみのような形にして、
ヒュ〜ッ
と上に上げると、
ドーン
と叫んで、手をいっぱいに広げた。

まあ、ほんと。
きみちゃんの手袋も綺麗な花火ね。

きみちゃんは、その後も何度も何度も、手袋花火を繰り返した。
手袋は、あの大きくて美しい花火と同じと言われて、とても幸せだった。

手袋は思った。
冬が終わったら、また押し入れの中の生活になる。
それにいつか、きみちゃんが大きくなって、
もうこの手袋が入らなくなる日が来るだろう。

それでも、この幸せな夜は忘れない。

そして役目を終えて焼かれて空に上っていく日が来たら、空で大きな花火になりたいな。
きみちゃんの心に届く、大きな花火に。


本文ここまで

シロクマ文芸部さんの企画に参加させていただきました。
「花と手」から始まるお話です。


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